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大阪健康安全基盤研究所

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<論文紹介> 在宅中の子どもにおける防虫剤・殺虫剤の摂取量と室内空気質の寄与

掲載日:2024年1月30日

子どもにおける住宅内でのピレスロイド系殺虫剤および衣料用防虫剤の摂取に関する調査結果がそれぞれ環境系学術雑誌Environmental Science and Pollution Research [1]Science of the Total Environment [2] に掲載されたので、その概要について紹介させていただきます。

はじめに

私たちは、睡眠時間を含めて一日の多くの時間を住宅室内で過ごしており、在宅中に様々な化学物質を、食品やハウスダスト、室内空気を介して口や鼻から、また接触により皮膚から体内に摂取しています。子どもは成人に比較して化学物質に対して脆弱であり、これら化学物質の長期的な摂取による健康影響が懸念されます。化学物質に起因する健康被害を防止するためには生活環境下でのこれら化学物質の摂取量に関する知見は非常に重要ですが、室内空気中の化学物質など主に非意図的に摂取されるものについてはその実態が十分把握されていません。我々は、住宅室内で使用される衣料用防虫剤と、近年使用量が増加しているピレスロイド系殺虫剤に着目し、在宅中の子どもにおけるこれらの体内摂取レベルを明らかにするとともに、彼らの住宅室内の空気質が各化学物質の摂取量にどの程度寄与しているかについて調べました。

調査の方法

大阪府内に在住の小学生と中学年132名を対象として調査を実施しました。子どもの自宅において空気中の衣料用防虫剤およびピレスロイド系殺虫剤を捕集するとともに、子どもの尿を朝起床時において採取しました。空気中各化学物質および化学物質の各尿中代謝物を測定し、空気中濃度から吸入による各化学物質の一日摂取量を、また尿中代謝物量から各化学物質の一日総摂取量(鼻、口、皮膚からの摂取量の総和)を推定しました(図1)。さらに各化学物質について、両者の比率から室内空気からの摂取量の割合(室内空気質の寄与率)を算出しました。

Fig1 

1. 調査の概要

 

結果

防虫剤のp-ジクロロベンゼン、ナフタレンおよびプロフルトリン、殺虫剤のトランスフルトリン、メトフルトリンおよびビフェントリンの代謝物の尿中からの検出率が高く(子どもの40%以上)、これらの化学物質による体内汚染が日本の子どもにおいて広範に及んでいると考えられました(図2)。プロフルトリン、トランスフルトリンおよびメトフルトリンは、特徴的な共通の化学構造を有しており、近年日本の住宅内において使用量が急増しているピレスロイド剤です。住民におけるこれらの尿中代謝物に関する報告は世界的にも限られていますが、今回の調査におけるこれらの代謝物の尿中からの検出率と濃度は、過去の日本の子どもにおける調査結果よりも共に高い値でした。
p-ジクロロベンゼンの代謝物濃度は欧米諸国の子どもよりも高値でした。算出したp-ジクロロベンゼンの一日総摂取量は、4%の子どもにおいてその耐容一日摂取量(人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への有害影響がないと推定される1日当たりの摂取量)を超過しました。また、p-ジクロロベンゼンの室内空気中濃度は諸外国に比較して高く、厚労省の指針値(人がその濃度以下の曝露を一生涯受けたとしても、健康への有害な影響を受けないと判断される値)を超過する住宅も見られました。p-ジクロロベンゼンの一日総摂取量への住宅室内空気質の寄与率が8割を超過する子どもが5%ありました。同様に、トランスフルトリン、プロフルトリン及びナフタレンについても、それぞれその寄与率が6割を超過する子どもがいました。

 Fig2

2. 子どもの尿中からその代謝物が高頻度で検出された防虫剤・殺虫剤の化学構造式

 

まとめ

 p-ジクロロベンゼンは、我が国の子どもへの健康影響の観点から着目すべき住宅内有害化学物質であり、住宅内の空気質がその総摂取量に大きく寄与する場合があることから、室内空気中濃度の低減化が重要であると考えられました。子どもにおけるプロフルトリン、トランスフルトリンおよびメトフルトリンによる体内汚染は今後さらに進行する可能性が高く、これらの室内空気汚染と子どもの曝露について継続して調査する必要があると考えられます。

 

参考文献

[1] Yoshida T, Mimura M, Sakon N: Environ. Sci. Pollut. Res. 28 (15): 19310–19324 (2021). 
https://doi.org/10.1007/s11356-020-12060-9

[2] Yoshida T, Mimura M, Sakon N: Sci. Total Environ. 783: 146988 (2021). https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.146988

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衛生化学部 生活環境課
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