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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 44号 2007年4月30日発行

目次

  • 今月の話題
    「市中型MRSAによる死亡例について」
  • 研究の窓から
    「農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究」(第2回)
  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「4月の感染症サーベイランス情報」
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今月の話題

市中型MRSAによる死亡例について

2007年4月初め、関東地方の1歳男児が「市中型」MRSA(注1)の感染により死亡した(発生は2006年)との報道がありました。

市中型MRSAとは何か?

一般にMRSAというと病院内で発生し、手術後など抵抗力の弱い患者が感染する「院内感染型」が知られています。一方、医療機関などとまったく関わりのない人からMRSAが分離されることがあり、いわゆる「まちなか」での感染であることからこれらの菌株を「市中型」MRSAと呼んでいます。この市中型MRSAが見つかるようになったのは1980年代以降で、米国で1997から1999年に4名の小児が死亡したことから特に注目されるようになりました。その後の研究で、「市中型」と「院内感染型」は遺伝的に異なっていること、市中型の中に「PVL(注2)」という白血球を破壊する毒素を持っている強毒株が存在することなどが明らかとなりました。現在、PVLを持つ市中型MRSAは、欧米を中心とした世界各国で分離されています。日本では、PVLを持たないタイプの報告が多く、PVLを持つタイプは非常にまれで、今回のように死亡したケースは初めてです。

症状と治療法について

主に、皮膚と軟部組織でおできや膿瘍などの疾患を起こします。まれに肺炎をおこして重症化することがありますが、皮膚疾患等との関連はまだ明らかではありません。治療は、感染部位の切開による膿の除去、および抗生物質の投与によって行います。

どのようにして感染するのか?

主に接触によって感染が広がると考えられており、欧米ではレスリングなどのスポーツクラブ、軍隊や刑務所といった集団生活、学校などでの感染が報告されています。しかし、感染経路が判明しないことも多く、まだよくわかっていないのが実情です。

何に気をつけるべきか?

日本では、今回のような強毒株はまだほとんど存在していないと考えられるため、過剰に心配する必要はありません。しかし、今後拡大していくことも考えられ、また、すでに広がっていると言われるPVLを持たないタイプのMRSAに感染しないためにも、以下の点に注意しましょう。

  • 手洗いを徹底しましょう。
  • スポーツクラブなどで使ったタオルを貸し借りするのは避けましょう。
  • とびひやおできなどからMRSAが検出されることがあります。治りにくいなど気になる点があれば、病院に行って治療してもらいましょう。また、処方された抗生物質は、用法通りきちんと使いましょう。中途半端な量を使う、あまった薬を後で勝手に使うなどの行為はMRSAをはびこらせるもととなります。

公衆衛生研究所でできること

当研究所では、一般的な細菌学的検査に加え、薬剤耐性遺伝子やPVLを含む各種毒素遺伝子の検出、PFGEなどの分子疫学的解析が実施可能です。

  • 注1:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
  • 注2:Panton-Valentineロイコシジン

(細菌課 河原)

研究の窓から

農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究(第2回)

昨年度から施行された農薬等のポジティブリスト制により、基準が設定された農薬が増加され、検査機関では多くの農薬検査項目について正確な検査が要求されています。その一環として検査機関の検査精度や検査成績の信頼性確保することは必要不可欠となります。精度管理を実施することは、検査精度の確認ならびに検査結果の信頼性確保に重要な役割を果たし、食品の安心・安全に大きく寄与するものと考えます。そこで、地方衛生研究所の9参加機関(新潟県、愛知県、神戸市、奈良県、和歌山市、広島市、徳島県、北九州市、大阪府)の協力を得て、食品中農薬のGC/MS及びLC/MS/MSによる精度管理(外部精度管理及び内部精度管理)を実施してきました(注)。また、検査精度を維持・向上するための主な要因(標準品、分析法、分析装置)を検討して実施した2年目の結果を報告します。

外部精度管理(各機関が添加されている農薬の種類及び濃度のわからない同一試料を測定することにより、自機関の測定値の正確度を知ることができる)に用いる試料は、農薬の場合、残留している試料を大量に入手することは困難であるため、業務用の冷凍磨砕ミクロペースト状食材に農薬を添加して作製しました。添加農薬の均質性、安定性を統計的に確認したカボチャ、ニンジン、ホウレンソウの精度管理試料に、30項目の添加農薬リストから各食品に4種類含まれているという方法により行い、各機関の分析法(農薬検査標準作業書SOP)に従って5回の検査を実施しました。一律基準値(0.01ppm)付近の低濃度の添加農薬を含めた延べ12種類の農薬検査の結果は、全機関が添加農薬の種類をすべて正しく検出しました。GC/MSによる各農薬の全機関平均濃度は添加濃度の82%から105%、LC/MS/MSでは84%から110%と良好な結果が得られました。

