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大阪健康安全基盤研究所

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ナナホシクドア(粘液胞子虫)に対するモノクローナル抗体の作製と簡易検出法への利用について

掲載日:2019年9月11日

ナナホシクドアは、ヒラメの筋肉(身)に寄生する粘液胞子虫の1種で、高濃度に寄生したヒラメの生食によって一過性の下痢や嘔吐をともなう食中毒を起こすことが科学的に証明されています。ナナホシクドアの寄生は、ヒラメの筋肉(身)を肉眼で見ても判別できないため、高濃度寄生ヒラメが一旦流通すると食中毒の発生を防ぐことは困難になります。そこで私たちは、流通段階でのナナホシクドア寄生ヒラメを数十分で判定できる簡易検出法の開発を目的に、ナナホシクドア検出用モノクローナル抗体を作製しました。


ナナホシクドア
ナナホシクドアの学名はKudoa septempunctataで、Kudoa(クドア)属粘液胞子虫の1種になります。クドア属粘液胞子虫は主に海産魚に寄生し、20158月時点で世界で97種以上、日本国内で20種が報告されていましたが、これ以降も新種が発見され、種の数は増加する傾向にあります。クドア属粘液胞子虫は、大きさ10 µm程度の胞子を形成します。胞子の中に、コイル状の糸状構造体(極糸)を内部に収めた袋状の構造物(極嚢)を形成するのが特徴で、ナナホシクドアの胞子は5~7個の極嚢を持ちます(図1)。

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1.ナナホシクドア胞子

クドア属粘液胞子虫は、胞子を包含するシストが大きくてその寄生が肉眼で判別できるタイプと、肉眼では判別できない大きさのシスト(偽シスト)を作るタイプに大別されますが、ナナホシクドアは後者のタイプです(図2)。このため、寄生の有無はヒラメの筋肉(身)を見ても全くわかりません。

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2.ナナホシクドア寄生ヒラメ(筋肉)のHE染色像
        矢印はヒラメ筋肉に存在する偽シスト

クドア属を含め、粘液胞子虫はヒトに対して病原性がないと考えられていました。しかし、2000年頃から増加していた「生食用生鮮食品の喫食後に一過性の嘔吐や下痢を呈する原因不明有症事例」についての研究が国や地方の研究機関等で共同実施され、ヒラメの生食後に発生した原因不明有症事例の疫学調査、網羅的DNA配列解析、動物実験等の結果により、ナナホシクドアはヒラメの生食後に一過性の下痢・嘔吐をともなう食中毒を起こす病因物質であることが2011年に周知されました。これを踏まえ、国内のヒラメ養殖業者は、生産現場での寄生を防ぐための措置を講じるようになりました。


モノクローナル抗体の作製と簡易検出法への利用
ナナホシクドアは加熱処理や冷凍処理により失活しますが、ヒラメは生食が好まれ、主に活魚として流通するため、ナナホシクドアによる食中毒の防止には養殖段階での寄生ヒラメの排除とともに感染ヒラメの流通阻止が最も重要です。そこで、流通段階での寄生ヒラメの排除を目的に、最終流通現場の販売店でも実施可能な寄生ヒラメの簡易迅速判別法として、イムノクロマトグラフィー(以下、イムノクロマト)法によるナナホシクドア検出法の開発を目指しました。寄生ヒラメからナナホシクドアの胞子を大量に精製してマウスに免疫し、多くのモノクローナル抗体を作製したところ、比較的特異性の高いモノクローナル抗体を得ることができました。このモノクローナル抗体を用いたイムノクロマト法は、15分以内に2.0x104個以上のナナホシクドア胞子が寄生したヒラメ筋肉を検出することができました(図3)。この検出限界値は、食品衛生法上の規制値(>1x106個)よりも50倍高く、感度的に問題はないことがわかりました。

図3
3.ナナホシクドア寄生ヒラメを用いたイムノクロマト法の感度試験結果
◇は陽性、◆は弱陽性を示す


一方、複数のKudoa種を使ってイムノクロマト法の特異性を調べた結果、K. lateolabracisK. iwataiの胞子に弱い交差反応を示すことがわかりました。しかし、前者はヒラメに寄生するものの寄生魚は死後に筋肉融解を起こすために消費されることは考えにくく、後者はヒラメに寄生しないことから、ヒラメを対象とする検査においては、特異性について問題はないと考えられました。
イムノクロマト法に用いた抗体は、胞子構成細胞のうち極嚢細胞に主として存在し、かつ胞子原形質細胞にも存在する約24 kDaのタンパクに反応することがわかっています。

今回の研究に用いたイムノクロマト法を流通現場で使用できれば、ナナホシクドアによる食中毒の発生を抑えるのに効果的であると考えています。また、本研究で得られたモノクローナル抗体を用いた検出法は、特許を取得しています(「クドア・セプテンプンクタータの迅速検出法」、特許第6481192号)。

本研究成果は、科学雑誌「International Journal of Food Microbiology 」の201710月号に掲載されました。

Jinnai M., Kawai T., Harada T., Nishiyama Y., Yokoyama H., Shirakashi S., Sato H., Sakata J., Kumeda Y., Fukuda Y., Ogata K., Kawatsu K. (2017) Production of a novel monoclonal antibody applicable for an immunochromatographic assay for Kudoa septempunctata spores contaminating the raw olive flounder (Paralichthys olivaceus). Int. J. Food Microbiol. 259:59-67

 

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