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大阪健康安全基盤研究所

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〈論文紹介〉食中毒原因菌の迅速測定法の開発

掲載日:2025年9月22日

 
当研究所では、「マイクロ流路デバイス」と呼ばれる小さな分析チップを使って細菌を短時間で検出する技術の開発に取り組んでいます。本記事では、食中毒の原因となる細菌を対象にした事例についてご紹介します。

これまでの取り組み

 細菌の検出には培養法が広く用いられています。この方法は、1)すでに多くの細菌で培養条件が確立されている、2)操作が容易で低コストといった特長がある一方で、培養に時間を要するという課題もあります。

そこで培養に頼らず細菌を迅速に検出するために、様々な方法が開発されています。その一つが、「蛍光染色法(細菌を光る試薬で染めて検出する方法)」です。蛍光染色法の詳細については【関連記事1】をご覧ください。

 

【関連記事1】蛍光染色法を用いた水環境中の微生物数の迅速測定《微生物を可視化する》

 

当研究グループでは、「どこでも誰でも使える検査法」を目指し、マイクロ流路デバイス(図1)を用いた検出システムを研究・開発しています。

Fig1.png 


このデバイスは、1)結果を1~2時間で得ることができる、2)装置が小型で持ち運び可能、3)必要な試料や試薬が少ないといった特長を持っています。

マイクロ流路デバイスについての詳細や、実際に冷却塔水中のレジオネラ属菌の測定を行った例については【関連記事2】をご覧ください。

 

【関連記事2】ミクロの微生物をその場で「見る」《どこでも誰でもできる微生物検査法の研究開発》

 

食中毒原因菌の検出への応用

食品表面に付着した細菌をマイクロ流路デバイスで測定・検出する場合、食品に含まれる脂肪や繊維が妨げになります。マイクロ流路デバイスの流路が数十マイクロメートルと、髪の毛ほど細いため、食品成分により簡単に詰まってしまいます。

 

そこで、食品から細菌だけを取り出す前処理を行いました。遠心分離やフィルターろ過では、流路が詰まるような大きな食品成分を取り除くことができましたが、細かな食品成分は残ったままでした。その結果、約105 cells/g(食品1gあたり10万個)程度の比較的高濃度の細菌は検出できました。

 

さらに、低濃度の細菌を検出するために、磁気分離法(細菌に結合する抗体付き磁気ビーズで分離)を使用しました。食品成分除去前は緑色の細菌以外にも赤色や茶色の食品成分が確認できますが、食品成分除去後はそのような食品成分のほとんど除去できていることが確認できました(図2)。

 Fig2.png

 

これにより、マイクロ流路デバイスを用いてレタス中の比較的低濃度である101 cells/g(食品1gあたり10個)の食中毒原因菌を検出でき、リアルタイムPCR法や培養法と同等の検出感度をもっていることが分かりました(図3)。

 Fig3.png

まとめと今後の展望

 

今回の研究により、マイクロ流路デバイスを使った迅速な食中毒原因菌のオンサイトモニタリング方法を構築することに成功しました。今後は、一度で複数の食中毒原因菌を検出できる技術の開発や、検出装置の小型化などを進めて、汎用性のある検出システムを開発していく予定です。

 

参考文献

 [1]Yusuke Tokunaga, Nobuyasu Yamaguchi. Rapid quantification of Escherichia coli O157:H7 in lettuce and beef using an on-chip staining microfluidic device. Journal of Food Safety, 40(6): e12851 (2020).
https://doi.org/10.1111/jfs.12851

 

[2]Yusuke Tokunaga, Yuki Wakabayashi, Shinya Yonogi, Mamoru Saito, Nobuyasu Yamaguchi. Microfluidic rapid quantification of Salmonella enterica serovar Typhimurium collected from chicken meat using immunomagnetic separation after formaldehyde treatment. International Journal of Food Science and Technology, 56(10): 5402-5408 (2021).
https://doi.org/10.1111/ijfs.15251

 

[3]Yusuke Tokunaga, Yuki Wakabayashi, Shinya Yonogi, Nobuyasu Yamaguchi. Rapid quantification of Escherichia coli O157:H7 and Salmonella Typhimurium in lettuce using immunomagnetic separation and a microfluidic system. Biological and Pharmaceutical Bulletin, 47(11): 1931-1936 (2024).
https://doi.org/10.1248/bpb.b24-00352

お問い合わせ

衛生化学部 食品安全課
電話番号:06-6972-1110