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大阪健康安全基盤研究所

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WHOのポリオ根絶計画について

掲載日:2019年3月11日

はじめに

「ポリオ」とはポリオウイルスによる感染症です。ポリオウイルスには抗原性の異なる3つの型(1型、2型、3型)があり、人のみに感染します。ポリオウイルスに感染しても、ほとんどの場合、病気としての明らかな症状はあらわれません。しかし、ポリオウイルスが脊髄の一部に入り込むと、手足に麻痺が生じ、一生後遺症を残す場合もあります。さらに麻痺が呼吸筋に生じると命に関わる危険性があります。
日本では1960年にポリオ患者の数が5千人を超え、かつてない大流行となりましたが、生ポリオワクチンの緊急導入により流行はおさまりました。生ワクチンは経口接種(口から飲む方法)であることから、接種が簡単で針刺し事故の危険性がないため広く使用されてきました。また生ワクチンは病原体を弱毒化したものであるため、強力な免疫を獲得することが可能であり効果が非常に高いことが特徴です。このため、1980年の1例を最後に、現在まで野生のポリオウイルスによる新な患者は出ていません。
しかし、弱毒化されたウイルスが体内で増殖後、便として排出され、下水を通じて環境を汚染してしまうこと、集団内で長期間生ワクチン由来のウイルスが増殖・伝播することで弱毒であったはずのワクチン株が変異して、野生のポリオウイルスと同様の病原性を獲得する危険性がある等の問題が生じています。このため、現在では多くの国で注射による不活化ワクチン接種に変更され、我が国でも、2012年9月より不活化ワクチンの定期接種が開始されました。
ワクチンの普及により世界的にもポリオの流行国や患者数は激減し、1988年にはWHOが2000年までにポリオを根絶するという目標を決議しました。これを受けて、WHOと民間団体で設立された「世界ポリオ 根絶イニシアティブ(Global Polio Eradication Initiative;GPEI)」が定期予防接種やハイリスク地域の一斉予防接種、ポリオの症状である急性弛緩性サーベイランス(病原体検査含む)に取り組んできました。これらの取り組みの成果により、2012年までに世界の年間ポリオ患者数は1000例以下に減少し、野生株により感染者が継続して発生する常在国は125カ国から3カ国のみとなりました。現在、常在国としてポリオが残る国は、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアです(図1:赤色)。

ポリオ常在国、再流行国、ハイリスク国地図

図1.世界におけるポリオの常在国、再流行国、ハイリスク国


ポリオ根絶の最終段階戦略計画2013-2018

GPEIは2013年にポリオ根絶に向けて最終的な計画となる『ポリオ根絶の最終段階戦略計画2013-2018』を策定し、実行してきました。この計画ではポリオ根絶のために、以下の4つの目標を2019年までに達成することを目標としています(図2)。
1 ポリオウイルス(野生株およびワクチン由来株の両方)の検出を強化し、素早く対処して流行を制御すること
2 予防接種のシステムの強化と経口生ワクチンの接種を停止すること(経口生ワクチンの成分から麻痺症例の主要因であるポリオウイルス2型の成分を排除することを早期に達成する)
3 ワクチン製造施設や研究機関が保管しているウイルスの封じ込め管理を徹底し、それを検証すること
4 ポリオが根絶された後にも継続して排除し続けられるように公衆衛生の基盤を維持すること

ポリオエンドゲーム
図2.ポリオ根絶の最終段階戦略計画2013-2018

WHO | Learn about objective 2 of the polio endgame改変


最近の発生動向

一度はポリオを排除できても、ワクチン接種率の低下により免疫のない人が増加することによって、野生株や生ワクチン由来のポリオが再流行してしまった国があります。現在、そのような国は、コンゴ民主共和国、インドネシア、ソマリア、ケニア、パプアニューギニア、ニジェール、モザンビーク(図1:黄色)です。その中でもパプアニューギニアでは2000年にポリオ排除を達成して以来、2018年4月に生ワクチン由来のポリオウイルス1型による弛緩性麻痺患者が確定診断され、大きな話題となりました。現時点では、パプアニューギニアにおける新たな患者の発生の報告はありませんが、2018年末までに26人の患者が報告されました。さらに、ワクチン接種による集団免疫のレベルが低く、ポリオ発生国に戻る可能性が高い国が15カ国(図1:緑色)あります。これらの国でも現時点の患者の発生報告はありませんが、ワクチン接種による小児の集団免疫のレベルを上げ、患者発生のサーベイランスを強化することで監視を継続する必要があります。


最後に

2019年3月現在、残念ながらGPEIの『ポリオ根絶の最終段階戦略計画2013-2018』は達成されてはいません。ポリオ常在国や再流行国は、社会情勢が不安定で、公衆衛生の基盤がぜい弱な国が多いという背景があります。また、人の往来により、経口生ポリオワクチンを接種している国から、清浄国にポリオウイルスが持ち込まれる危険性があります。我が国では、諸外国からポリオウイルスの流入を監視するために環境水(流入下水)をモニタリングして警戒しています。これに加え、ワクチン接種を確実に行い、高い免疫レベルを保つことが重要です。完全な排除は達成されていないにせよ、世界からのポリオ根絶が目前に迫っている状況には変わりません。発生国への世界的な対応に加えて、清浄国においても備えを十分にすることでポリオ根絶計画の達成に役割を果たすことができます。


参考資料



お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1321