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大阪健康安全基盤研究所

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<論文紹介>合成カンナビノイドの生体影響と熱分解

掲載日:2025年11月19日

合成カンナビノイドは大麻とよく似た効能を得るために、大麻に含まれるテトラヒドロカンナビノール(THC)の化学構造を基に合成され、植物片に混ぜられハーブと称して流通していました。薬物乱用者は紙巻きタバコにして喫煙することで合成カンナビノイドを摂取してきました。
今回、合成カンナビノイドの1つであるNPB-22が熱分解することを東京都健康安全研究センターとの共同研究により明らかにした論文がForensic Toxicologyにオープンアクセスとして掲載されましたので[1]、ご紹介したいと思います。
(この記事は専門家を対象に執筆されたものです)

合成カンナビノイドNPB-22

NPB-22(図1)はPB-22のインダゾール類似体で2014年にハンガリーで初めて見つかり[2]、同年トルコでも見つかりました[3]。さらにドイツでは2013年から2015年にかけて薬物影響下にあった運転手の血中から検出されました[4]。
NPB-22の生体影響が十分に研究されていなかったことから、γGTP結合アッセイによるカンナビノイド受容体活性評価と東京都健康安全研究センターによる実験動物に吸入させる吸煙曝露試験(平成30年度東京都健康安全研究センター動物実験委員会承認番号30-9)を実施しました。

NPB-22の化学構造式
(図1)NPB-22の化学構造

吸煙曝露試験ではNPB-22の生体影響は弱まった

カンナビノイド受容体活性評価の結果、NPB-22は陽性対照であるCP-55,940と同程度に強いカンナビノイド受容体活性を有することが明らかとなり、大麻様作用を示すと考えられました。しかしながら、吸煙曝露試験におけるNPB-22の生体影響はカンナビノイド受容体活性から予想されるものより弱かったのです。
カンナビノイド受容体のうち、中枢に影響を与えるCB1受容体に対する活性化能を示すEC50がNPB-22と同程度であったAdamantyl-THPINACAを比較対照としました。すると吸煙曝露における洗顔運動や立ち上がりについては、NPB-22はAdamantyl-THPINACAよりも抑制が弱かったのです(図2)。

吸煙曝露試験の結果
(図2)吸煙曝露試験の結果

NPB-22は熱分解する

タバコは約900℃で燃焼させていることから、吸煙曝露試験でも合成カンナビノイドは約900℃で燃焼されていると考えられます。したがって、約900℃による燃焼でNPB-22が熱分解し、生体影響が予想よりも弱くなったと考えられます。
そこでNPB-22を含む植物片を吸煙曝露試験で燃焼させた際に生じた煙を採取して液体クロマトグラフィーで分析したところ、NPB-22はその大部分が燃焼により生体影響を示さない1-ペンチル-1H-インダゾール-3-カルボン酸と8-キノリノールに分解していることが明らかとなりました(図3)。

NPB-22の燃焼による分解
(図3)NPB-22の燃焼による分解

新型タバコで合成カンナビノイドは熱分解するのか?

近年、電気的に加熱して生じる蒸気などを吸入する電子タバコなどの新型タバコが用いられています。合成カンナビノイドをこのような新型タバコを用いて摂取していることが報告されています[5, 6, 7]。
新型タバコは、タバコ葉や溶液を電気的に30~350℃といった低温で加熱して生じる蒸気を吸入します。そのため、このような新型タバコを使用すると、NPB-22は熱分解することなく強い生体影響を示す危険性があると考えられます。

まとめ

合成カンナビノイドは植物片に混ぜられ、タバコのように喫煙することで摂取されていました。今回紹介したNPB-22は、タバコのように燃焼させると熱分解し生体への影響が弱くなることが分かりました。しかしながら、近年低温で加熱される新型タバコによる合成カンナビノイドの摂取が報告されています。NPB-22のように熱分解する合成カンナビノイドも、新型タバコで摂取しようとすると、強い生体影響を示す可能性があります。

(本研究の一部はJSPS科研費JP21K10410の助成を受けたものです。)

お問い合わせ

衛生化学部 医薬品課
電話番号:06-6972-1362