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大阪健康安全基盤研究所

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新たに室内空気中濃度指針値の策定が検討されている化学物質3種の分析法の検討

掲載日:2020年2月12日

はじめに

化学物質による室内空気汚染が主要因とされるシックハウス症候群の防止対策として、厚生労働省では、住宅等室内において健康上問題となる可能性の高い化学物質を選定し、これらの空気中濃度指針値の策定を進めています。2017年に開催された同省の設置する「シックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会」1) において2-エチル-1-ヘキサノール (以下EH)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート (代表的商品名テキサノール:以下TMPMB) および2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート (代表的商品名TXIB:以下TMPDB) (図1) の室内濃度指針値 (EH 130 μg/m3、TMPMB 240 μg/m3、TMPDB 100 μg/m3) が新たに提案され、近い将来にこれらの指針値が正式に設定される可能性が高いと考えられます。EHおよびTMPMBは主に接着剤や塗料に使用される他、いずれも可塑剤の分解生成物としても室内空気中に放散されます。TMPDBは主に可塑剤として使用されます。同省は、これらの採取および測定方法について、いずれも2001年に定めた「室内空気中化学物質の測定マニュアル」および「室内空気中化学物質の採取方法と測定方法 (Ver.2)」2) に基本的に従うよう提示していますが3)、その適用に際して参考となる詳細なデータは提供されていません。

今回、これら3種の化学物質の分析に際し、厚生労働省の提示する測定方法の一種である固相吸着-溶媒抽出-ガスクロマトグラフィー/質量分析 (以下GC/MS) 法の適合性について検証しました。なお、本研究に関する論文は、以下のリンク4) からダウンロードが可能ですので、ご興味のある方はご覧ください。
 fig1_20200210

図1. 分析対象とする化学物質の構造式
I:2-エチル-1-ヘキサノール (EH)
II:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート (TMPDB)
III:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート (TMPMB)
 * :2物質の混合物

 

実験方法

活性炭が充填された市販の捕集管を吸引ポンプに接続して毎分0.1 Lの流速で室内空気中のこれら化学物質を24時間採取しました。採取後捕集管から活性炭を取り出し、化学物質を二硫化炭素により脱着した後、無水硫酸ナトリウムを添加して脱水しました。その上清に内部標準物質を加えてGC/MS法により定量しました。その際の検出下限濃度、定量値の正確性および再現性、捕集管に採取した化学物質の保存中の安定性について検討しました。 

 

結果

捕集管の選定

椰子殻粒状活性炭 (以下粒状活性炭) または石油合成系球状活性炭 (以下球状活性炭) が充填された2つの捕集管について3種の化学物質の二硫化炭素による脱着率を試験しました。粒状活性炭からの各物質の脱着率はEH 76%、TMPMB 82%、TMPDB 102%、一方、球状活性炭からの脱着率はEH 91%、TMPMB 94%、TMPDB 98%であり、EHおよびTMPMBについては粒状活性炭からの脱着率に比較して高い値でした。以下、球状活性炭が充填された捕集管を用いた際の試験結果を示します。

 

検出下限濃度

未使用の捕集管から取り出した活性炭を分析した際、3種の化学物質はいずれもほとんど検出されませんでした。各物質の空気中からの検出下限濃度は、EH 0.08 μg/m3、TMPMB 0.1 μg/m3、TMPDB 0.07 μg/m3でした。

 

定量値の正確性および再現性

各化学物質の定量値 (各化学物質空気中濃度:約230 μg/m3相当および約23 μg/m3相当の室内環境) の相対誤差および変動係数はそれぞれ8%以下、5%以下でした。

 

化学物質の保存安定性

捕集管中の各化学物質の冷蔵庫での保存 (4℃にて遮光) に対する安定性について試験したところ、EHの定量値は経日に伴って若干減少する傾向が見られましたが、3種の化学物質ともに保存から29日後における定量値は捕集当日の定量値の90%以上でした。

 

まとめ

採取された各化学物質の二硫化炭素による脱着の観点から、粒状活性炭よりも球状活性炭が捕集材として適していると考えられました。球状活性炭が充填された捕集管を使用して分析した際の3物質の検出下限空気中濃度は0.07~0.1 μg/m3であり、これら化学物質の定量値の正確性、捕集から分析における再現性はともに良好でした。また、これらを採取した捕集管は、分析までの期間冷蔵庫内で約一ヶ月間は保存可能であることが示唆されました。したがって、本法は、室内空気中のこれら化学物質の分析に十分適用できると考えられました。

 

参考文献

1) 厚生労働省. 第21回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 (2017年04月19日) 配付資料. 室内空気汚染に係るガイドライン案について-室内濃度に関する指針値案-. 2017.
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000166137.pdf

2) 厚生労働省医薬局長. 室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法等について (通知). 医薬発828号. 2001.

3) 厚生労働省. 第21回シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会 (2017年04月19日) 配付資料. 採取方法と測定方法について. 2017. 

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000166140.pdf

4) 吉田俊明、味村真弓、大嶋智子、山口進康、室内空気中2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート及び2-エチル-1-ヘキサノールの分析法の検討. 大阪健康安全基盤研究所研究年報 3: 89-95 (2019).

http://www.iph.osaka.jp/s004/060/reserch_annual_report-3_2019.pdf

 

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お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353