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大阪健康安全基盤研究所

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感染症の基礎知識を知って、細菌性感染症”レジオネラ肺炎”を予防しよう

掲載日:2021年3月24日

病原微生物と感染症

肉眼では見えないような大きさの生物のことを微生物と呼びます。微生物は、個体の大きさや生活様式によって、寄生虫や細菌、ウイルスなどに分類されます。微生物の中には、ヒトに良い影響を与えるもの、無害なもの、有害なものなど様々なものが存在しています。

ヒトを含む動物に病気を引き起こす能力のことを病原性といいます。そして、病原性を持った生物のことを病原体といい、特に病原体が微生物であった場合は、病原微生物と呼びます。感染症とは、環境中(大気、水、土壌、動物(ヒトも含む)など)に存在する病原体がヒトの体内に侵入することで引き起こされる疾患のことをいいます。

レジオネラ肺炎

レジオネラ症は、レジオネラニューモフィラを代表とする細菌(レジオネラ属菌)が原因となって、発生します。レジオネラ症の中で肺炎が認められる病型をレジオネラ肺炎と呼びます。症状として、全身倦怠感、頭痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、咳や38℃以上の高熱、寒気、胸痛、呼吸困難が見られるようになります。まれに、心筋炎などの肺以外に症状が認められることもあります。また、意識レベルの低下、幻覚、手足が震えるなどの症状や、下痢がみられるのもレジオネラ肺炎の特徴とされています。軽症例もあるものの、適切な治療がなされなかった場合には急速に症状が進行し、命にかかわることもあります。レジオネラ症には他に、一過性の発熱、悪寒、筋肉痛などの症状を呈した後、自然治癒するポンティアック熱と呼ばれる病型も知られています。

年度別レジオネラ症例報告数をみると(下グラフ)、全国・大阪府ともに、報告数が右肩上がりの増加傾向にありますが、これには診断基準の変更や、迅速診断キットの導入を含む診断技術の改良による影響が指摘されています。また、男性患者が多い傾向にありますが、その要因は明らかになっていません。

今回は、感染症に関わる基礎知識を踏まえて、レジオネラ肺炎の予防策を紹介します。

Legionella_1

感染発症の違い、感染症発生の3要素とは?

感染症に関わる用語で、定義や使用される場面が混同されやすい言葉に、感染と発症があります。感染とは、病原体がヒトの体内に侵入し、定着、増殖することであり、発症とは体内で増殖した病原体によってヒトに症状がでることです。そのため、病原体の種類や感染したヒトの健康状態によっては、感染しているけども、発症しなかった、もしくは、まだ発症していないという状態が生じます。そのような状態のことを不顕性(ふけんせい)感染といいます。一方で、感染し、発症もした状態のことを顕性(けんせい)感染と呼び、この状態でもって、初めて感染症が発生した、感染症に罹った(病気になった、罹患した)ことを認識できることが多いです。

感染症を考えるうえで、重要な概念として、感染症発生の3要素があります。

感染症発生の3要素

1)感染源:病原体を含んでいるもの(大気、水、土壌)や動物(ヒトも含む)

具体例として、感染した動物の排泄物、嘔吐物、血液、体液、それらで汚染されたものや食品があります。

2)感染経路:病原体がヒトの体内に入る方法

代表的なものに接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)があります。

3)感受性宿主:ヒトのなかでも病原体が増殖しやすい状態になっているヒト

性別、年齢、体調、既往歴(他の病歴、ワクチン接種歴)などが関係します。

レジオネラ肺炎における感染症発生の3要素と感染症予防の考え方

感染症発生の3要素が一つでも欠ければ、感染症が発生しないことが知られています。3要素に着目した予防策を講じる考え方を感染症予防の3原則と呼び、感染症予防を考えるうえで大事な着眼点になっています。

ここでは、レジオネラ肺炎における感染症発生の3要素についての知見と感染症予防の3原則に着目した予防策を紹介します。

1)感染源

レジオネラ属菌に汚染された水(循環水、河川水)や土壌。

家庭においては、清掃不十分な追い炊き機能付き風呂、24時間風呂、加湿器。

2)感染経路

飛沫化した汚染水の吸引。汚染水そのものの吸引・誤嚥。土壌の粉塵の吸引。

なお、レジオネラ属菌に感染したヒトからヒトへ感染した報告はありません。

3)感受性宿主

高齢者、新生児、免疫機能が低下している人(大酒家および喫煙の習慣のある人、透析治療や移植治療を受けた人)

この3要素がすべて揃った時に、感染症が発生します。ただし、病原体によって、環境中での生存能力や病原体自体の生活様式が異なるため、感染症発生の主因となるような、3要素の中身は異なっています。対象とする感染症についての詳細な知見を集めることは必須であり、知見の蓄積を続けることによって、より効果的な感染症への対処法を提案できるようになります。

Legionella_2

感染症発生の3要素から考える、レジオネラ肺炎の予防策

感染源:水環境を清潔に保つことが最も効果的です。家庭では、浴室や追い炊き機能付き浴槽の定期的な清掃を心がけましょう。その他、清掃不十分な加湿器が感染源となった事例が報告されていることから、加湿器の定期的な清掃を忘れないようにしましょう。

感染経路:水しぶきを立てている人工環境水や土埃が立ちやすい環境をさけることが有効と思われます。土木作業員の方や園芸が趣味の方でのレジオネラ肺炎の報告事例があります。また、災害ボランティア活動における瓦礫処理の際にもレジオネラ属菌による感染の危険性が指摘されているため、そのような活動時には、土埃対策を忘れないようにしましょう。

感受性宿主:一般的にワクチン接種が最も有効な方法なのですが、現在レジオネラ肺炎を予防できるワクチンはなく、直接的な予防策はありません。そこで、高齢者や免疫機能が低下している方、もしくは、そのような方や新生児が周りにいる方は、より一層の感染源や感染経路に関連する予防策を実践することが望ましいです。もし、感受性宿主にあたる方が体調を崩して、病院に掛かる場合には、家庭の浴槽や加湿器の清掃状況や、直近の約2週間における、土木作業や園芸作業を行った、公衆浴場を利用したなどの行動履歴について申し出るようにしましょう。診断の手助けになります。

なお、多数の方が利用する公衆浴場、宿泊施設、旅客船舶等の施設又は高齢者、新生児及び免疫機能が低下する疾患にかかっている方が多い医療施設、社会福祉施設等においては、感染源、感染経路となる可能性のある設備の衛生上の措置を徹底して講ずることが求められています。

さいごに

様々な感染症を予防するためには、正しく恐れて、適切に対処することが重要です。正しく恐れることができれば、必要最小限の予防策を実践できるようになり、次第に習慣化され、無意識に感染症対策を実践できると考えています。

大安研では、最新で良質な情報を提供できるよう、検査業務、研究事業を推進しています。現在、大阪府内で分離されたレジオネラ属菌の菌株について、菌株同士の近縁性を調べるとともに、その解析手法の改良、ヒトへの病原性リスクをもつ菌株集団の特定に努めています。

参考資料

  • 厚生労働省-レジオネラ症 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00393.html)
  • 厚生労働省-レジオネラ対策のページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124204.html)
  • 厚生労働省-レジオネラ症を予防するために必要な処置に関する技術上の指針(https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/rezionerashishin.pdf)


お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368