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大阪健康安全基盤研究所

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LC-MS/MSを用いた アルデヒド前駆体20物質の一斉分析法の開発

掲載日:2022年10月25日

はじめに

平成24年に発生した利根川水系におけるホルムアルデヒドの水質事故を契機に、厚生労働省は平成27年3月、通常の浄水処理により水質基準項目等を高い比率で生成する物質を「浄水処理対応困難物質」として位置付けました1)。当研究所のこれまでの研究において、浄水処理対応困難物質14物質のうち、アルデヒド前駆体7物質、クロロホルム前駆体6物質の合計13物質を対象に、一斉分析法の開発を行った結果、10物質について一斉分析法を確立しました2、3)。しかし、浄水処理対応困難物質として位置付けられている14物質以外にも、ホルムアルデヒド等を生成する「アルデヒド前駆体」による水質汚染事故も想定され、これらの分析法の開発は非常に重要であると考えられます(図1)。そこで、表に示したアルデヒド前駆体23物質について一斉分析法を検討し、その分析精度の評価を行いました。
 
Fig1

1 アルデヒド前駆体とは


実験方法

分析は、高速液体クロマトグラフ質量分析計 (LC-MS/MS) で行いました。河川水中のマトリックス4) による感度変動を補正するために、試料に内部標準物質としてHexamethylenetetramine-d12 (HMT-d12), 1,1-Dimethylhydrazine-d6 (DMH-d6), N,N-Dimethylaniline-d11 (DMAN-d11)およびTrimethylamine-d9 (TMA-d9) を添加しました。厚生労働省の妥当性評価ガイドライン5)に従い、河川水を用いた添加回収試験を実施し、真度および併行精度が妥当性評価ガイドライン5)を満たした最も低い濃度を定量下限値としました。河川水は、液体クロマトグラフのカラムの目詰まりを防ぐため、酢酸セルロース製メンブランフィルターでろ過したものを使用しました。分析フローを図2に示しています。
 Fig.2

2 分析フロー



結果

アルデヒド前駆体23物質のうち、Disulfiram, N,N-DimethylsulfamideおよびDimethylamineはLC-MS/MSではイオン化することができなかったため、測定対象物質から除外しました。残りの20物質について河川水を用いた添加回収試験を行ったところ、N,N,N`,N`-Tetramethylethylenediamine (TMED), Hexadecyltrimethylammonium Chloride, Triethylaminおよび2-(Diethylamino) ethanolは内部標準物質で補正しても真度が厚生労働省の示す妥当性評価ガイドライン5) に示された目標の130%を大きく超過しました。これは、河川水に含まれるマトリックスがイオン化に影響を与えていると考えられました4)。そこで、標準溶液と試料溶液の組成を近づけるために、標準溶液の溶媒を添加回収試験と同じ河川水で調製しました。その結果、Hexadecyltrimethylammonium Chloride を除く19物質が厚生労働省の示す妥当性評価ガイドライン5) に示された目標(真度70~130%、併行精度≦30%)を満たし、精度良く分析することが可能となりました。添加回収試験の結果を表に示します。


表 添加回収試験結果

Table1


まとめ

一斉分析法の検討を行ったアルデヒド前駆体23物質のうち、19物質が厚生労働省の示す妥当性評価ガイドライン5) に示された目標を満たし、分析精度の高い分析法を開発することができました。今回開発した方法は迅速に分析が可能なことから、水質汚染事故等の緊急時にも有用な方法であると考えられます6)。


引用文献
  1. 厚生労働省健康局長、「浄水処理対応困難物質」の設定について(健水発0306号第1~3号)(2015

    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079943.html

  2. 吉田仁、高木総吉、安達史恵、小泉義彦、中島孝江:浄水処理対応困難物質の分析法の開発、平成28年度全国会議(水道研究発表会)講演集、724-725 (2016)
  3. 吉田仁、高木総吉、安達史恵、小泉義彦、中島孝江、木村明生:大阪府内30浄水場における浄水処理対応困難物質の存在実態、大阪健康安全基盤研究所研究年報、1、80-84 (2017) http://www.iph.osaka.jp/s004/060/reserch_annual_report-1_2017.pdf
  4. 食品分析開発センター:残留農薬におけるマトリックス効果について(20096月)http://www.mac.or.jp/mail/090601/05.shtml
  5. 厚生労働省:水道水質検査方法の妥当性評価ガイドライン(平成2496日付け健水発09061号別添)(最終改正:平成 29 10 18 日付け薬生水発 1018 1 号)  

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000181618.pdf

  6. 小池真生子、吉田仁、山口進康:高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いたアルデヒド前駆体20物質の一斉分析法の開発、水道協会雑誌、91(5)2-11 (2022)


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お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353