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大阪健康安全基盤研究所

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特定原材料「えび」および「かに」の検査を開始します

この記事は2年以上前に掲載したものであり、最新の情報と異なっている可能性があります。

アレルギー症状を引き起こす原因物質はアレルゲンと呼ばれ、食品、花粉、ダニなどに含まれることが広く知られています。食品のうち、卵、そば、落花生、乳、小麦の5品目は、摂取量や症例数、症例の重篤度などを基に特定原材料として指定され、食品での表示が義務付けられています。既に当所では、上記5品目の特定原材料について検査をそれぞれ実施してきました。

特定原材料に指定された「えび」と「かに」

日本では、魚介類の摂取量が多く、タンパク質源の約40%は魚介類に依存しています。2005年の厚生労働科学研究報告書によると、魚介類の一部である甲殻類はアレルギー原因食品として、全年齢では6%(第4位)、20歳以上では18%(第1位)を占めました。特に、重篤なアレルギー症状の誘発頻度に着目すると、甲殻類の「えび」では前述の特定原材料5品目に次いで誘発頻度が高いとされています。一方、甲殻類の「かに」は「えび」と比較して誘発頻度が低いとされていますが、「えび」に反応する患者は「かに」に対して交差反応を示すことが報告されました1)。すなわち、「かに」においても重篤なアレルギー症状を誘発する可能性が高いと考えられます。

このように、アレルギー原因食材としての「えび」と「かに」の重要性は以前から認知されており、表示の義務化について検討されてきました。しかしながら、法的規制(表示義務化)の前提条件となる正確な検査方法の開発や検証が困難であったため、特定原材料への指定が遅れていました。このうち、技術的な問題に関してはELISA(注1)およびPCR(注2)を利用した検査方法の確立により克服されました。また、規制運用上の問題に関しては、有識者による審議会で解決策が提示され、「えび」および「かに」の特定原材料指定を「望ましい」とする公式見解が2008年4月に報告されました。

上の経緯から、甲殻類の「えび」および「かに」は2008年6月に特定原材料として指定され、食品への表示が義務化されました(表示義務化に関して2年間の移行期間あり)。

検査の目的と意義

魚介類には、アレルギー症状の程度や誘発頻度に違いがあるものの、タンパク質であるアレルゲンが複数存在するとされています2)。「えび」と「かに」の検査では、主要アレルゲンとされている甲殻類トロポミオシン(注3)を検査の対象物質とし、食品における「えび」または「かに」由来トロポミオシンの有無を明らかにすることを検査の目的としています。

現在、アレルギー疾患の根本的な治療法はなく、アレルギー発症予防対策として食品に含まれるアレルゲンの除去が重要な役割を果たしています。したがって、食品中のアレルゲンの有無に関する情報は、アレルギー疾患を有する方の食品選択において非常に重要な情報となります。また、食品中のアレルゲンについて、個々に対応可能な検査体制を確立し食の安全性をさらに高めることは大きな課題となっています。そのため、特定原材料のように健康危害を起こす可能性が高い品目から検査体制を順次確立していくことが求められます。検査を適切に実施していき、健康危害の発生を未然に防ぐための情報を発信することは、当所の使命の一つであると考えます。

検査方法について

一般的に、ある特定のタンパク質を検出する場合は抗体を利用した方法が用いられ、検査においても甲殻類トロポミオシンを特異的に認識する抗体が用いられます。

検査は、まずスクリーニング検査としてELISAを用いて甲殻類トロポミオシンの定量を行い、基準値である10μg/g以上かどうか判定します(図1)。次に、基準値以上を検出した検体に対してDNAを抽出後、「えび」または「かに」を特異的に検出するPCRをそれぞれ行い、「えび」または「かに」由来のアレルゲンかどうか確認検査を行います。

図1 ELISAの原理
図1 ELISAの原理

検査の実施にあたって

これまでに報告された文献によると、竹輪や蒲鉾などの場合、「えび」または「かに」を捕食する魚を原料として使用するため、「えび」や「かに」が非意図的に混入することが報告されました1)。加えて、甲殻類トロポミオシンは加熱に対して安定であることから、加工食品においてもアレルギー症状を誘発する可能性が残ると考えられます2)。検査結果を評価する際には、こうした情報に注意を払い、また最新の情報を随時収集して検査技術の向上に日々努めることが肝要であると考えます。

得られた検査結果は、食の安全を示す根拠として社会に還元されなければなりません。今後も保健所等の関係機関との連携をより深めて食品の検査監視体制の維持発展を目指すことで、「食の安全安心」の確保に貢献できるものと考えます。

参考文献

  • 1)Sakai S et al., A survey of crustacean soluble proteins such as “shrimp” and “crab” content in food ingredients. Japanese Journal of food chemistry 15(1):12-17,2008.
  • 2)Shiomi K., Immunological properties and clinical relevance of seafood allergens. Arerugi 57(11):1083-1093,2008.

 【注】

  • 1:ELISA
    酵素免疫測定法のこと。Enzyme Linked Immunosorbent Assayの略。抗体を利用してタンパク質の定量を行う方法。食品中のアレルゲンは主にタンパク質であるため、有効な検査方法として広く用いられる。
  • 2:PCR
    ポリメラーゼ連鎖反応のこと。Polymerase Chain Reactionの略。特定のDNA配列を増幅し、特定原材料由来DNAの存在の有無を調べる方法。
  • 3:甲殻類トロポミオシン
    筋原線維を構成し、筋収縮に関与するタンパク質。

衛生化学部食品化学課 清田 恭平

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