Xbar-R管理図、Zスコアによる一般的な評価で、一部の項目で適正域に入っていない機関も認められましたが、総合成績では前年度と比較してかなり良好な結果が得られました。すべての評価で「良好」が4機関ありました。4機関の中で2機関は2年連続「良好」でした。GC/MSとLC/MS/MSによる測定値の比較では、LC/MS/MSの測定値がGC/MSの測定値と同程度あるいはそれ以上の精度の高い結果が得られました。相対標準偏差(20%以下が目安)で外部精度管理の評価をしますと、添加濃度の違いによる変動は概して認められず、カボチャ、ニンジンは全機関10%以下、ホウレンソウは全機関15%以下でした。国際的によく引用される手法のHorwitzの各濃度と比較しても良好な結果を示しました。

標準品は、ポジティブリスト制度に対応した市販の農薬混合液(140成分)の同一ロットを使用しましたが、このことが標準品による各機関の検査精度のばらつきによるファクターを少なくし、検査精度に大きく寄与したものと思われます。

分析法(SOP)は、厚生労働省一斉分析法に準じた方法が5機関、独自法(愛知県法、兵庫県法、SFE法、QuEChERS改良法)が各1機関で実施されました。これらの分析法を検証するために内部精度評価(各機関が自ら濃度既知の農薬を添加してSOPに従って回収率を知る)を用いて行いました。実際には30項目の農薬についてカボチャ、ニンジン、ホウレンソウの3食品に0.1ppmになるように添加し、無添加のそれらの食品の分析を並行してGC/MSによる測定により回収率を求めました。各機関のSOPで得られた添加回収率、HorRat値(コーデックスで提案される分析法一般規準:2以下が目安)による評価で、回収率が70%から120%、HorRat値が2以下の目標が達成されており、いずれの分析法(SOP)も適正であることが確認されました。検討した30農薬の添加回収率の結果は、厚生労働省による一斉分析法における添加回収のA評価(平均回収率の中央値が70%から120%)と一致しました。濃度既知の内部精度評価と濃度未知の外部精度評価の関係は、どちらも概ね70%から120%の範囲内に入っており、内部精度評価で得られた結果と外部精度評価の結果はほぼ一致していました。

GC/MSシステム状態の良好であること(一定レベルであること)の客観的かつ簡便な評価を目的としたGC/MSシステム評価用農薬標準試料を各機関に配布し、精度管理試料測定前と測定後のピーク形状(クロマトグラム)とピーク強度(定量値)を各機関から提出してもらいました。その結果、GC/MS装置性能評価では、比較的食品マトリックスの影響が懸念される精度管理試料の注入後も、注入口あるいは分離カラム部位における評価用農薬が、全機関とも概ね問題なく検出され定量値・ピーク形状も良かったことから良好な状態のGC/MSによる測定が行われていたと推察されました。

今回の精度管理(外部精度管理及び内部精度管理)の結果は良好であり、「正確な(一定の)標準品」を用いて、「適正な分析法」で実施して、「良好な状態の分析装置」で測定することによって信頼性のある検査データが得られることが示唆されました。

  • (注):厚生労働科学研究費補助金研究、食品の安心・安全確保推進研究事業「検査機関の信頼性確保に関する研究」の分担研究「農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究」として行っている。

(食品化学課 村田)

大阪の感染症サーベイランス情報

4月の感染症

2007年第15週(4月9日から4月15日)の定点あたり報告数の上位3疾患は、感染性胃腸炎(8.1)、インフルエンザ(3.5)、水痘(1.7)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比6%の増加、インフルエンザは33%の減少、水痘はほぼ横ばいでした。(http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.htmll参照

感染性胃腸炎は年初に大きく減少して以降、徐々に増加傾向にあります。3月以降の病原体定点機関の検体からはA群ロタウイルスが6例検出されており(4月20日現在)、現在幼児で流行している胃腸炎の主な病原体はロタウイルスと考えられます。しかしながら食中毒事例や、幼稚園などでの感染性胃腸炎の集団発生事例では、ノロウイルスが原因となっているものも引き続き報告されています。また4月に入ってアストロウイルスが原因と考えられる保育所での集団発生事例も報告されました。

インフルエンザは、第11週の定点あたり27.8をピークにその後減少を続け第14週には全てのブロックで定点あたり10以下となりました。今シーズンの流行が始まった1月以降、当所ではAH1(ソ連)型ウイルスが15例、AH3(香港)型ウイルスが67例、B型ウイルスが42例分離されています。

すでに報道でもご存知のように、関東地方では麻しん(はしか)の流行が問題となっています。府内でも今年にはいってから、少数ながら報告が続いており、今後の流行が懸念されています。新学期は小児の間で感染症が流行しがちですし、ゴールデンウィークを控え、国内での人の往来も活発になることから、流行は日本全国に流行が広がるおそれもあります。麻しん風しんワクチンを定期接種として受けられるのは1歳時の1年間と小学校就学前の1年間ですが、任意での接種も可能です。子供さんのみならず大人の方も、罹患歴やワクチン接種歴を確認し、麻しんにかかったこともなく、ワクチンも接種されていない方は、ワクチン接種を受けられることをお勧めします。一般の方にを対象とした麻しんについての説明を当所のホームページに掲載しております(かわら版@iph 44号 2007年4月30日発行)のでご覧ください。

定点:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは306ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は199ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

(ウイルス課 宮川)


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