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大阪健康安全基盤研究所

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食中毒起因カンピロバクターの遺伝子型別を実施しています

掲載日:2021年6月28日

令和2年における国内の食中毒事件総数は887件で、新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、前年の1,061件よりも減少しました。病因物質別ではカンピロバクターによる事件数は887件中182件であり、アニサキスの386件に次いで2番目に多く、依然としてわが国の主要な食中毒原因細菌と言えます。私たちは、食中毒患者糞便から分離されたカンピロバクターの遺伝子型別を実施し、食中毒起因カンピロバクターの特徴解析や大阪市食肉衛生検査所との共同研究でニワトリ、ウシ由来株との比較解析を実施しています。

1. Multiplex PCR binary typingmP-BIT)とは?

PCR(遺伝子増幅反応)を応用した型別法の一種です。例えば図1Aの右の画像のように、10遺伝子を標的とした20種類のプライマーを用いてPCRを実施すると、対象とした菌株が遺伝子を保有していれば、該当するサイズに増幅産物を得ることができます。図1AではStrain No.1は保有する8遺伝子が増幅された結果、8本のバンドとして検出されています。mP-BIT法はカンピロバクター(C. jejuni)の病原因子あるいは薬剤耐性に関わる19遺伝子を標的遺伝子とし、これらの遺伝子保有の有無を01データに置き換えてパターン化し、解析ソフトを用いて菌株の関連性を調べる方法です。19遺伝子の保有パターンからJ-1J-2J-3…というように任意にmP-BITタイプ番号を付与しました(図1Bに一部を抜粋しています)。

P-BIT_1

2. 食中毒患者由来カンピロバクターのmP-BITによる型別

20112016年に食中毒原因究明調査を実施した111事例から分離されたカンピロバクター(C. jejuni391株について、mP-BITによる型別を実施しました。その結果、391株はJ-1からJ-69までの69パターンに型別されました。これらのうち、J-27タイプには28事例由来115株(29.4%)が含まれ、最も多いタイプでした。次に多かったのがJ-35タイプで15事例由来31株(7.9%)が含まれました。

3. 食中毒患者、ニワトリおよびウシ由来カンピロバクターのmP-BITによる型別

ニワトリが消化管にカンピロバクターを保菌していることはよく知られていますが、ウシも胆汁には高率でカンピロバクターを保有しています。2012年に牛レバーの生食が禁止されるようになったとはいえ、ウシとニワトリが保菌するカンピロバクターの特徴が異なる可能性があると考え、由来の異なるこれらの菌株をmP-BITにより型別し、食中毒事例との関連性を調べました。20112014年に食中毒原因究明調査を実施した53事例由来159株(C. jejuni 138株、C. coli 21株)、同時期に大阪市食肉衛生検査所でウシ胆汁から分離されたカンピロバクター151株(C. jejuni 143株、C. coli 8株)とニワトリのふきとり材料(胸部および総排泄腔)およびニワトリを解体する際の処理水から分離された76株のC. jejuni、計386株を使用し、mP-BITによる型別を実施しました。その結果を図2に示します。同じmP-BITタイプを示す菌株が2株以上ある場合、それをクラスターと呼びます。アルファベットのAEは食中毒患者とニワトリ由来株、aiは食中毒患者とウシ由来株で形成されるクラスターを示します(hC. coliで形成されるクラスター)。二つの大きなクラスターABは食中毒患者およびニワトリ由来株から形成されました。クラスターA13事例由来27株(うち9事例が鶏肉関連)とニワトリ由来12株から形成され、クラスターB9事例由来19株(うち7事例が鶏肉関連)とニワトリ由来19株から形成されています。ニワトリ由来株の主要なタイプがカンピロバクター食中毒の発生に関与している可能性が考えられました。

P-BIT_2

参考文献

1Yamada, K., Ibata, A., Suzuki, M., Matsumoto, M., Yamashita, T., et al. Designing multiplex PCR system of Campylobacter jejuni for efficient typing improving monoplex PCR binary typing method. Journal of Infectious Chemotheraphy. 21, 50-54 (2015)

2)中村寛海、山本香織、藤原淳史、平山照雄、秋吉充子、梅田薫、小笠原準.食中毒患者,ニワトリおよびウシ由来カンピロバクターのmultiplex PCR binary typing法による型別.日本食品微生物学会雑誌37, 132-142 (2020)

3)内閣府食品安全委員会.食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏肉等におけるCampylobacter jejuni / coli

カンピロバクターについては、以下の記事でも紹介させていただきました。興味のある方はご一読ください。(カンピロバクターの環境中における巧みな生存戦略―私って、意外とタフなんです!http://www.iph.osaka.jp/s009/20180816111646.html


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