コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 食の安全 > 食品に含まれるヒスタミンについて

食品に含まれるヒスタミンについて

掲載日:2022年7月29日

はじめに

私たちは日々の食事から食品に含まれるアミン類を摂取しています。食品に含まれるアミン類は、食品の原料である動植物の代謝で生成されるものと、食品の製造工程や保管の際に微生物の働きでアミノ酸から生成されるものがあります。食品に含まれるアミン類のうち、ヒトの健康に影響するものとして知られているのがヒスタミンです。

ヒスタミンによる食中毒

日本国内では、毎年ヒスタミンによる食中毒が報告されています(表1)。サバ、マグロ、イワシなどの赤身の魚には、アミノ酸の一種であるヒスチジンが多く含まれています。これらの魚類を常温で放置するなどの不適切な管理の結果、ヒスタミン産生菌(例. Morganella morganii)が増殖し、ヒスチジン脱炭酸酵素の働きでヒスタミンが生成されます(図1)。ヒスタミンを多く含む食品を食べることで、アレルギー様の症状を呈することがあります。通常、食後数分~30分くらいで顔面紅潮、口部灼熱感、発疹、頭痛などを発症しますが、たいてい6~10時間で回復します。重症になることは少なく、抗ヒスタミン剤の投与により速やかに治癒します。

表1 国内におけるヒスタミンによる食中毒の発生状況
発生年      件数     
    患者数    
  平成29年   8 74
平成30年 20 355
令和元年 8 228
令和2年 13 219
令和3年 4 81

出典: 厚生労働省ホームページ 4.食中毒統計資料


ヒスタミンの生成過程
図1 ヒスタミンの生成過程

国内外の規制状況

海外では食中毒の発生防止に限らず、加工段階の鮮度や細菌汚染の指標とする目的で、魚類に含まれるヒスタミンの残留基準が設定されています。国連食料農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が設立したFAO/WHO合同食品規格委員会(Codex委員会)は、国際的な食品規格であるCodex規格を定めており、魚類及び水産製品の一部についてヒスタミンの基準値を設定しています。腐敗基準は鮮度低下の指標、衛生・取扱基準は安全性の指標となります(表2)。

表2 国際的な食品規格(Codex規格)におけるヒスタミン基準値
品目
(Codex規格番号[最終更新])
ヒスタミン基準値
腐敗基準 衛生・取扱基準
急速冷凍された魚(骨付き及び骨抜き)
(CXS 36-1981 [2017])
  100 mg/kg   200 mg/kg
マグロ類及びカツオの缶詰 (CXS 70-1981 [2018])
イワシ及びイワシ製品 (CXS 94-1981 [2018])
魚類の缶詰 (CXS 119-1981 [2018])
急速冷凍された魚の切り身ブロック、魚のすり身、
及びそれらの混合物 (CXS 165-1989 [2017])
急速冷凍されたフィッシュスティック、魚の切り身
(パン粉及び衣付き)(CXS 166-1989 [2017])
急速冷凍された魚の切り身 (CXS 190-1995 [2017])
塩漬けアンチョビーの煮干 (CXS 236-2003 [2003])
塩漬けニシン及び塩漬けスプラット
(CXS 244-2004 [2018])
魚醤 (CXS 302-2011 [2018]) - 400 mg/kg

出典: 農林水産省ホームページ 食品安全に関するリスクプロファイルシート


日本では、食品に含まれるヒスタミンの残留基準はありませんが、魚類の加工・流通過程を低温状態にして細菌が増えないようにすることで、ヒスタミンによる食中毒の発生を防止することができます。食品衛生法では、生食用の鮮魚について「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)の中で『生食用鮮魚介類は、清潔で衛生的な容器包装に入れ、10℃以下で保存しなければならない』と保存基準が定められています。なお、ヒスタミンによる食中毒の発生時には、不衛生食品の販売などの禁止を定めた食品衛生法第6条に基づく措置が講じられます。

農林水産省は、平成23年度から優先的にリスク管理を行うべき有害物質としてヒスタミンを選定しています。水産製品および発酵食品のヒスタミン含有量の実態調査を実施し、生産・加工流通段階におけるリスク管理措置を公開するなど、食品に含まれるヒスタミンの低減に向けた取組を進めています。

ヒスタミンの分析法

食品中のヒスタミン分析法は、食品から抽出したヒスタミンを蛍光試薬で標識し、高速液体クロマトグラフで測定する方法(蛍光誘導体化HPLC法)が一般的ですが、酵素法やELISA法を用いた市販キットも販売されています。当課では、検査対象の魚介類加工品に含まれる脂質やアミノ酸が測定の妨害となるため、固相抽出カートリッジカラムを用いて試料抽出液を精製した後、蛍光誘導体化HPLC法により測定しています。

おわりに

ヒスタミンによる食中毒は、魚類を取り扱う際に次のことを注意することで予防できます。
1.新鮮な魚を購入し、古くなったら食べないこと(加熱してもヒスタミンは分解されません)。
2.購入後すぐに冷蔵、冷凍で保存すること。ただし、冷蔵庫での長期保存は避けること。
3.調理するときに、長時間室温に放置しないこと。
4.冷凍、解凍を繰り返さないこと。
5.口に入れたときに、ピリピリするなどの異常を感じたときは食べないこと。

大阪健康安全基盤研究所では、行政機関からの依頼を受け、食品に含まれるヒスタミンの検査を実施しています。引き続き検査を実施するとともに、食の安全にかかる適正な情報発信を進めてまいります。

参考資料

1. 内閣府食品安全委員会ファクトシート
https://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/210330histamine.pdf
2. 農林水産省食品安全に関するリスクプロファイルシート
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/pdf/121205_histamine.pdf
3. 厚生労働省4.食中毒統計資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html#j4-2
4. 厚生労働省生食用鮮魚介類の保存基準
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000126765.pdf
5. 農林水産省リスク管理(問題や事故を防ぐ取組)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_manage/index.html
6. 厚生労働省ヒスタミンによる食中毒について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130677.html
7. 公益社団法人日本食品衛生協会食品衛生検査指針理化学編2015 p784-795
8. 粟津薫, 野村千枝, 山口瑞香, 尾花裕孝, タンデム固相抽出を用いた魚肉中ヒスタミン分析法の検討, 52, p199-204, 2011
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi/52/3/52_3_199/_article/-char/ja/

お問い合わせ

衛生化学部 食品化学1
#食品化学1課は,20231月より食品安全課と食品化学課に再編されましたので,
当記事へのお問い合わせはメールでお願いいたします。