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大阪健康安全基盤研究所

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農産物に残留する農薬は安全なの?

掲載日:(2020年7月9日)

前回は、残留農薬の検査方法について紹介しました。(大安研HP:検査はどのように行なっているの?(残留農薬編))

本稿では、国内において残留農薬の基準値(以下、基準値)がどのように検討されているのか、紹介したいと思います。

 

残留農薬とは

農薬は、農産物を効率的に生産するために重要な役割を果たしています。現在国内で登録されている農薬は、その目的に応じて殺虫剤、殺菌剤あるいは除草剤などに分類され、使用方法(濃度、散布時期、回数など)等は、農薬取締法で定められています。

農産物に散布された農薬は、降雨や散水による流出、太陽光や微生物による分解、蒸発などにより減少しますが、ごく一部は収穫された農産物にも残留することがあり、これを残留農薬といいます。食品の安全性を確保するために、食品衛生法で残留農薬の基準値を設定しリスク管理を行っています。

 

基準値の設定までのプロセス

基準値は、中長期的な暴露と短期的な暴露の2つの側面からリスク評価した上で設定されます(図1)。


ADI,ARfDの算出方法

 

1長期的暴露による影響(図2)

<一日摂取許容量の算出>

ヒトへの農薬の影響(毒性)は、先ず複数の動物実験などから多面的に評価されます(毒性試験*)。各毒性試験のうち、中長期にわたる影響を評価した結果、その農薬による有害な影響がないと考えられる投与量を中長期試験の無毒性量とします。各試験結果で最も低い無毒性量に、ヒトに適用するための安全係数として100分の1を掛けて、「一日摂取許容量(ADI)」を算出します。一日摂取許容量とは、“一生涯にわたり摂取した場合の安全性“を考慮した量です。

 

<農薬一日摂取量の算出>

次に作物に残留する濃度を調べる試験(作物残留試験)を行い、平均的な残留濃度を求めます。試験で得られた残留濃度、国際基準及び諸外国で決められている基準値などを参考にして、農産物毎に残留基準値案を定めます。この残留基準値案と一日平均摂取量(国民健康・栄養調査などから得られた摂取量)を掛け合わせて、一日に摂取すると予想される農産物毎の農薬摂取量を算出します。様々な農産物からの農薬摂取量を合計すると「推定される農薬の一日摂取量」が算出されます。

 

<長期暴露のリスク評価>

最終的に、対象農薬の「推定される農薬の一日摂取量」と毒性試験から算出された「一日摂取許容量」を比較し、前者が後者の80%以内**であれば、基準値の案は妥当とされます。

上記の一日摂取許容量からの決め方は、基準値相当の農薬が残留した農産物を平均的に摂取した場合のヒトへの影響を想定しています。これは、一生涯にわたる長期暴露の指標となります。


ADIに基づくリスク管理

   

*毒性試験:農薬登録を申請するためには農薬取締法に基づき、農薬登録申請書、農薬の安全性その他の品質に関する試験成績を農林水産大臣に提出する必要があります。その中に毒性試験の成績が含まれます。毒性試験には、急性毒性を調べる急性経口毒性試験や中長期の影響を調べる90日間反復経口投与毒性試験、発がん性試験などの複数の試験が含まれます。(詳しくは、以下の参考資料5をご参照ください)
**一日摂取許容量の80%以内を目標:食品以外に飲料水や室内環境から農薬を摂取する可能性を考慮しています(飲料水と室内環境からの摂取量を20%の寄与とみなします)。


 

残留農薬のリスク分析について、これまでは、長期暴露(基準値相当の農薬が残留した農産物を平均的に摂取した場合のヒトへの影響)のみが想定されてきました。しかしながら、実際のわたしたちの食生活は変化に富んでいるため、実際に摂取する量は大きく変動すると考えられます。そこで、ある農産物を一時的に平均よりも多く摂取した場合の影響(摂取後24時間以内、あるいは直後の)も評価する指標(短期暴露)も導入されています。

 

2短期暴露による影響(図3)

<急性参照容量の算出>

前述の毒性試験の結果の中から、短期暴露の影響を調べる試験(急性経口毒性試験など)の結果を抽出します。中長期試験と同じく、短期試験における無毒性量を算出します。動物実験の結果をヒトに適用するため、各試験結果で最も低い無毒性量に安全係数として100分の1を掛けて、「急性参照用量(ARfD)」を算出します。これは、一時的に農薬を多く摂取した場合の安全性を考慮した値です。

<最大摂取量の算出>

短期暴露による評価では、作物残留試験での最大残留濃度を用います。また、摂取量に関しては、日本人のおよそ最大量(一日最大摂取量)を用います。両者を掛け合わせることによって、その農薬と農産物の組み合わせにおける、農薬の最大摂取量を見積もることができます。すなわち、農薬の一時的な最大摂取量と捉えることができます。

<短期暴露のリスク評価>

一時的な最大摂取量と急性参照用量を比較し、前者が後者を超えない場合、その農薬の適用方法(その農産物への散布方法)は適切と考えられます。


 ARfDに基づくリスク管理

 

 以上の過程を経て、農産物中の農薬の残留基準値が厚生労働省により設定されています。

なお、食品衛生法では、基準値を超える農薬が残留している農産物の販売及び輸入を禁止しています。

 

参考資料

1厚生労働省ホームページ:残留農薬

2.同:急性参照用量(ARfD)を考慮した食品中の残留農薬基準の設定について

3.同:国民健康・栄養調査報告

4.農林水産省ホームページ:農薬の基礎知識

5.農薬の登録申請において提出すべき資料について(平成31329日付け30消安第6278号農林水産省消費・安全局長通知)

6.厚生労働省科学研究費補助金食品の安全確保推進研究事業

「食品摂取量の調査方法及び化学物質の暴露量推定方法の研究」(平成27年度総括・分担研究報告書)

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衛生化学部 食品化学2
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