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大阪健康安全基盤研究所

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二酸化窒素と喘息の関連における亜硝酸ガスの役割

掲載日:2020.10.30

はじめに

二酸化窒素(NO2)は多くの疫学調査により喘息と関連することが示唆されており、大気汚染物質として規制されています。一方、WHONO2を含む大気質のガイドライン(20051)では、疫学調査で観察されたNO2と呼吸器症状との関連に、空気中の他の成分(有機炭素や亜硝酸ガス(HONO))が関わる可能性を示唆しています。つまり、規制はNO2に対して行われていますが、喘息や呼吸器症状に影響する原因物質はNO2ではなくHONOの可能性もあることが記載されています。しかし、HONOの疫学調査は世界でも3報しか報告されておらず2-4)、HONOの規制やNO2規制の修正はまだ行われていない状況です。数少ないHONOの疫学調査の報告の一つに私たちの小規模疫学調査の報告4)があり、その結果をご紹介します。

 

HONONO2との関係について(基礎的な情報)

物質の燃焼により1次生成される窒素酸化物には一酸化窒素(NO)やHONOがあります。NO2も窒素酸化物ですが、沿道のNO2は自動車排ガス中のNOが大気中のオゾンにより酸化された2次生成物と考えられています。また、HONONONO2と平衡関係(2HONO NO + NO2 +H2O5)があり、かつ、他の複数の反応によりこれらの窒素酸化物は相互に変化することが知られていて、HONO濃度の推移パターンはNOと類似する場合やNO2と類似する場合があります。また、HONONO2として測定されます6)が、NO2が規制された1978年には大気中にHONOが存在することは知られていませんでした7)。

 

私たちの調査

私たちの小規模疫学調査では、年間5名の小児喘息患者(7歳から10歳)を対象に9月から12月まで喘息発作の発生状況を調べ、1週間毎の室内の窒素酸化物(HONONO2NO)濃度を測定する調査を3年間実施し、各小児喘息患者における初回の喘息発作と室内の窒素酸化物との関連をU検定で調べました。また、屋外のNO2NOの濃度についても、環境測定局データを基に初回の喘息発作との関連を同様に調べました。なお、各小児喘息患者の初回の喘息発作は全て暖房を入れる前(9月と10月)に起きており、暖房を入れてからはほとんどの小児喘息患者で喘息発作は起きませんでした。

以下は、暖房を入れる前の調査期間の解析結果についてです。調査1年目は4名の小児喘息患者で喘息発作が起きました。喘息発作は、室内HONOと有意に関連し、室内NOと関連する傾向がありました(図1)が、室内NO2や屋外NO2との関連は認められませんでした。また、室内HONOと室内NOの高い相関性が4軒で観察され(0.60 < 相関係数の二乗 < 0.75)、室内NOは屋外NOより高濃度でしたので、喘息発作との関連は室内汚染が原因で、かつ、HONOの重要性が考えられました。調査2年目は2名の小児喘息患者で喘息発作が起きましたが、喘息発作と有意に関連した物質はありませんでした。ただし、この年は5軒で室内HONOと屋外NO2の高い相関性が観察され(0.58 < 相関係数の二乗 < 0.90)、この年は換気状態が良く室内HONOの多くは平衡反応により屋外NO2から生成されたと考察しました。つまり、室内HONOの発生源は屋外の窒素酸化物の場合もあることを示唆する結果でした。調査3年目は2名の小児喘息患者で喘息発作が起き、喘息発作は屋外NO2と有意に関連しましたが、屋外NO2より高濃度の室内NO2濃度と関連は認められませんでした(図2)。つまり、一部の解析結果では喘息発作とNO2の関連は認められても、矛盾が存在し、実際に喘息発作に影響する物質の検討が必要です。この年は喘息発作と室内HONOとの関連は認められませんでしたが、喘息発作が起きた家庭の1軒では屋外NO2と室内HONOの相関性が認められました(相関係数の二乗 = 0.60)。つまり、実際に喘息発作に影響する物質の候補の一つとしてHONOが考えられます。

 Fig1
Fig2

30年以上前の大気汚染学会の講演で、「疫学調査でNOと喘息との関連を示すのは簡単だが、NOは動物実験で生体影響が認められないので、疫学調査では苦労してNO2と喘息との関連を示している」といわれています。当時は個人曝露濃度や室内濃度を指標とした調査も多く、私たちの調査の初年度の結果の状況が観察されていた可能性があります。NO2の疫学調査では「NO2と喘息の関連は調査年によって認められる年と認められない年がある」ともいわれています。私たちの調査3年目の結果でも、屋外NO2と喘息発作との有意な関連は認められましたが、屋外NO2より濃度が高い室内NO2とは喘息発作との関連はなく、矛盾が存在します。

私たちの調査結果は、喘息におけるNO2の役割を疫学調査で検討する場合、HONOについても調べる必要性を示唆します。 

参考文献

  1. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/69477/WHO_SDE_PHE_OEH_06.02_eng.pdf?sequence=1
  2. van Strien RT, et al. 2004. Exposure to NO2 and nitrous acid and respiratory symptoms in the first year of life. Epidemiology. 15:471-478.       https://journals.lww.com/epidem/Fulltext/2004/07000/Exposure_to_NO2_and_Nitrous_Acid_and_Respiratory.15.aspx
  3. Jarvis DL, et al. 2005. Indoor nitrous acid and respiratory symptoms and lung function in adults. Thorax. 60:474-479. https://thorax.bmj.com/content/60/6/474
  4. M. Ohyama, et al. 2019. Association between indoor nitrous acid, outdoor nitrogen dioxide, and asthma attacks: results of a pilot study. Int J Environ Health Res. 29:632-642.
  5. M. Harry, et al. 1998. The dark decay of HONO in environmental (smog) chambers. Atmos Environ. 32:247–251.
  6. JN. Pitts, et al. 1983. Trace nitrogenous species in urban atmospheres. Environ Health Perspect 52:153–157.
  7. U. Platt, et al. 1980. Observations of nitrous acid in an urban atmosphere by differential optical absorption. Nature. 285:312–314.

 

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お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353