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大阪健康安全基盤研究所

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喘息における室内の亜硝酸ガスの重要性

掲載日:2023年5月2日

はじめに

多くの疫学調査により二酸化窒素(NO2)と喘息の関連が示されており、NO2は大気汚染物質として規制されています。ただし、2005年の世界保健機関(WHO)のNO2に関するガイドラインにはNO2と呼吸器症状との関連に亜硝酸ガス(HONO)が関わる可能性が記載されています(当ホームページで紹介済)1。最新のWHOのガイドライン(2021年)では、疫学調査による長期間のNO2が全死因死亡率や呼吸器死亡率に及ぼす影響を踏まえ、NO2の指針値を2005年の40μg/m3(約0.020 ppm)から10μg/m3(約0.005 ppm)に改定されています2。また、日本のNO2に係る環境基準は「1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内またはそれ以下であること」3であり、NO2の問題の重要性が伺えます。なお、HONONO2として測定されること1、我々のラットに対するHONO曝露実験結果から、未規制のHONOの方がNO2や亜硫酸ガスより喘息への影響が強いと考えられること4、及びHONOは室内汚染物質と考えられること5も既に当ホームページでご紹介しています。つまり、規制は屋外のNO2に対して行われていますが、喘息への影響の原因物質は屋外より室内の濃度が高いHONOである可能性があります。今回は、HONONO2との喘息への影響を具体的に比較するためのモルモットへのHONO曝露実験の結果6をご紹介します。

 

HONO曝露実験の計画

2016年の米国環境保護庁(EPA)の報告書には、NO2の疫学調査の不確実性は小林らのNO2動物曝露実験によって軽減されたという内容が記載されている7ことから、我々は、小林らの実験8と類似のHONO曝露実験を計画しました。小林らの実験では、4 ppmまでの複数の濃度のNO2をモルモットに12週間連続曝露し、6週目と12週目に気道抵抗(喘息への影響指標)を測定し、2及び4 ppm12週間曝露で気道抵抗の亢進を観察しています。我々の実験では、高濃度群、中濃度群、対照群のモルモットにHONO7週間連続曝露し気道抵抗を毎週測定しました6

 

結果及び考察

各群の曝露濃度を表1.に示します。HONOは一酸化窒素(NO)やNO2と平衡関係(2HONO ⇄ NO + NO2 + H2O)があり9HONO発生時にNONO2も副生成されるため、HONONONO2を測定しました。なお、これらは対照群でも少しは検出されます。


Table1

各群の気道抵抗の結果を表2.に示します。高濃度群と中濃度群の気道抵抗の平均値には大きな違いはありませんが、分散分析により曝露4週目以降でHONO濃度に依存して有意な気道抵抗の亢進が認められました。また、対照群と各HONO曝露群の個別の検定では、中濃度群では曝露1週目でも有意な気道抵抗の亢進が認められました。これらの結果は、HONONO2より低濃度、かつ、短期間曝露で気道抵抗を亢進させ得ることを示唆しています。なお、高濃度群で中濃度群より気道抵抗亢進が遅かった原因は、HONO発生時に副生成されたNONOは特定の条件下で呼吸不全の治療に使用されている)によって特に高濃度群のHONOの影響が軽減されたためかも知れません。ただし、NOのこの作用を明確にするには更なる検討が必要です。

Table2

今回の実験の結果から、特に屋内ではNO2よりHONOの方が喘息において重要と考えられます。

 

参考文献

 

  1. 「二酸化窒素と喘息の関連における亜硝酸ガスの役割」(20201030http://www.iph.osaka.jp/s012/050/030/020/08/20201030151110.html
  2. World Health Organization 2021. WHO Global air quality guidelines: particulate matter (PM2.5 and PM10), ozone, nitrogen dioxide, sulfur dioxide and carbon monoxide. WHO, Switzerland
  3. 環境省ホームページhttps://www.env.go.jp/kijun/taiki2.html
  4. 「動物実験による亜硝酸ガスの喘息への影響評価」(202122日)http://www.iph.osaka.jp/s012/050/030/020/090/20210202150832.html
  5. 「亜硝酸ガスの動物実験による最小毒性濃度」(2021712日)http://www.iph.osaka.jp/s012/050/030/020/100/20210712101504.html
  6. Ohyama, et al. 2022. Role of nitrous acid in the association between nitrogen dioxide and asthma symptoms: effect of nitrous acid exposure on specific airway resistance in guinea pigs. Environ Sci Eur. 34:112https://enveurope.springeropen.com/articles/10.1186/s12302-022-00693-1
  7. Environmental Protection Agency US 2016. Integrated science assessment (ISA) for oxides of nitrogen – Health Criteria (Final Report). US: EPA
  8. Kobayashi, et al. 1995. Concentration-and time-dependent increase in specific airway resistance after induction of airway hyperresponsiveness by subchronic exposure of guinea pigs to nitrogen dioxide. Fundam Appl Toxicol. 25:154–158
  9. Harry, et al. 1998. The dark decay of HONO in environmental (smog) chambers. Atmos Environ. 32:247–251

 

お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353