肺非結核性抗酸菌症が増えています
肺非結核性抗酸菌症とは、環境中に存在する非結核性抗酸菌によって起こる肺の感染症です。結核と似た症状や胸部画像所見を示しますが、基本的にヒトからヒトへは感染しません。
【近年増加が続いている肺非結核性抗酸菌症】
日本の結核罹患率(人口10万人当たりの患者数)は2021年から10未満となり、我が国は結核低まん延国となっています。一方、肺非結核性抗酸菌症は増加しており、現在では結核よりも多くの患者さんが発生していると考えられています。
肺非結核性抗酸菌症の推計罹患率は2013年には15.8、2017年は19.2と報告されています(1)。この罹患率19.2は、年間の新規患者数が2万4千人を超えていた2008年の結核罹患率(19.4)とほぼ同じです。2017年以降も肺非結核性抗酸菌症は増加傾向にあると言われていますので、現在の患者数はもっと多くなっていると考えられます。そのため、呼吸器診療の現場では結核と並んで重要な感染症となっています。
肺非結核性抗酸菌症の臨床症状は咳・喀痰・発熱・全身倦怠感・寝汗など結核とほぼ同じです。胸部レントゲン検査やCT検査でも結節や空洞など結核と似た所見を示します。それでは、結核と肺非結核性抗酸菌症はどのような違いがあるのでしょうか?
【結核と非結核性抗酸菌症の違い】
- 起因菌:結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染により起こります。結核菌は抗酸菌と呼ばれる細菌の一種です。
抗酸菌のうち結核菌群(結核菌、ウシ型結核菌等の5菌種)と「らい菌」を除いたものを非結核性抗酸菌と呼びます。非結核性抗酸菌には多くの種類がありますが、日本で肺非結核性抗酸菌症を引き起こす抗酸菌の9割近くはM. avium complex (MAC)と呼ばれる菌です。MACに次いで多いのがM. abscessus、M. kansasiiになります(1)。
- ヒトからヒトへの感染:結核はヒトからヒトへ感染するため、結核菌を排菌している患者は感染症法で二類感染症に指定され、隔離のため入院して治療を行います。一方、肺非結核性抗酸菌症は基本的にヒトからヒトへは感染しないため、感染症法の対象にはなっていません。また、肺非結核性抗酸菌症に罹っても隔離のための入院は必要ありません。ただし、症状が重篤な場合は治療のための入院が必要になることがあります。
- 診断基準:結核は肺に画像所見があり、喀痰検査で一度でも結核菌がみつかれば診断できます。しかし、非結核性抗酸菌は水や土壌などの環境中に存在していますので、喀痰検査をして非結核性抗酸菌が見つかっても環境中の菌が紛れ込んでいる場合があります。従って、症状や胸部CTなどの画像所見に加え、喀痰検査で繰り返し同じ非結核性抗酸菌が検出されることなどを総合して診断します(2)。
- 治療:結核感染症に対してはリファンピシン・イソニアジド・ピラジナミド・エタンブトール等の抗結核薬を複数用いる6か月間の化学療法が標準治療です。
肺非結核性抗酸菌症は症状や進行の程度によってはすぐに治療せず、経過観察を行う場合があります。治療が必要な場合はクラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)とエタンブトール、リファンピシンを用いた3剤併用化学療法が基本です。治療期間は喀痰中に菌が検出されなくなってから1年以上と長期になります。結核の標準化学治療終了後の再発率は1~2%と言われていますが、肺非結核性抗酸菌症の再発は頻繁なうえに難治性の場合もあり、内服治療に加え、吸入治療や外科手術による治療が適用されることもあります(3)。
【肺非結核性抗酸菌症を予防するには】
肺非結核性抗酸菌症は基本的にはヒトからヒトへは感染しませんが、治療に時間のかかる感染症です。環境中の非結核性抗酸菌がどのようにヒトに感染するかについて詳しいことはまだわかっていません。これまでの調査により、MAC菌は家庭環境中では浴室に存在しやすいこと(4)、河川にMAC菌をはじめ非結核性抗酸菌症の起因菌が存在すること(5)、その他、土壌や動物にも存在することがわかっています。これら環境中に存在する非結核性抗酸菌を含む埃や水滴を体内に取り込むことで感染は起こると考えられます。現時点では確実な予防法は確立されていませんが、浴室を清潔に保つことや、土壌や河川水に触れた後に手洗いを行うことが感染リスクを減らす可能性があります。
肺非結核性抗酸菌症は中高年の女性に多くみられます。また、気管支拡張症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患をお持ちの方は、発症リスクが高いことが知られています(6, 7)。咳や痰が長く続く場合や、健康診断で胸部異常陰影を指摘された場合は、速やかに呼吸器内科へご相談ください。
参考文献
- Hamaguchi Y, et al. Laboratory-based surveillance of nontuberculous mycobacterial pulmonary disease in Japan. ERJ Open Res. 11: 00337-2024, 2025.
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針─2024年改訂. 結核. 99(7): 267-270, 2024.
- 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解― 2023年改訂 ―. 結核. 98(5): 1-11, 2023.
- Nishiuchi Y, et al. Mycobacterium aviumcomplex organisms predominantly colonize in the bathtub inlets of patients’bathrooms. Jpn J Infect Dis. 62(3). 182-186. 2009.
- 有川健太郎、他.2016年度に実施した河川における非結核性抗酸菌の実態調査. 第91回日本細菌学学会総会. 2018. 3. 27-29.
- Izumi K, et al. Epidemiology of Adults and Children Treated for Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease in Japan. Ann Am Thorac Soc. 2019;16(3):341-347.
- Kamei R, et al. Prevalence of systemic and local resk factors for pulmonary non-tuberculosis mycobacterial disease in Japan: a single-institution study. J Rural Med. 2023; 18(3):168-174
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