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大阪健康安全基盤研究所

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細胞内寄生菌であるリステリア・モノサイトゲネスの病原性について研究しています

掲載日:2019年12月24日

 リステリア・モノサイトゲネスは通性細胞内寄生菌であり、本菌に汚染された喫食前に加熱を要さない調理済み食品(Ready-To-EatRTE食品)をヒトが摂食すると感染するとされています。本菌にヒトが感染した場合、免疫抑制状態の方で髄膜炎や敗血症が、妊婦の方で死産や流産が引き起こされます。本菌は、ヒトに摂食され小腸に到達すると、腸管上皮細胞上のE-カドヘリンにインターナリンAInlA)介して接着し、受動的に細胞内に侵入します。しかし、侵入した(貪食された)菌は細胞膜由来の食胞に封入されてしまうため、食胞から脱出しないと細胞質内で増殖ができません(図1)。そこで、本菌はリステリオリシンOLLO)、とホスホリパーゼPlcAおよびPlcBを分泌して食胞膜に孔を開けて脱出します。細胞質中に脱出できた菌はそこで増殖し、その際に菌体表面に発現されたActAが細胞質中のアクチンの重合を誘導してコメットテイルと呼ばれる推進装置を構築し、菌は細胞質内を自由に運動できるようになります。そして、運動して細胞膜まで到着すると、細胞膜から突出し二重の食胞膜に包まれつつ隣接細胞へ侵入します。これを繰り返して細胞間を伝播(cell-to-cell)し、やがてM細胞のような免疫細胞を介して肝臓へ到達・増殖後全身へ広がります。

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当所では様々な食品から分離した本菌の病原性の評価を目的に、本菌の感染の第一段階である腸管上皮細胞におけるcell-to-cell感染機序について研究しています。これまでの研究では、食品由来株のInlAとその調節因子PrfAについて解析しました。その結果、PrfAInlALLOPlcAPlcBActAを含む多くの病原因子の発現を促進する調節因子ですが、鶏肉由来7株のprfAで終止コドンを含む5塩基の欠損が見つかりました。このPrfA変異株は30℃で培養した場合は他の食品由来株と同様の細胞侵襲性を示しましたが、20℃で培養した場合は有意に高い侵襲性を示しました。今回の研究では、このPrfA変異株も加えた保有菌株について食胞からの脱出能を比較するため、脱出に関与するLLOPlcAPlcBの活性測定およびヒト結腸癌由来細胞株Caco-2を用いての細胞内初期増殖能の検証を実施しました。

 

LLOPlcAPlcB活性の由来別および血清型別の比較を図2に示しています。食品由来株と臨床由来株において3酵素の活性に差は見られませんでした。ただし、PrfA変異株では3酵素の活性はほとんどありませんでした。血清型による比較では、LLOに関しては血清型間で活性の差は見られませんでしたが、PlcAPlcBに関しては血清型1/2b株での酵素活性が著しく低く、強病原性とされている血清型4b/4e株でもその活性は低い値でした。細胞内初期増殖能においても食品由来株と臨床由来株で増殖能に差は見られませんでしたが、血清型間ではPlcAPlcB活性が著しく低い血清型1/2b株が高い増殖能を示しました(図3)。食胞膜に孔を開ける過程ではLLOの作用が大きく、PlcAPlcBは補助的に働くとの報告がありますが、今回の結果はその考察に合致するものであると考えられます。

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本研究成果は、科学雑誌「Journal of Applied Microbiology」の20183月号に掲載されました。

 
Kanki M., Naruse H., Kawatsu K. (2018) Comparison of listeriolysin O and phospholipases PlcA and PlcB activities, and initial intracellular growth capability among food and clinical strains of Listeria monocytogenes. J. Appl. Microbiol. 124:899-909

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微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368