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大阪健康安全基盤研究所

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新しく同定された食中毒病因物質、ヒラメに寄生するKudoa septempunctataによる食中毒

平成23年6月、これまで原因不明とされてきたヒラメの生食によって起こる食中毒は、Kudoa septempunctata(クドア・セプテンプンクタータ;以下、クドア:図1)という寄生虫の1種が原因であることがわかりました。

図1. クドア・セプテンプンクタータ
図1. クドア・セプテンプンクタータ

このクドアによる食中毒では患者は食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を発症しますが、幸いにも予後は良好です。ある食中毒事件の疫学解析の結果から、ヒトの最少発症クドア胞子数は約7200万個と推定されています。クドアが寄生したヒラメでは多いものになると1gあたり1000万個もの胞子が検出されますので、この場合、ヒラメの刺身を一切れ程度食べるだけで食中毒になると考えられます。しかし、同じ養殖場で飼育されたヒラメであっても1000万個以上のクドア胞子が寄生する個体がいたり、逆にクドア胞子が全く検出されない個体がいたりとクドアの寄生数にはかなりの個体差があるため、すべてのヒラメが危害を及ぼすというわけではありません。

クドアが食中毒病因物質に指定された平成23年6月から12月までの期間と平成24年の1年間に発生した食中毒を主な病因物質ごとにまとめると、クドアは平成23年では事件数が33件と第5位に、患者数が473人と第7位に位置し、平成24年でも事件数は41件と第5位に、患者数は418人と第6位に位置します。つまり、クドアによる食中毒は日本では比較的発生が多いという状況でした。しかし、事件数は平成28年に22件(患者数は126人)、平成29年に12件(患者数126人)とクドアによる食中毒は減少傾向となっています。

クドアの食中毒では、疫学情報に加え、喫食残品のヒラメからクドア胞子を検出することによって食中毒の確定診断を行いますが、実際の食中毒事件ではヒラメが残っていない事例が多くあります。そこで、私たちの研究グループではクドアを特異的に検出するリアルタイムPCR法(遺伝学的診断法の1つ)を開発し、患者糞便中のクドアDNAの有無を調べて食中毒診断に応用しています。大阪府で過去に発生したクドアによる食中毒事例では、8件中5件でリアルタイムPCR法を活用して食中毒診断が可能となりました(表1)。このように、リアルタイムPCR法を応用しなければ、食中毒の病因物質としてクドアを特定できない事例が多くあると考えられます。

表1 大阪府で発生したクドアによる食中毒

確定:喫食残品からクドアを検出
推定:喫食残品はなかったが、患者便からクドアDNAを検出

クドアによる食中毒ではこれまでにヒトからヒトへの感染は報告されていませんので、予防法としてはヒラメを中心温度75℃で5分以上加熱する、もしくは-15℃から-20℃で4時間以上凍結してクドアの病原性をなくすこと、あるいはクドア感染ヒラメを喫食しないことです。しかし、クドアの胞子は大きさが約10 µmと小さく、多数の胞子が含まれる偽シストと呼ばれる袋状の構造物(図2、矢印)も小さいため、クドアの寄生を目視で判定することはできません。ヒラメは生食を基本として流通されますので、クドア寄生ヒラメの流通阻止がクドアによる食中毒防止に最も重要となります。

図2. クドア寄生ヒラメの組織学的写真(HE染色)
図2. クドア寄生ヒラメの組織学的写真(HE染色)

日本においては、養殖段階におけるクドア保有稚魚の排除、養殖場における出荷前のモニタリング検査等のヒラメの安全性を確保する取組みが行われています。輸入養殖ヒラメについては、ある特定の養殖業者が輸出するヒラメ(活または生鮮のもの)はクドアの検査を受けることが義務づけられ、さらに、輸入時のモニタリング検査でも生食用ヒラメのクドア検査が実施されています。

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368