学校給食によるカンピロバクター集団食中毒事例について
掲載日:2006年10月
カンピロバクターによる食中毒は、潜伏期間が約2から5日で、主症状は腹痛、下痢、頭痛、発熱で、血便が出ることもあります。市販鶏肉が高率にカンピロバクターに汚染されているため、カンピロバクターに起因するほとんどの食中毒事件は鶏肉が感染源となっています。その一例として、2005年11月に発生した学校給食によるカンピロバクター集団食中毒事件をご紹介します。
2005年11月15日19時15分に、大阪府A市教育委員会からB小学校において、11月14日(月曜日)に50名程度の児童が発熱・嘔吐・下痢の症状で欠席し、11月15日(火曜日)にも同様の症状で66名欠席しているとの連絡が保健所にありました。さっそく調査を開始し、患者便50検体について原因物質の検索を行ったところ、28検体からカンピロバクター・ジェジュニが検出されました。患者の共通食は学校給食のみであり、遠足のため11日(金曜日)の給食を食べなかった4年生に有症者がいないことから、11日の給食が原因と断定しました。冷凍保存されていた検食(注)を調べた結果、原材料の鶏肉からカンピロバクターが100g中5,500個以上と非常に高い菌数で検出されましたが、当日の調理済み食品の検食からは検出されませんでした。
A市の小学校の給食は自校方式で実施しており、11日のメニューはワンタンスープ(納入業者によりあらかじめ1cm角に細切された鶏肉使用)、エッグサンド(ポテトサラダ状のもの)、パン、牛乳の4品でした。自校で調理したワンタンスープとエッグサンドの作り方について調査した結果、ワンタンスープは中心温度92℃まで加熱されており、加熱後すぐに配膳されていることから、ワンタンスープが原因ではないと推察されました。ワンタンスープよりもエッグサンドの方が先に調理されており、エッグサンドの各材料(じゃがいも、キャベツ、にんじん、卵)は加熱後、和える作業まで約1時間調理室で放冷されていました。そして、その間、鶏肉をビニール袋からバットに移し替え、味付けを行い、調理釜まで運んで行きました。生鶏肉を扱っていた場所はじゃがいも放冷台に近く、鶏肉が入っていたビニール袋や手袋、鶏肉を入れたバット等がじゃがいも放冷台の横を通過しました。また、その間、じゃがいもをさますために大型扇風機で送風していたこともわかりました。以上の聞き取り調査より、今回の事件は鶏肉の加熱不足が原因ではなく、ビニール袋や手袋などの生鶏肉の付着物やドリップ(肉汁)中のカンピロバクターがエッグサンドのじゃがいもを二次的に汚染し、このような食中毒が発生したと強く推察されました。
それでは、なぜ、冷凍保存されていたエッグサンドの検食からカンピロバクターが検出されなかったのでしょうか。その原因を追及するため、給食のレシピどおりに作製したエッグサンドにカンピロバクターを添加し冷凍保存実験を実施しました。また、原材料鶏肉と同様に市販鶏肉を1cm角に細切し、冷凍保存における鶏肉とドリップ中のカンピロバクターの菌数の推移を調べました。その結果、冷凍保存7日目には菌数はエッグサンドで約1/100、鶏肉で約1/10に減少することがわかりました。ドリップ中の菌数は鶏肉より約4倍高くなることもわかりました。つまり、エッグサンドの検食からカンピロバクターが検出されなかったのは、もともと汚染菌数が少なかったために冷凍保存中に死滅してしまったためと考えられ、また、11日の原材料鶏肉は、保存検食で測定した100g中5500個よりさらに10倍菌数が高かったことが推測できました。そして、ドリップ中には鶏肉以上にたくさんのカンピロバクターが存在していることもわかりました。これは、鶏肉表面に存在しているカンピロバクターがドリップにより洗い流されるためと考えられます。カンピロバクターは約100個程度の少数の菌で感染するので、鶏肉が高濃度のカンピロバクターに汚染されている場合、ドリップは非常に危険性が高く、ごく少量でこのような食中毒事件を起こす可能性があることがわかりました。
鶏肉やその付着物(まな板、包丁、トレイ、ラップ等)の取扱いには十分注意することが大切です。
- 注:冷凍保存されていた検食
学校給食などでは、原材料、調理済み食品を-20℃以下で2週間以上保存しています。事故があった場合の原因調査に用いるためです。
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