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大阪健康安全基盤研究所

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反復配列多型解析法による腸管出血性大腸菌の遺伝子型別

掲載日:2020年03月23日

腸管出血性大腸菌の遺伝子型別とは

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、ベロ毒素を産生する、またはベロ毒素遺伝子を保有するEHECを原因とする全身性疾病で、国内では毎年、3,000人以上の感染者が報告されています[1]。近年では、人の移動や食品流通網の広域化に伴って、一見散発的に発生しているように見えますが、実際は共通の感染源によるEHECの集団感染事例(散在的集団発生, diffuse outbreak)がしばしば発生しています。このような広範囲な地域において感染者が発生するdiffuse outbreakでは、それが共通の感染源が原因であると認知できるまでに多くの時間を要することも多く、感染を拡大させてしまう可能性が高いです。そこで、diffuse outbreakの拡大を未然に防ぎ被害を最小限に食い止めるために、国立感染症研究所を中心として、EHEC菌株の遺伝子型別に基づく病原体サーベイランスが実施されています[2]。

我が国では2018年6月以降、EHECの統一的な遺伝子型別法として、反復配列多型解析(Multiple Locus Variable-number tandem-repeat Analysis, MLVA)法が使用されています。細菌ゲノム上には、tandem-repeatと呼ばれる一定の塩基配列が複数回繰り返される領域が存在しており、その繰り返し回数はDNA複製の過程でしばしば変化することから、菌株ごとに異なる値となります。MLVA法とは、その繰り返し回数を17のtandem-repeat領域について算出し、その数字の組み合わせ(MLVA型)によって菌株異同を判断する遺伝子型別法です。17領域の繰り返し回数が完全に一致する、あるいは、17領域中1~2領域のみ異なる場合は、同一の感染源に由来する可能性があると考えられています[3]。

大阪健康安全基盤研究所細菌課においても、大阪府健康医療部医療対策課、並びに食の安全推進課と協同で、大阪府内で分離されたEHEC(O26、O111及びO157)のMLVA法による遺伝子型別を実施し、diffuse outbreakの早期探知に努めています。

2019年度のEHECO26O111及びO157)の遺伝子型別結果

20201月末時点で、大阪府内で報告された64株について、MLVA法による遺伝子型別を実施しました。各O血清群別の解析株数と型別されたMLVA型数を表1に示します。菌株の多様性を評価するSimpsonの多様性指数(SDI)は血清群O1570.97と高い多様性を示しました。血清群O26O111については解析株数が少ないですが、同様にSDIを算出したところ、血清群O26SDI0.56と低い値でした。これは、2019年度に同一MLVA型となるO26の分離が多かったことを示唆しています。血清群O111SDI0.67でしたが、3株中2株は同一人物由来の菌株であることを踏まえると、実質的には2事例で2つのMLVA型であり、多様な菌株が分離されました。

表1.2019年度のEHEC(O26、O111及びO157)の遺伝子型別結果

1および図217領域の繰り返し回数に基づくMinimum Spanning TreeMST)です。図中の各円は1つのMLVA型を示します。各円の分割数は、そのMLVA型に含まれる菌株数を示し、円と円を繋ぐ線は、各MLVA型間で繰り返し回数が異なるtandem-repeat領域の数を示します。

1は、MSTに疫学情報を追加した図です。疫学情報から互いに関連性があると推定した菌株を同じ色で示します。2019年度に解析した64株は42MLVA型に型別されました。このうち、26の型は単一の分離株から構成されており、かつ近縁なMLVA型も存在しませんでした。すなわち、これらのMLVA型株によるEHEC感染症は大阪府内で散発的に発生しており、集団感染は認められませんでした。残りの16の型は複数の分離株から構成されている、あるいは近縁なMLVA型の菌株が分離されており、集団感染の可能性が疑われました。これらの大半は、互いに同居家族である、共通の食事歴がある、など集団感染の発生原因が推測できる事例でした。一方、17m2165など一部のMLVA型には、疫学情報からは互いに関連性がない菌株が含まれており、diffuse outbreakの発生が示唆されました。

図1.MLVA型と菌株の疫学的関連性.jpg

図1.  MLVA型と菌株の疫学的関連性

次に、患者がEHEC感染症として届出された週とMLVA型の関係について図2に示します。MLVA型17m2165に型別された菌株は21週および31~34週の2度にわたって検出されており、大阪府内において同MLVA型株による小規模な集団感染が2回発生した可能性が考えられました。また、そのほかの複数の患者から分離された同一あるいは近縁なMLVA型株については、互いに分離時期が近く、共通の感染源の存在が示唆されました。

図2.MLVA型とEHEC感染症の届出日

図2. MLVA型とEHEC感染症の届出日

当所細菌課で実施したMLVA解析結果は、速やかに大阪府担当部署および国立感染症研究所と情報共有され、diffuse outbreakの早期探知に活用されています。

参考文献

[1] 国立感染症研究所感染症情報センター(2019).腸管出血性大腸菌感染症20193月現在.病原微生物検出情報(IASR Vol. 40 p. 71-72: 20195月号

[2] 渡辺治雄,寺嶋淳,泉谷秀昌,伊豫田淳,田村和満(2002).分子疫学的手法に基づいた食中毒の監視体制;パルスネットの構築.感染症学雑誌 Vol. 76 (10) p. 842-848

[3] 国立感染症研究所感染症情報センター(2014).腸管出血性大腸菌の分子型別.病原微生物検出情報(IASR Vol. 35 p. 129-130: 20145月号

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