国際基準に対応した残留農薬検査の実施に向けて
掲載日:2020年9月14日
残留農薬検査の検査部位(基準値適用部位)は、国において定められてきました1。しかし、農産物の種類によってはこの検査部位が国際基準であるコーデックス基準の適用部位と一致しておらず (表1)、整合させることが望ましいとの提言がなされました2。この提言に従って、残留基準値が適用される部位が果皮を含まないものから全果実 (果皮を含む) へ切り替えられる農薬が増加しており (表2)、今後もこの傾向が続くことが予想されます。一方で、果肉と果皮では成分の差異があるため、これまで果肉のみを対象とした分析手法が果皮を含む全果実を対象としても適用可能かどうかは不明であり、妥当性評価ガイドライン3 に沿った検討を行う必要があります。そこで今回はメロンとみかんを対象にして、検査部位に果皮が加わった試料での当所の残留試験検査法の適用可能性を検討しました。
表1. 日本とコーデックス基準で検査部位が異なる代表的な作物
食品 |
日本 |
コーデックス基準 |
みかん |
外果皮を除去したもの |
果実全体 |
びわ |
果梗、果皮及び種子を除去したもの |
果梗(茎)を除いた全体 |
もも |
果皮及び種子を除去したもの |
種と果梗(茎)を除いた果実全体。ただし、残留濃度は果梗(茎)を除く全体に対して表す。 |
キウィー |
果皮を除去したもの |
指定がなければ果実全体 |
すいか |
果皮を除去したもの |
果梗(茎)を除いた全体 |
まくわうり |
果皮を除去したもの |
|
メロン類果実 |
果皮を除去したもの |
表2. テトラジホンの基準値適用部位および残留基準値の変更 (生食発1002第1号より抜粋)
改定前 |
改定後 |
||
食品 |
基準値 (ppm) |
食品 |
基準値 (ppm) |
メロン類果実 |
1 |
メロン類果実 (果皮を含む) |
2 |
みかん |
3 |
みかん (外果皮を含む) |
2 |
今回の検討では、当所で測定対象としている農薬の中から、全果実(果皮を含む)に適用される、メロンのチアクロプリドおよびテトラジホン、みかんのイソプロチオラン、テトラジホンおよびシアノホスについて評価しました。これら農薬の試料中での添加濃度を10および50 ppbとして5併行で添加回収試験を実施しました。LC-MS/MSでは当該作物から抽出したマトリックスを試験溶液と同一濃度になるように添加調製したMatrix Matched (MM) 検量線またはマトリックスを添加しない溶媒標準検量線を使用しました。GC-MS/MSでは汎用マトリックスとして野菜果実ジュース由来のマトリックスを添加したVegetable Fruit Juice (VFJ) 検量線4 またはMM検量線を使用しました。試験結果のうち真度および併行精度を表3に示しました。今回検討した農薬においては全て当所の検査法が適用可能でした。
今後も検査部位がコーデックス基準へと整合される農薬について、その残留基準値が適用される部位で同様の検討を行ない、検査の信頼性確保に努めていきます。
表3. メロンおよびみかんの全果実(果皮を含む)に適用される農薬の添加回収試験結果
食品 |
分析機器 |
農薬 |
検量線*1 |
10ppb添加*2 |
50ppb添加*2 |
||
真度 |
併行 |
真度 |
併行 |
||||
メ |
LC- |
チアクロプリド |
溶媒 |
101 |
6.5 |
104 |
5.3 |
MM |
100 |
7.0 |
110 |
5.9 |
|||
GC- |
テトラジホン |
VFJ |
84.7 |
5.5 |
81.5 |
3.7 |
|
MM |
86.5 |
7.8 |
94.6 |
4.4 |
|||
み |
LC- |
イソプロチオラン |
溶媒 |
90.8 |
4.1 |
89.3 |
2.4 |
MM |
99.0 |
4.6 |
100 |
2.8 |
|||
GC- |
テトラジホン |
VFJ |
109 |
8.5 |
109 |
8.2 |
|
MM |
95.4 |
6.2 |
105 |
8.5 |
|||
シアノホス |
VFJ |
79.4 |
3.8 |
84.9 |
9.2 |
||
MM |
88.6 |
3.5 |
83.6 |
8.8 |
*1 溶媒: 溶媒検量線, MM: Matrix Matched検量線, VFJ: Vegetable Fruit Juice検量線、*2 n=5
参考文献
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衛生化学部 食品化学1課
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