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大阪健康安全基盤研究所

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宇宙居住と微生物検査《宇宙生活における水の衛生微生物学的な安全確保》

掲載日:2020年7月22日

微生物検査による水の安全確保


私たちの健康な生活に欠かせないものとして、「きれいな水」が挙げられ、飲用水や生活用水が汚染されると健康被害につながります。汚染の原因として様々な化学物質があり、健康に影響が出ない量として基準値が定められています。また、化学物質以外に注意が必要なのは、細菌や寄生虫などの有害な微生物による汚染です。環境中の微生物の多くは肉眼で見ることはできませんが、一般的な川の水1 mlあたりには約10万~100万の細菌が存在しています。これらの微生物の多くは無害であり、水の浄化に役立っているものも多くいますが、発熱や下痢などの原因となる微生物もごくわずかにいます。そこで、生活環境課ではレジオネラ1)やクリプトスポリジウム2)等に対する検査を行い、みなさんが使われる水の衛生微生物学的な安全性を確認しています。

 

宇宙居住と微生物検査


飲用水の微生物検査は、宇宙居住においても重要になります。現状では国際宇宙ステーションに滞在できるのは宇宙飛行士のみですが、一般人の宇宙旅行ももうすぐ可能になると考えられています。さらに、月面基地や有人火星探査など、ヒトの活動範囲はより遠くの宇宙空間に拡がっていきます。宇宙居住空間は無重力の閉鎖環境であり、空気や水が循環使用されるなど、地上とは大きく異なります。このため、居住環境の管理が不適切な場合に一部の微生物が増殖し(図1)、健康に被害が発生する可能性が指摘されています3)。また、無重力状態が微生物に与える影響についても研究が進められ、これまでの宇宙実験により、サルモネラなどの一部の細菌は無重力下で病原性が高まる可能性が報告されています4)。さらに、宇宙居住においては、閉鎖空間での長期間の生活にともなうストレス等により、宇宙飛行士の免疫能が低下することが懸念されています5)。そのため、地上では問題にならない微生物が感染の原因となるかも知れません。宇宙居住空間で感染症にかかった場合、地上と同様の治療を適切に受けることは現状では困難なため、感染症に対しては予防が重要となっています。
現在、国際宇宙ステーション内で使用される飲用水は、ヨウ素などを添加することによって微生物の増殖を抑えていますが6)、味の劣化や薬品臭が生じるため、より「飲みやすい」水の供給が求められています。微生物検査を行うことによって、水の微生物学的な安全性を確認でき、薬品の添加量を減らすことが可能になります。しかしながら、微生物検査を行うためには水を採取した後(図2)、地上まで運ぶ必要があるため、検査結果を得るまでに数日を要しています。そこで、有害微生物の増殖をすぐに検知するために、「宇宙飛行士がその場で微生物を検出できるシステム」の必要性が認識されてきています3)。現在開発を進めているポータブル・マイクロ流路システム7)も宇宙居住空間で実施可能な微生物検査法につながるものとして8)、研究を続けています。


Fig1

1.国際宇宙ステーション内のパネルに発生した真菌(カビ)<薄黒い部分>
出典:https://www.nasa.gov/exploration/multimedia/highlights/2010-12A.html


Fig2

2.宇宙飛行士による国際宇宙ステーション内の水の採集。この水は地上に運ばれて微生物検査が行われる。
出典:https://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/news/microbial_ecosystems.html




参考文献


1) http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/050/20181121153857.html
2) https://www.niid.go.jp/niid/ja/cryptosporidium-m/cryptosporidium-iasrtpc/4884-tpc414-j.html
3) N. Yamaguchi, et al. 2014. Microbial monitoring of crewed habitats in space – current status and future perspectives. Microbes Environ. 29: 250-260.
4) J. W. Wilson, et al. 2007. Space flight alters bacterial gene expression and virulence and reveals a role for global regulator Hfq. PNAS. 104: 16299–16304.
5) 松本 暁子,大島 博.2008. 短期宇宙飛行による免疫系への影響: スペースシャトル飛行前後の日本人飛行士免疫系パラメーターの変化.宇宙航空環境医学.45: 17-27.
6) https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/83.html
7) http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/040/20180323143032.html
8) N. Yamaguchi, et al. 2017. Space Safety and Human Performance – 1st Edition. (Ed. T. Sgobba, B. Kanki, J.-F. Clervoy, G. Sandal) 4.4: Microbial Contamination (in Chapter 4: Spaceflight Environment), Elsevier, 129-138.




お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353