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大阪健康安全基盤研究所

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小麦のカビ毒「デオキシニバレノール」について

掲載日:2023年3月29日

食品に生えたカビは、増殖する過程で様々な物質を作ります。カビが作る物質のうち、ヒトや家畜にとって有害なものは、まとめてカビ毒と呼ばれます。本稿では、カビ毒の中でも小麦に発生するデオキシニバレノールについてお話します。

デオキシニバレノール(DON)とは?

赤カビ菌が産生するカビ毒です。日本では麦類での汚染が報告されています。DONは耐熱性が高く、化学的にも安定な物質であるため、調理や加工工程でDONを除去することは困難です。DONに汚染された食品を食べると、短期的には消化系・免疫系への障害ならびに嘔吐、長期的には体重増加抑制の症状が出ると報告されています[1]。

生産段階におけるDON汚染対策

麦類のDON汚染リスクを減らすには赤カビ病の発生を防ぐことが重要です。赤カビの防除のために、日本では、農林水産省および農研機構が主体となって麦類の管理マニュアルが作成されています[2]。その中では、赤カビ病抵抗性品種の作付けの選択、防除効果の高い農薬の散布、カビの被害を受けた麦の除去等々、種まきから収穫および加工までの多岐にわたる工程で管理方法が示されています。特に、麦類への農薬の散布は、カビ毒による汚染を防止して健康リスクを減らすために有効であるとされています。

流通段階におけるDON汚染監視

国内では、2002年から小麦(精白・製粉する前の小麦)に対するDONの暫定的な基準値(1.1 mg/kg)が設定されていました。「暫定」となった理由は、当時国内で高濃度のDONに汚染された小麦が見つかり、汚染実態や毒性評価などのデータが十分に揃っていない状況下で早急に規制する必要があったためです[3]。2010年度から2016年度にかけて実施された厚生労働省の実態調査では1018件のうち10件で暫定基準値を超過した製品があったと報告されています[4]。当所においても、大阪府内に流通する小麦粉を対象に検査を実施しましたが、2017年度から2021年度に実施した12件について、定量下限値(0.3 mg/kg)を上回る濃度のDONは検出されませんでした。その後、国の委員会での評価に基づき、2022年から基準値が1.0 mg/kgとなりました[5]。これは、大人に比べて体重が軽いために健康への悪影響が出やすい未就学児への影響を考慮した上で、食品中の含有量をゼロにすることが困難な物質の基準設定で用いられる「合理的に達成可能な範囲でできる限り低くする」という原則に基づいた結果、当時の暫定基準値より低く設定することが妥当であると判断されたためです。

食品安全委員会や食品規格部会が実施した曝露量の推定からは、通常の食生活でDONを摂る量が健康に影響を及ぼす可能性は低いとされています[1,4]。

当所では、今後もDONの監視や健康影響にかかる調査研究を続けてまいります。

  • 小麦イラスト

     

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  • 食パンイラスト

     

参考資料

[1] 令和元年12月24日府食第583号、別添資料
[2] 「麦類のかび毒汚染低減化のための生産工程管理マニュアル改訂版」(農研機構,2016)
[3] 大安研ニュース(No. 11)2021年7月
[4] 令和2年9月30日食品衛生規格部会、資料1
[5] 令和3年7月30日生食発0730第7号

お問い合わせ

衛生化学部 食品化学課
電話番号:06-6972-1325