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大阪健康安全基盤研究所

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侮ってはいけないセレウス菌食中毒 ~加熱でやっつけることはできません~

掲載日:2022年10月24日

食中毒は夏場のイメージが強いかもしれませんが、秋から冬にかけても注意が必要です。セレウス菌食中毒は、年間当りの発生件数・人数が少なく(参考文献1)、一般的に予後は良好と言われています。しかし、ごく稀に肝障害や脳症を発症し、死に至る場合があるため、その予防には注意を払う必要があります。

セレウス菌食中毒の種類

セレウス菌食中毒は発症のメカニズムにより、下痢型と嘔吐型に分類されます(参考文献2)。下痢型食中毒は、セレウス菌が腸管内で下痢毒を産生することにより、喫食後半日程度で腹痛・下痢を発症します。一方、嘔吐型食中毒は、食品中でセレウス菌が生成した嘔吐毒を摂取することにより、喫食後短時間で吐き気や嘔吐などの症状がでます。そして、この嘔吐型食中毒において、ごく稀に肝障害や脳症を発症することがあります。この重篤化の原因は、摂取した嘔吐毒の量が関係すると考えられます。日本国内で発生するセレウス菌食中毒のほとんどは嘔吐型であり、下痢型はごく稀です。この嘔吐型食中毒には、焼飯等の米飯類やスパゲッティ等の麺類が原因食品になることが多いという特徴があります。

セレウス菌の特徴

セレウス菌は土壌細菌であり、かつ芽胞という物理化学的に安定で耐熱性を有する構造体を形成します(図)。環境中では芽胞の状態で広く分布するため、穀類や野菜などの農産物が汚染される可能性が高いです。セレウス菌は1050℃の温度域で発育しますが、嘔吐毒は2530℃で最もよく生成され、8℃以下あるいは40℃以上の温度域ではほとんど生成されないと報告されています。嘔吐型のセレウス菌食中毒は、他の細菌性食中毒と同様、夏場に発生が多い傾向を示しますが、9月~12月にも発生が認められます。これは、夏場や冬場であっても冷暖房によってヒトが快適に暮らせる温度を保つことで、嘔吐毒の生成に適した温度になってしまうことが原因ではないかと推測されます。図 セレウス菌の芽胞染色像
図セレウス菌の芽胞染色像
緑~青緑色に染まっているのが芽胞。菌体(栄養細胞)の内部に作られる。

セレウス菌食中毒の予防について

細菌性食中毒予防の3原則は、病原細菌を「付けない」、「増やさない」、「やっつける」です(参考文献3)。これは、最終的に加熱調理を行って菌をやっつければ大丈夫ということではありません。3つの原則をきちんと守ることが必要です。しかし、どの原則に重点をおくのかは、病原細菌の種類によって異なることがあります。セレウス菌の場合は耐熱性を有する芽胞を作ります。さらに、セレウス菌が生成する嘔吐毒は、この芽胞よりも極めて高い耐熱性を有し、芽胞が死滅する条件(121℃、20分)であっても壊すことができません。つまり、食品中でセレウス菌が増殖して一旦嘔吐毒を生成してしまったら、加熱調理しても嘔吐毒は壊すことができず、セレウス菌食中毒を防ぐことはできません。その予防には、食品に菌を「付けない」と「増やさない」を、特に「増やさない」を徹底的に注意し、嘔吐毒を生成させないことが重要になります。そのためには、(1) 1回の食事で食べきれる分を調理し、調理後はすぐに喫食する、(2) やむを得ずに食品を保存する場合は、速やかに冷蔵(5℃以下)あるいは温蔵(65℃以上)で、もしくは冷凍保存することを心掛けてください。繰り返しになりますが、食品中でセレウス菌によって生成されてしまった嘔吐毒は、高温で再加熱しても壊すことができず、食中毒を防ぐことはできません。

参考文献

  1. 食中毒統計資料 - 厚生労働省(外部サイトにアクセスします)
  2. 河合高生, 浅尾努, Bacillus cereus, 食品由来感染症と食品微生物, p.439-455, 中央法規出版, 東京 (2009).
  3. 家庭での食中毒予防 - 厚生労働省(外部サイトにアクセスします)

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368