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大阪健康安全基盤研究所

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ロタウイルスAの最近の流行について

掲載日:2016年10月31日

ロタウイルスAは主に乳幼児に嘔吐や下痢などの胃腸炎を起こすウイルスとして知られており、5歳までにほぼすべてのヒトが感染すると言われています。ウイルスの名前はラテン語の『rota(車輪)』に由来しています。ウイルスは非常に小さいため肉眼で見ることはできませんが、電子顕微鏡という特殊な装置をつかうと、まさに車輪を思わせるような直径100ナノメートル(100万分の1ミリメートル)ほどのロタウイルス粒子を目の当たりにできます(図1)。
ロタウイルスAには多数の遺伝子型が見つかっており、日本ではG1、G2、G3、G9の4遺伝子型が主に流行しています。これらの感染による重症化や合併症を予防するためのワクチンは生後6週から接種可能です(注1)。G2型は他の型とは異なり日本では乳幼児以外からも比較的よく検出される遺伝子型で(注2)、2016年春季の大阪市では小学校、成人施設、高齢者施設などでG2型による胃腸炎の集団発生事例がありました(注3)。同時期に乳幼児でもG2型の流行が確認されているため、他の年齢層においてもG2型のウイルスに接触する機会が多かったのかもしれません。
とは言え、ロタウイルスAに感染した赤ちゃんからは多量のウイルスが排出されるため、それに暴露された親御さんも胃腸炎を発症したという話はよく耳にします。ロタウイルスAの遺伝子型うんぬんにかかわらず吐物やオムツの適切な処理、手洗いの徹底、汚染された衣類等の消毒は感染予防のために重要です(赤ちゃんが突如嘔吐した際にそれを避けきれるかどうかはさておき)。

図1 ロタウイルスAの電子顕微鏡写真(大阪市立環境科学研究所撮影)
図1_ロタウイルスAの電子顕微鏡写真(大阪市立環境科学研究所撮影)

ヒト以外の哺乳類や鳥類もロタウイルスAに感染します。しかしながら、通常他の動物に感染するロタウイルスAがヒトに感染することはとても稀です。例えば、G3型のロタウイルスはヒト以外にもサル、イヌ、ネコ、ウサギ、ウマなどから見つかっていますが、それらはヒトで流行しているG3型とは明らかに異なります。それは、ロタウイルスAの遺伝情報が11本の遺伝子分節(ヒトに例えると染色体のようなもの)に分かれており、その11本の組み合わせの妙が、ある動物種における感染の成立やウイルスの広がりに重要であるためです。しかし、あくまで『稀』なだけであって、ウサギ由来のG3型ウイルスに感染した小児の症例報告なども散見されます(注4)。
近年、ウマ由来のG3型に似た外見(外殻蛋白質)を持ちながらも中身のほとんどはヒト由来と考えられるユニークなウイルス(ウマ様G3型ロタウイルス)が大阪だけでなくオーストラリア、タイ、スペインで小児の下痢症患者から見つかっています(注5)(注6)(注 7)。このようなウイルスは、同一個体において2種類以上のロタウイルスAが同時に感染した時に、それぞれの遺伝子分節が混ざり合って一つのウイルス粒子に格納されること(遺伝子再集合)により生じます。上述の各国で検出されたウマ様G3型ロタウイルスにはそれぞれ少しずつ違いが認められることから、おそらく幾度となく遺伝子再集合を繰り返しながら世界に広がっていったのでしょう。なお、このウマ様G3型ロタウイルス感染による症状が通常のヒト由来のロタウイルスA感染によるものと異なるということは現時点ではありません。
ウイルスにとって、外見の変化は宿主における既存の免疫応答を回避することに繋がることがあり、一つの生存戦略となり得ます。果たして、次はどんな顔のウイルスが出てくるのやら(図2)。

図2 本稿のまとめ。シルエット画像は無料で利用できるシルエットデザインおよびシルエットACより入手し、加工した。
図2_本稿のまとめ。シルエット画像は無料で利用できるシルエットデザインおよびシルエットACより入手し、加工した。

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ウイルス課_山元誠司

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