蚊から身を守ろう!大阪府蚊媒介感染症対策訓練に協力しました
掲載日:2025年7月31日
近年、国内外の人の移動が活発になり、感染症が国際的に広がりやすい状況が続いています。なかでも、デング熱やジカウイルス感染症など、蚊が媒介する感染症の輸入や国内での流行に対する警戒が強まっています。特に2025年には大阪・関西万博が開催され、大阪には世界中から多くの人が訪れており、こうした大規模な国際イベント(マスギャザリング)では、輸入感染症への備えが一層重要となります。その対策の一環として実施されているのが、蚊媒介感染症対策訓練です。
蚊媒介感染症対策訓練とは
大阪府蚊媒介感染症対策訓練は、蚊媒介感染症の発生を早期に探知し、迅速かつ適切に対応する力を高めることを目的に、関係機関が連携して、平成30年から毎年実施されています(新型コロナウイルス感染拡大期間を除く)。
令和7年度は、7月1日(火曜日)に開催され、午前は大阪城公園にて実地訓練、午後は大阪健康安全基盤研究所(大安研)にて講義およびケーススタディ形式の図上訓練(地図やシナリオを用いた対応シミュレーション)を行いました。訓練には、大阪府内の保健所職員(環境衛生監視員や保健師)を中心に、医師、獣医師、薬剤師などの自治体職員、地方衛生研究所の研究員、国立感染症研究所の実地疫学専門家養成プログラム(FETP)のメンバーなど多職種が参加し、実践的な知識の習得と連携体制の強化に取り組みました。
実地訓練(大阪城公園)

午前の部では、8班に分かれて大阪城公園内の各担当エリアにて、「人囮法(ひとおとりほう)」による蚊の捕集調査を実施しました。この方法は、人の体温やにおい、吐く息に含まれる二酸化炭素を利用して蚊を引き寄せ、1回につき8分間蚊を集める調査方法で、参加者は防虫服を着用し安全に配慮しながら、各班3回捕集しました。加えて、二酸化炭素を使って蚊を引き寄せる「CDCミニライトトラップ」による成虫の捕集、蚊が卵を産みに来るように仕掛けた「オビトラップ」を用いた蚊の卵や幼虫(ボウフラ)の確認、雨水桝(道路の排水溝)の調査など、蚊の発生源を確認する技術も研修しました。
また、大阪府ペストコントロール協会の協力のもと、殺虫剤噴霧(訓練では水道水を使用)による成虫駆除のデモンストレーションが実施され、防疫対応の理解を深めました。さらに、ビブス(活動中とわかるベスト)や啓発用パンフレットを用い、府民から声をかけられた際の対応を想定した広報対応も示されました。終了後は大安研に戻り、各班が捕集した蚊の種類を調べる作業(同定)を行い、蚊の採集から検査までの一連の流れを体験しました。
講義・ケーススタディ(大阪健康安全基盤研究所)

午後の部では、大安研ウイルス課研究員による講義「蚊と蚊媒介感染症と対策について」を行いました。国内外の発生状況、主な症状や診断法、大阪府で実施している媒介蚊サーベイランスの概要と結果、蚊の生態、発生時の対応方法、午前中の調査結果の考察などが示され、理解を深めました。
続くケーススタディでは、「感染症の原因となるウイルスを持った蚊が確認された場合の対応」をテーマに、保健所での対策本部の運営、発生地点での調査、住民対応、発生動向調査への応用などを、班ごとに検討しました。大阪府蚊媒介感染症対策・対応マニュアルに基づき、平時からどのような備えが求められるかを確認し、関係機関の連携体制を実践的に学ぶ機会となりました。なお、令和6年度のケーススタディでは、「海外に行っていない人でデング熱が見つかったときにどう対応するか」がテーマでした。
訓練の締めくくりには、感染症疫学の専門研修を修了したFETP修了生による講義「日本のデング熱サーベイランスシステムの評価」を通して、日本におけるサーベイランスシステムの取り組みの現状と今後の課題について知見を深めました。
蚊を減らすために私たちができること
身近なところでできる蚊媒介感染症を防ぐための第一歩は、蚊の発生源をつくらない生活環境を整えることです。蚊はわずかな水たまりでも繁殖できるため、日常生活の中では次のような対策が効果的です。
- 空き缶やバケツなど雨水がたまる容器は屋外に放置しない
- 植木鉢の受け皿の水をこまめに捨てる
- 古タイヤなどは屋外に置かず、水が溜まっている場合は除去する
- 雨水桝や排水溝などを定期的に清掃し、水がよどまないようにする
- 網戸や防虫スプレーを活用し、家の中に蚊が入らないようにする
蚊の発生は地域全体の環境に関わるため、一人ひとりの行動が、地域全体の感染症予防につながります。
感染症が疑われるときは
蚊が媒介する輸入感染症として、日本ではデング熱やチクングニア熱、ジカウイルス感染症などが報告されています。病原体を持った蚊に刺され、その後数日から1週間程度で、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹などの症状が現れます。これらの感染症は、多くの場合回復しますが、ときに重症化することもあり、注意が必要です。また、ジカウイルス感染症では、妊娠中の感染が胎児に影響を与える可能性があるため、特に注意が必要です。
これらの症状があり、蚊に刺された記憶がある場合や、流行地域への渡航歴がある場合には、できるだけ早く医療機関を受診し、その旨を医師に伝えることが重要です。また、診断後はほかの人に感染を広げないために蚊に刺されないように注意し、医師の指示に従って静養することが大切です。
大阪健康安全基盤研究所の役割と今後の取り組み
令和6、7年度の訓練は、大阪府健康医療部保健医療室医療・感染症対策課および生活衛生室環境衛生課の共催で開催されました。大安研は、訓練シナリオの作成や内容の企画、現地調査地の選定、捕集器の設置、講義の実施、会場設営、班の指導など、専門的な立場から多面的な支援を行いました。今回の訓練を通じて得られた経験や知見は、今後の実際の対応にも活かされることが期待されます。大安研は、今後も、科学的根拠に基づいた蚊媒介感染症対策を推進し、府民の健康と安全の確保に貢献してまいります。
参考情報(外部サイトにアクセスします)
- 厚生労働省「デング熱に関するQ&A」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dengue_fever_qa.html
- 国立健康危機管理研究機構「デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症等の媒介蚊対策<緊急時の対応マニュアル>」 https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/ent/20250404185949.html
- 大阪府「感染症媒介蚊対策について」https://www.pref.osaka.lg.jp/o100090/kankyoeisei/westnilevirus/index.html
- 大阪府「蚊に注意~蚊媒介感染症にかからないために~」https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/30906/kanichuui.pdf
- 大阪健康安全基盤研究所「住宅地の蚊ーヒトスジシマカとアカイエカー」https://www.iph.osaka.jp/s007/1000/2022_Aug/20220801153728.html
- 大阪健康安全基盤研究所研究年報2024; 8: 36-46.「大阪府内における蚊媒介ウイルス感染症に対するサーベイランス調査(2023年度)」http://www.iph.osaka.jp/s004/010/010/reserch_annual_report-8_2024.pdf
- 大阪健康安全基盤研究所「蚊に刺されてかかる感染症にご注意!」https://www.iph.osaka.jp/s007/020/030/020/mosquito/20180704101955.html
- 日本感染症学会「蚊媒介感染症専門医療機関一覧」https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=25
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