コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 生活環境 > <論文紹介>大阪府内浄水場におけるフィプロニルおよびフィプロニル分解物4種の実態調査¹⁾

<論文紹介>大阪府内浄水場におけるフィプロニルおよびフィプロニル分解物4種の実態調査¹⁾

掲載日:2023年11月7日

はじめに

フィプロニル(FIP)は水稲用農薬に使用されている殺虫剤2)であり、20234月現在、水道水質管理目標設定項目の対象農薬リストに掲載(目標値0.0005 mg/L0.5 µg/L))されています3)FIPは加水分解や光分解、生物分解によりフィプロニルスルフィド(FIP-SFI)、フィプロニルデスルフィニル(FIP-DSF)、フィプロニルスルホン(FIP-SFO)およびフィプロニルデトリフルオロメチルスルフィニル(FIP-DTFMS)等の分解物を生成することが報告4, 5)されており、FIPと同等あるいはそれ以上の毒性を有すると懸念されている分解物もあります4)。しかし、水質管理目標設定項目の測定対象は原体のFIPだけであり、分解物の水環境中における存在状況や挙動に関する報告は少ないのが現状です6)。そこで本研究では、水環境中におけるFIPおよびそれらの分解物4種の検出状況を明らかにすることを目的として、大阪府内の浄水場において実態調査を行いました。対象としたFIPおよびFIP分解物4種の構造式を図1に示しています。

Fig1

1FIPおよびFIP分解物4種の構造式



研究方法

分析は、固相抽出-液体クロマトグラフ-質量分析法(図2)で行い、水道水および河川水を用いた添加回収試験を実施しました。試料量は500 mLとして、原水ではガラス繊維ろ紙でろ過した後、浄水ではアスコルビン酸ナトリウムで残留塩素を消去した後、それぞれに酢酸0.5 mLを加え、分析試料としました。アセトニトリルと精製水各10 mLで活性化したポリマー系の固相(HLB)に、試料を流速10 mL/minで通水しました。その後、固相に窒素ガスを2 L/minで15分間通気して脱水し、通水方向とは逆からアセトニトリル5 mLで溶出しました。溶出液は窒素吹付により0.5 mLまで濃縮し、LC-MS/MSに供しました。

 Fig2

2分析フロー


  

結果

【分析精度】添加回収試験の結果、厚生労働省が示す妥当性評価ガイドライン7)の目標を満たした0.00050 µg/LFIPおよび各FIP分解物の定量下限値としました。夏季(6月)および冬季(1月)における、原水と浄水の実態調査の結果を図3に示します。


【原水について】夏季では、FIPは5か所(濃度:0.00058~0.0025 µg/L)、FIP-SFIは5か所(濃度:0.00089~0.0041 µg/L)、FIP-DSFは3ヶ所(濃度:0.00097~0.0027 µg/L)、FIP-SFOは6か所(濃度:0.00057~0.0018 µg/L)からそれぞれ検出されました。冬季では、FIPは2か所(0.00055または0.00057 µg/L)、FIP-SFIは2か所(濃度:0.00098または0.0010 µg/L)、FIP-SFOは3か所(濃度:0.00057~0.00098 µg/L)からそれぞれ検出されました。

【浄水について】夏季ではFIP-DSF(0.00052 µg/L)が、冬季ではFIP-SFI(0.00081 µg/L)が、それぞれ1か所の浄水場のみから検出されました。浄水では原水と比較して検出されるFIPおよび各FIP分解物の種類と量が大幅に減じる傾向が認められました。

【FIPおよびFIP分解物について】FIPおよびFIP分解物を合算した最大検出濃度(原水:0.012 µg/L、浄水:0.00085 µg/L)は、FIPの目標値(0.5 µg/L)と比較しても、十分に低い値でした。検出地点数が多かった夏季の原水について、FIPとの合算値に占める分解物の割合を比較した結果を図4に示しています。夏季にFIPもしくは分解物が検出された6地点のFIPの割合は0~39%であったのに対し、分解物全体の割合は61~100%と、原体であるFIPよりも分解物が占める割合が多いことがわかりました。

 Fig3

3FIPおよびFIP分解物の検出状況


 Fig4
4夏季原水におけるFIPおよびFIP分解物の割合1)
(分解物は、FIPの濃度に換算し、総FIP濃度を算出)

 

まとめ

FIPおよびFIP分解物について、大阪府内浄水場における実態調査を行った結果、原水からFIP、FIP-SFI、FIP-DSFおよびFIP-SFOが、浄水からFIP-SFIおよびFIP-DSFが検出されました。浄水では原水と比較して、FIPおよび各FIP分解物の濃度は減少しており、既存の浄水処理で除去されていることがわかりました。

FIPおよびFIP分解物を合算した最大検出濃度を原体であるFIPの目標値と比較しても十分に低い濃度でした。しかし、FIP分解物が占める割合の方が多かったことから、原体だけでなく分解物もモニタリングする必要があると考えられます1)

 

引用文献

  1. 小池真生子、長谷川有紀、高木総吉、吉田仁、安達史恵、小泉義彦、中島孝江、竹中凜代、山口進康:大阪府内浄水場におけるフィプロニルおよびフィプロニル分解物4種の実態調査、水道協会雑誌、91(11) 2-9. (2022)
  2. 日本植物防疫協会:農薬ハンドブック2021年版(東京)
  3. 厚生労働省医薬・生活衛生局水道課:別添4水質管理目標設定項目の検査方法(平成151010日付け健水発第1010001号〔最終改正令和5324日)
  4. Gunasekara, A. S., Truong, T., Goh, K. S., Spurlock, F., Tjeerdema, R. S. : Environmental fate and toxicology of fipronil., J. Pestic. Sci., 32, pp. 189-199 (2007)
  5. 古関豊和、土田大輔、松本源生、石橋融子:環境水中のフィプロニルとその代謝分解物の実態調査、全国環境研会誌、43(4) 174-179 (2018)
  6. 森智裕、谷口佳二、小田琢也:フィプロニルとその分解物の水源実態調査及び浄水処理における反応性、水道協会雑誌、90(3) 2-10 (2021)
  7. 厚生労働省:水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン(平成2496日付け健水発09061号別添)(最終改正:平成291018日付け薬生水発10181号)

お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353