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大阪健康安全基盤研究所

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食中毒原因菌Escherichia albertiiの自然界における分布について

掲載日:2022年1月18日

はじめに

 Escherichia albertiiはヒトに下痢等の消化器症状を引き起こす食中毒菌で、2003年にEscherichia属菌の新種として発表されました。本菌は腸管病原性大腸菌 (EPEC) と同様にLocus of Enterocyte Effacement (LEE) と呼ばれる病原性遺伝子島を保有しています。また、多くの菌株が細胞膨化致死毒素 (CDT) を産生します。さらに、一部の菌株は志賀毒素2型サブタイプf (Stx2f) を産生することも知られており、国内において本菌による溶血性尿毒症症候群の発症事例も1例報告されています (1)

 E. albertiiによる食中毒

 近年、国内では本菌が原因の食中毒事例が発生しており、患者数が100名を超える事例も複数報告されています () いくつかの事例では原因となった食事、もしくは食品が特定されていますが、汚染経路が明らかでないものも多くあります。

国内で発生したE. albertiiが原因とされた食中毒、集団感染事例

発生年

発生場所

患者数

原因食品など

文献

2003

福岡市

20

おにぎり弁当(推定)

(1)

2005

福岡市・大分県

176

キャンプ場の湧水

(1)

2008

福岡県

2

焼き鳥店での飲食物

(1)

2011

熊本県

48

井戸水(推定)

(1)

2013

熊本県

70

サラダ等

(1)

2015

広島県

44

不明

(1)

2016

沖縄県

217

ニガナの白和え

(1)

2016

静岡県

154

野営訓練中の食事

(1)

2017

宇都宮市

137

野外活動、研修施設内の食事

(2)

2019

秋田県

54

イベントで提供された食事

(3)

2020

大津市

118

春雨サラダ

(4)

 

E. albertiiの自然界における分布

 本菌の自然宿主やヒトへの感染経路の実態は明らかになっていませんが、近年の調査で野生動物や環境水からの検出が多く報告されています。

 野鳥はE. albertiiの代表的な保菌動物であると考えられていて、国内でも留鳥や渡り鳥を問わず、様々な鳥種から検出されています (5) 一方で、自然宿主を含めた保菌動物の全体像については不明な点が多く残されています。Odoiらの報告によると、国内の4県で捕獲されたカワウの総排泄腔スワブよりE. albertiiが分離されています (6) 当所でも国内で捕獲されたカワウの保菌調査を実施したところ、7個体中4個体の腸管内容物から本菌が分離されました。カワウは魚食性鳥類で、国内に広く分布しています。群れで行動し、行動範囲が広く、採食や営巣のために都府県を越えて移動することがあると言われています。このような習性は本菌の拡散に影響する可能性があると考えられます。

 野生の哺乳類では、大阪府で捕獲されたアライグマの直腸スワブや、岡山県に生息するイタチ又はテンやキツネの糞便からE. albertiiが検出されています (78)

 その他、秋田県や大分県では河川水からも検出されており、野生動物の糞便由来の菌が河川を汚染している可能性が考えられています (910)

 このように、E. albertiiの保菌動物として、一部の野生の鳥類・哺乳類が知られていますが、その詳細な分布など分かっていないことも多くあり、今後の研究に期待されます。

kawau   araiguma

 

おわりに

 大安研では、大阪府内で本菌による食中毒事例が発生した場合に対応するため、検査体制を構築するとともに、その調査研究にも積極的に取り組んで成果を上げています (11)

 

参考文献

(1) 病原微生物検出情報, 37, 99, 252-255 (2016)

(2) 病原微生物検出情報, 38, 175-176 (2017)

(3) 樫尾拓子ら 複数のO抗原遺伝子型のEscherichia albertiiが病因物質として特定された食中毒事例. 日本食品微生物学会雑誌, 37, 183-187 (2020)

(4) 大津市ホームページ 食中毒、食品回収情報 https://www.city.otsu.lg.jp/soshiki/021/ 1441/sokuhou/1386907384336.html

(5) Murakami, K., et al. Non-biogroup 1 or 2 Strains of the Emerging Zoonotic Pathogen Escherichia albertii, Their Proposed Assignment to Biogroup 3, and Their Commonly Detected Characteristics. Front. Microbiol., 10, Article 1543 (2019)

(6) Odoi, O., J., et al. Prevalence of antimicrobial resistance in bacteria isolated from Great

Cormorants (Phalacrocorax carbo hanedae) in Japan. J. Vet. Med. Sci., 83, 1191-1195 (2021)

(7) Hinenoya, A., et al. Prevalence of Escherichia albertii in Raccoons (Procyon lotor), Japan. Emerg. Infect. Dis., 26, 1304-1307 (2020)

(8) 野生動物から検出されたEscherichia albertii. 環保センターだより, 27, 2-3 (2019)

(9) 高橋志保ら 秋田県内の環境水からのEscherichia albertiiの検出と分離株の性状. 日本食品微生物学会雑誌, 37, 81-86 (2020)

(10) 溝腰朗人ら 大分県におけるEscherichia albertiiにおける疫学調査. 大分県衛生環境研究センター年報, 47, 33-37 (2019)

(11) Wakabayashi, Y., et al. Proposal of a novel selective enrichment broth, NCT-mTSB for isolation of Escherichia albertii from poultry samples. J. Appl. Microbiol., Early View (2021) https://doi.org/10.1111/jam.15353

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368