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大阪健康安全基盤研究所

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危険です! お肉の生食!

この記事は2年以上前に掲載したものであり、最新の情報と異なっている可能性があります。

掲載日:2016年3月4日

牛や豚、鶏などの動物は、動物には無害なのに人間には下痢や腹痛などの症状を引き起こす菌やウイルスを体内に保有していることがあります。そのため、新鮮で見た目がきれいなお肉であったとしても、生のまま、あるいは不十分な加熱で食べることは、食中毒になる危険性を伴います。

平成23年10月に生食用として提供される牛肉の規格基準が制定され1)、翌年7月から生食用の牛レバーの販売・提供が禁止されました2)。これに引き続き、昨年の6月には豚の肉やレバーなどの内臓を生食用として販売・提供することが禁止されました3)。どうして、次々とお肉の生食が規制されるようになったのでしょうか?

平成23年10月以前にも、生食用として販売・提供される食肉には衛生基準目標(ガイドライン)が定められていましたが4)、これには法的強制力がなく、罰則もありませんでした。そんな中、平成23年4月から5月にかけて焼肉チェーン店で、男児ら5名が死亡した集団食中毒事件が発生しました。事件の調査で原因となった食事は腸管出血性大腸菌に汚染された「牛のユッケ」であることがわかりましたが、これは生食用食肉のガイドラインに従って加工されていませんでした。そのため、この事件をきっかけに法的強制力のある規格基準が制定され、非常に厳しい衛生管理のもとでのみ、生食用食肉の提供を可能とすることになりました。腸管出血性大腸菌やサルモネラなどの食中毒菌は主に肉の表層を汚染することから、新たな基準では肉塊の表面を加熱殺菌し、肉塊の内部を生食用として提供する方法などについて細かく定められました。

一方、牛のレバー(肝臓)については、食中毒菌は肝臓の表層だけでなく、肝臓の内部に張り巡らされた胆管を通じて肝臓全体を汚染します。実際、牛の肝臓の食中毒菌の汚染実態を調べると、肝臓内部から腸管出血性大腸菌やカンピロバクターが検出されています。これらの食中毒菌を肝臓から除去する有効な方法は現在ありません。そのため、平成24年7月から牛レバーを生食用として販売・提供することが禁止されました。
ところが、牛レバーを生食用として販売・提供することを禁止して以降、一部の飲食店において豚レバーを生食用として提供するケースがみられました。

豚の肉や内臓は健康被害を引き起こすリスクのあるE型肝炎ウイルスや食中毒菌、寄生虫により汚染されていることがあります。特に感染すると重篤な肝障害を引き起こすことがあるE型肝炎ウイルスは臓器や筋肉中に潜んでいるため、臓器や肉塊の内部まで汚染されている可能性があり、加熱以外にリスク低減策がありません。そのため、豚の肉や内臓(レバーなど)を生食用として販売・提供することが平成27年6月から禁止されました。
それでは、鶏肉は、どうでしょうか?現在のところ、法律で鶏肉の生食は規制されていません。それなら、生で食べても良いと思いますか?それは大きな間違いで、鶏肉の生食も牛肉や豚肉の生食と同様に食中毒を引き起こすリスクを持っています。

近年の食中毒発生状況(全国)を図に示しました。四角で示すカンピロバクター食中毒が毎年多く発生していることがわかります。平成27年においてもその傾向は変わらず、256件(速報:平成28年1月4日までに厚生労働省に報告のあった件数)もの事件が起こっています。この食中毒にかかった人の多くは、鶏肉の刺身(鳥刺し)やタタキなど、生かそれに近い状態の鶏肉を食べていました。

鶏は腸管内に高率にカンピロバクターを保菌していることが知られており、食鳥処理場での屠殺から解体の過程で、カンピロバクターの汚染を防ぎながら鶏肉を処理することが困難な状況です。そのため、市販されている鶏肉のカンピロバクターの汚染率は高く、安全に食べるためには加熱調理が必要となります。
また、「新鮮な鶏肉であれば生で食べても大丈夫だろう」と思っている方はいませんか?カンピロバクターは大気中では発育が抑制されるため、肉の保管時間が長くなるにつれて菌数が少なくなっていくと考えられています。そのため、むしろ新鮮な鶏肉ほど、この菌が生存している可能性が高いので、カンピロバクター食中毒になりやすいと考えられます。

カンピロバクター食中毒の症状は、下痢・腹痛・発熱などです。発症までの時間が他の菌に比べて少し長いのが特徴で、多くの場合、原因と思われる食事から2から5日後に症状が現れます。胃腸炎症状以外に、まれに神経疾患のギラン・バレー症候群を引き起こすこともあります。これは、カンピロバクターの細胞壁の構造が神経細胞の表面構造と似ているため、自己免疫反応によって起こると考えられています。

生肉や加熱不十分な肉を食べると、様々な健康被害を引き起こす食中毒にかかるリスクが高まります。お肉は十分に加熱して食べるようにしましょう。

図. 食中毒発生状況(全国)
図.食中毒発生状況(全国)

参考資料

  • 1)厚生労働省医薬食品局食品安全部長「食品,添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(食安発0912第7号,平成23年9月12日)
  • 2)厚生労働省医薬食品局食品安全部長「食品,添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(食安発0625第1号,平成24年6月25日)
  • 3)厚生労働省医薬食品局食品安全部長「食品,添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(食安発0602第1号,平成27年6月2日)
  • 4)厚生省生活衛生局長「生食用食肉等の安全性確保について」(生衛発第1358号,平成10年9月11日)

感染症部細菌課坂田淳子

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微生物部 細菌課
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