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大阪健康安全基盤研究所

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世界初の証明!- egc2に関連するブドウ球菌の新型毒素は食中毒を引き起こす-

掲載日:2022年11月15日

1.ブドウ球菌が作り出す毒素「エンテロトキシン」

ブドウ球菌食中毒は、ブドウ球菌が食品中で増えるときに作り出す「エンテロトキシン」と呼ばれる毒素を、食品と一緒に食べることで発症します。一番の特徴は、食後24時間後に起こるはげしい嘔吐です。ブドウ球菌のエンテロトキシンは、消化管の肥満細胞からヒスタミンを放出させて嘔吐を引き起こします。主な原因食品は、米飯類、弁当や乳加工品で、調理人の手指についた菌が汚染源となることが多いです。国内では年間約20事例が発生しています。
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2.新型エンテロトキシンと食中毒

エンテロトキシンは、抗原性の違いによりAE5型に分類され、それらは古典型エンテロトキシンとして知られています。近年、遺伝子解析の技術が発達するにつれて、GZ型(F型は欠番)、SE01SE02SE26SE27の存在も確認されており、それらは新型エンテロトキシンと呼ばれています。古典型を含め、現在、29種類のエンテロトキシンが報告されています。一方、すべてのエンテロトキシンが食中毒を引き起こすのかは不明です。新型エンテロトキシンの内、数種類はサルなどの霊長類に嘔吐を引き起こすことが実験で証明されていますが、実際に食中毒を引き起こすのは、ごく少数の事例(H型)を除き、古典型エンテロトキシンがほとんどです。国内においてもA型エンテロトキシンによる事例が最も多く発生しています。

3.新型エンテロトキシンの関与が疑われる食中毒

私たちの研究グループは、2016年に古典型エンテロトキシンが検出されないブドウ球菌食中毒事例を経験しました。介護老人保健施設で行われた昼食会の参加者が、食後約24時間に嘔吐などの胃腸炎症状を発症し、当研究所において原因究明のための細菌検査を行いました。その結果、患者便、患者の喫食残品、調理人の手指、調理場から共通して黄色ブドウ球菌が検出されました。検出された菌は同一の遺伝子型(いわゆる菌の指紋)を示し、また、全ゲノム解析より新型エンテロトキシンの遺伝子を同時に6個(G型、I型、M型、N型、O型、U型)持っていることが分かりました(図1)。
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図1.新型エンテロトキシンの遺伝子構造.食中毒事例から検出された6個の新型エンテロトキシンはEnterotoxin Gene Cluster 2(egc2)と呼ばれるグループ(遺伝子群)を形成し、染色体上に並んでコードされています。これらの遺伝子は同時に発現し、多種類の毒素が同時に産生されると考えられています。エンテロトキシン遺伝子の多くは、特定の遺伝子群やプラスミド、プロファージなどの「可動性遺伝因子」にコードされており、それらが菌株間を移動することでブドウ球菌は毒素産生性を獲得します。

4.新型エンテロトキシンが作り出されることを証明

新型エンテロトキシンが食中毒を引き起こしたかどうかの検証には、菌にその遺伝子が存在するのかを確認するだけでは不十分で、実際に毒素が作られていることを証明する必要があります。そこで、私たちは北里大学獣医学部小野准教授らと共同で、検出された菌が作り出す新型エンテロトキシンおよび、患者喫食残品中に含まれる新型エンテロトキシンを「サンドイッチELISA法」という方法を用いて定量しました(G型、I型、M型、N型の4種類)。その結果、食中毒を引き起こすのに十分な量の新型エンテロトキシンが、菌培養液および、患者喫食残品から検出されました。
中でも、患者喫食残品の1つである「ちらし寿司」からは、1gあたり82ngの新型エンテロトキシンが検出されました(4種類の総和)(図2)。ヒトでの発症毒素量は100ng~数μgと推測されているので、ご飯茶碗1杯分のちらし寿司(約150g)を食べた場合、約12μgの新型エンテロトキシンを摂取したことになります。
これは、食品中で新型エンテロトキシンが作られて、それを食べた人が発症した=新型エンテロトキシンが食中毒を引き起こした、ことを証明する最も強い証拠になります。

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図2.患者喫食残品、ちらし寿司中の新型エンテロトキシン量.3回測定した平均値±標準偏差

5.おわりに

本研究は、実際に発生した食中毒事例をモデルケースとして、egc2に関連する新型エンテロトキシン量を測定し、食中毒との関連を明らかにした、世界で初めての報告です。発生要因は、調理人手指を介した食品の汚染と、その後の不適切な食品保存管理によると考えられました。

ブドウ球菌食中毒の予防において、「食中毒予防の三原則」のうち、エンテロトキシンは熱に強いため、一旦食品中で作り出されたものを「やっつける」のは困難です。よって、菌を「つけない」、「ふやさない」ことが特に大事です。おにぎりを握るときはラップなどを使うことをお勧めします。手洗いや切傷などのある手で食材を触らないことも大切です。

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本研究成果の詳細は、下記の報文をご覧ください。

1.Umeda K, Nakamura H, Yamamoto K, Nishina N, Yasufuku K, Hirai Y, Hirayama T, Goto K, Hase A, Ogasawara J. Molecular and epidemiological characterization of staphylococcal foodborne outbreak of Staphylococcus aureus harboring seg, sei, sem, sen, seo, and selu genes without production of classical enterotoxins. Int J Food Microbiol. 2017 256:30-35. (外部サイトにアクセスします)

2.Umeda K, Ono HK, Wada T, Motooka D, Nakamura S, Nakamura H, Hu DL. High production of egc2-related staphylococcal enterotoxins caused a food poisoning outbreak. Int J Food Microbiol. 2021 357:109366. (外部サイトにアクセスします)

 参考資料

Hu D-L, Li S, Fang R, Ono HK. Update on molecular diversity and multipathogenicity of staphylococcal superantigen toxins. Animal Diseases. 2021 1: 7.

食中毒|厚生労働省 (mhlw.go.jp) (外部サイトにアクセスします)

 

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368