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大阪健康安全基盤研究所

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新型コロナウイルス変異株について

掲載日:2021年5月26日

はじめに

ウイルスは、大きくDNAウイルスとRNAウイルスに分けられ、流行を何回も繰り返すのは、RNAウイルスである。RNAウイルスには、インフルエンザウイルス、ノロウイルスがあり、体内に長期間、存在しながら抗体から逃避するために変異を繰り返す、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)がある。RNAウイルスは複製を繰り返す中で、容易に変異するウイルスであるため、流行を引き起こす。ヒトより100万倍早いスピードで変異を生じ、(1)抗原性の変化、(2)感染力の増加能、を獲得して、ヒト集団内で存続している。毎年秋冬季に流行するインフルエンザウイルスやノロウイルスの場合、ヒトが何回も感染したことがあり、大勢の人が抗体を保有しているため、変異によって、(1)抗原性の変化、(2)感染力の増加能、この2つの能力を獲得して、流行を引き起こす。


新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの特徴

新型コロナウイルスの場合、ヒトが初めて遭遇するウイルスであり、まだ、ヒト集団は抗体を保持していないため、インフルエンザウイルス、ノロウイルスと比較して、(1)抗原性の変化は、必ずしも必要ではなく、(2)感染力の増加能を獲得するだけで、ヒト集団内で感染拡大の可能性が更に増大する。

新型コロナウイルス変異株について

変異株の分類は、2つに分けられる。(1)「懸念される変異株」と、(2)「注目すべき変異株」である。現在、特に監視強化されているものは、「懸念される変異株」であり、
  • 感染・伝播性の増加、又は疫学的に有害な変化
  • 病原性の増大、又は臨床像の変化
  • 公衆衛生・社会的措置、又は診断法、ワクチン、治療薬の有効性の低下
又は
  • 世界保健機関(WHO)SARS-CoV-2ウイルス進化作業部会で審議の結果、WHOにより「懸念される変異株」と評価
と定義されている(文献番号1)。

これまで、「懸念される変異株」には、イギリス変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株の3種類ある。いずれも、新型コロナウイルスの一番外側にある突起状のタンパク質、スパイクタンパク質に変異の蓄積が認められる(図1)。これら3種類の変異株に共通の変異は、スパイクタンパク質501番目のアミノ酸がN(アスパラギン)からY(チロシン)に変わっていることである。アスパラギンやチロシンは、親水性のアミノ酸で同じ性質であるが、チロシンは芳香族基を持っており、スパイクタンパク質の構造の変化に、影響を与えうる変異と考えられ、感染力が40%上昇するという報告がある(文献番号2)。この501番目の変異は、イギリス変異株、南アフリカ変異株、ブラジル変異株に共通している変異であるため、いずれかを判別するためには、スパイクタンパク質の全長の塩基配列を調べる必要がある。大阪健康安全基盤研究所では、501番目の変異をリアルタイムPCR法で検出する検査を行っており、更に、詳細な解析を行うために、国立感染症研究所へ検体を送付している。

インドでは、抗原性の変化と感染力の増加能、2つの能力を獲得していると推測される「二重変異株」が報告された。スパイクタンパク質452番目のアミノ酸がL(ロイシン)からR(アルギニン)に、484番目のアミノ酸E(グルタミン酸)からQ(グルタミン)へ変わっている。L(ロイシン)は疎水性アミノ酸、R(アルギニン)は親水性アミノ酸であり、ロイシンからアルギニンへの変異は、立体構造上の変化をもたらす可能性があり、感染力の増加に影響を与える可能性がある。484番目のアミノ酸の変異は抗原性の変化に影響を与えると推測される。WHOは、2021年5月11日に、PANGO系統でB.1.617に分類される変異株(「二重変異株」を含む)を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえたリスク評価に基づき、4番目の「懸念される変異株」に指定した。


CoV
図1.新型コロナウイルスの粒子構造


今後の変異株について

RNAウイルスは、ある一定の割合で、変異株が出現するため、今後も感染が爆発的に拡大している地域で、新しい変異株が出現する可能性が高い。もちろん、日本も例外ではなく、日本発の日本変異株というものが出現する可能性もある。


変異株の感染予防対策について

変異株の感染拡大阻止・予防には、手洗いの徹底、特に会話時のマスク着用の徹底が重要である。3密(密閉、密集、密接)の回避は重要であるものの、変異株は1密や2密の状態でもクラスターが発生しているため、より徹底した行動変容が重要である。


参考資料

  1. World Health Organization. COVID-19 Weekly Epidemiological Update. 25 February 2021
  2. 陽性者に占める501Y変異株の割合と従来株に対する増加率の変化: 4月6日時点推定値. 第29回厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2021年4月7日




お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1402