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大阪健康安全基盤研究所

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<論文紹介>メチル水銀分析法について

掲載日:2023年12月21日

<論文紹介>メチル水銀の新しい定量分析法を開発しました

固相抽出法を用いたメチル水銀の定量分析法開発についての論文が、英文学術雑誌“Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology”誌に掲載されました[1]

 

【世界で拡大する水銀汚染】

fig.1

海洋表層100 mの水銀量はこの100年間で2倍になり、現在も増加し続けています[2]。大気中の水銀は主にアジアから排出され、世界の排出量の約50%を占めています。排出された水銀は、気流や海流によって地球全体に拡散し、分解することなく大気中を循環します。水銀の一部は、その過程で海洋や土壌の微生物等によりメチル水銀となります。排出機構が未熟な胎児では、微量であっても母体が摂取したメチル水銀による発育影響が懸念されています。


【従来の分析法の問題点】

土壌中のメチル水銀分析法は、環境省により規定されています[3]。これらの方法は、前処理に人体への影響が懸念されるトルエンなどを使用し、操作が煩雑であり、管理が特殊なGC/ECD (電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフ)を使用するという問題点があります。そこで、これら有害な有機溶媒を使用しない簡便で迅速な分析法を構築することを考えました。

 

【構築した分析法について】

土壌・堆積物を塩酸溶液、臭化カリウム溶液、ガラスビーズを加え振とう抽出しました。抽出液を遠心し、残渣に再度抽出溶媒を加えて遠心した上清を先の上清とあわせました。抽出液をHLB固相カラム(以降、HLB)に負荷して、水洗後、10%ギ酸/アセトニトリルで溶出しました。溶出液をフェニル誘導体化処理[4]し、GC/MSで測定しました。

本分析法では、メチル水銀の疎水性の性質に着目し、逆相系であるHLBC18固相カラム(以降C18)を用いた精製手順を検討しました。試料溶液に溶解したメチル水銀溶液を両カラムに負荷したところ、C18からはメチル水銀は溶出されませんでしたが、HLBからは、約46%のメチル水銀が溶出されました。HLBにおいて、疎水性基のジビニルベンゼンのLogP(水/オクタノール分配係数)は3.59C18LogP9.18です。C18においては、HLBよりも疎水性が強いことに加え、担体のシリカゲルに残存するシラノール基にプラスの電荷をもつメチル水銀が作用し、溶出しなかったと考えられました。一方、HLBは、C18よりも疎水性が弱いために溶出したと考えられました。そこで、溶出液にギ酸を加えてメチル水銀の電荷の作用を弱めたところ、溶出率は向上しました。ギ酸の量を最適化し、溶出液は10%ギ酸/アセトニトリルとしました。

土壌・堆積物の認証標準物質であるERM-CC580(堆積物)、JLK-1(堆積物)、JSO-1(土壌)を用いて確立した分析法の妥当性を確認しました[5] 。定量下限は、土壌・堆積物では0.0075 mg/kg、基準値は15 mg/kgであり、基準適合性を十分に判断可能でした。

 

【今後の展望】

本法を用いて土壌・堆積物の実態調査を行う予定です。本法をさらに改良して、魚介類中のメチル水銀分析法を構築する予定です。

(本研究の一部は、JSPS科研費19K10592の助成を受けたものです。)

 

【参考文献】

[1] Kakimoto S, Yoshimitsu M and Kiyota K (2022) Development of a Solid Phase Extraction-Based Method for the Quantitative Analysis of Methylmercury in Soil and Sediment. Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology, 109, 332-337. doi: 10.1007/s00128-022-03547-x.

[2] United Nations Environment Programme, UNEP (2013) Global mercury assessment 2013 sources, emissions, releases and environmental transport. https://wedocs.unep.org/handle/20.500.11822/7984

[3] The Ministry of the Environment, Japan (2004) Mercury analysis manual. http://nimd.env.go.jp/kenkyu/docs/march_mercury_analysis_manual(e).pdf

[4] Watanabe T, Kikuchi H, Matsuda R, Hayashi T, Akaki K and Teshima R (2015), Performance Evaluation of an Improved GC-MS Method to Quantify Methylmercury in Fish. Food hygiene and safety science, 56, 69-76. https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi/56/3/56_69/_pdf/-char/en

[5] 厚生労働省(2008) 食品中の金属に関する試験法の妥当性評価ガイドライン. http://www.nihs.go.jp/food/_src/1634/metal_qagl.pdf?v=1599555029849

 

お問い合わせ

衛生化学部 食品安全課
電話番号:06-6972-1110