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大阪健康安全基盤研究所

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水銀について

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掲載日:2016年12月22日

水銀とは

水銀は常温・常圧で液体の唯一の金属元素であり、古くから神社の鳥居や朱肉の原料などに使用されてきました。近代になると蛍光灯、計測機器などに使用され、水銀は我々の生活に密接な関わりを持って、経済発展に大きく関与してきました。その一方、有機水銀には強い神経毒性があり、1950年代には工場排水に含まれたメチル水銀による水俣湾の汚染が発生しました。排出されたメチル水銀は魚介類にとりこまれ、その魚介類を摂食した人が水俣病といわれる神経疾患を発症しました。水銀による環境汚染や健康被害は国際的に懸念されており、人為的な排出の削減に向けての取り組みが強化されています。

水銀を含む魚介類の規制

水俣病の原因物質がメチル水銀であることが特定されたため、厚生労働省は、高濃度の水銀を含む魚介類が市場に出回ることがないよう、1973年7月に魚介類の暫定的規制値(総水銀0.4ppm、そのうちメチル水銀0.3ppm(水銀として))を定め、規制値を超えるものは、販売を中止するなどの措置をとりました。
その後、魚介類を介した水銀摂取が胎児に与える影響を懸念する報告があることから、2003年に厚生労働省は妊婦を対象に魚介類の摂取についての注意事項を公表しました。さらに、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品部会で検討が行われ、2010年には妊婦への魚介類の摂取についての注意事項が改訂されました。そこでは、注意が必要な魚種としてマグロ類などが追加され、全部で16種類の魚種について、妊婦が1週間に摂取してもよい量と回数の目安が示されました1)。また、同時に厚生労働省はこの注意事項で、魚介類は妊婦の方々の健康的な食生活の維持にとって有益であるので、魚種と回数に注意してバランス良く摂取するよう求めています。

水銀の排出源とメチル水銀生成

現在、日本をはじめとする先進国の水銀使用量は減少していますが、途上国では依然利用されています。国連環境計画(UNEP)の報告書2)によると、2010年に人為的排出源から大気へ排出された水銀の量は、世界全体で1960トンとなり、特にアジア地域からの排出が約01月02日を占めています。
UNEPの調査によると、2010年の水銀の人為的排出源は小規模金採掘や化石燃料燃焼によるものが約6割を占めています(図)。小規模金採掘では、水銀と金でアマルガム(合金)を形成させて金を回収し、その合金を加熱し水銀を蒸発させる工程で水銀が排出されます。しかし、小規模金採掘は違法ではないため規制が困難です。また、石炭は他の化石燃料と比較して約10倍量の水銀を含有し、特に排煙処理設備が不十分な火力発電所の場合、石炭燃焼により水銀が大気中へ排出されます。大気中へ排出された水銀は、最終的に海洋へ拡散し、海洋中の水銀の大部分は微生物の働きによりメチル水銀に変化します。メチル水銀は、生態系を通じて大型魚類や深海に生息する魚介類に高濃度に蓄積します。一度、環境中に排出された水銀は、深海又は湖の堆積物となるまでは環境中を循環するため、地球規模で水銀の環境中への排出を最小限にとどめる必要があります。

図. 人為的排出源からの水銀大気排出量の割合(2010年)(参考資料2より作成)
図. 人為的排出源からの水銀大気排出量の割合(2010年)(参考資料2より作成)

水俣条約3),4)

2013年10月に熊本市および水俣市で開かれた外交会議で水銀に関する水俣条約が採択されました(2016年2月現在23カ国締約)。この条約を批准した国では、水銀の一次採掘から貿易、水銀添加製品や製造工程での水銀利用、大気・水・土壌への排出、水銀廃棄物に至るまで、包括的な規制を定める義務が生じます。日本は、条約の早期発効と排出抑制対策の実施に向けた取り組みを推進するために、途上国に対し資金や技術面から支援を行っています。また、測定技術開発や共有、地域再生に取り組む現在の水俣の姿を内外にアピールし、環境に基づいた地域づくりの取り組みを一層支援していくこととしています(表)。

表 水俣条約の主な内容(環境省HPより転載)
表 水俣条約の主な内容(環境省HPより転載)

当所での水銀検査

当所では魚介類に含まれる総水銀濃度を検査しており、年間約40検体の魚介類を分析しています。さらに、暫定的規制値を超えた魚介類については、メチル水銀の検査を行います。
メチル水銀の分析法では、魚種により抽出率が違うことや発がん性のある試薬の使用、管理が煩雑な分析機器(電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフ:ECD/GC)の使用が問題視されてきました。当所では、これらの点を改善した精度の高いガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)により検査できるように検査体制を整えました。メチル水銀の分析法は、厚生労働省のガイドラインによる性能評価を行い、分析法の妥当性を確認しています。過去5年間に分析した魚介類約200検体には、暫定的規制値を超える検体はありませんでした。
今後も、日常的に摂食する魚介類中の総水銀濃度を継続的に分析し、魚介類中の水銀濃度を把握することで、食の安全・安心に貢献していきたいと考えています。

参考資料

 衛生化学部食品化学課柿本幸子

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