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大阪健康安全基盤研究所

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ウェルシュ菌エンテロトキシン遺伝子(cpe、becA、becB)マルチプレックスPCR

掲載日:2016年7月28日

ウエルシュ菌は食中毒の原因菌の一つであり、その病原因子としてClostridium perfringens enterotoxin(CPE)が知られていました。ところが、当所では2009年と2010年にウルシュ菌による食中毒が強く疑われるにもかかわらず、分離されたウルシュ菌からCPEが検出されない事例を経験しました。そして、このウルシュ菌から新規エンテロトキシンBEC(binary enterotoxin of C. perfringens)を同定しました1)。BECはBECa(becA)とBECb(becB)で構成される2成分毒素であり、ADPリボシル化2成分毒素に分類されることが分かっています1)

BECの同定によりウルシュ菌による食中毒が疑われる場合、CPEとBECの両方を標的として検査することが必要となり、これらを同時に検出できる系の構築が望まれました。当所ではcpe遺伝子、becAおよびbecB遺伝子と全てのウルシュ菌が保有するホスホリパーゼC(plc)遺伝子をコントロールとして同時に検出できるマルチプレックスPCR法を構築し2)、3)、検査に応用しています。本法は比較的良好な感度と高い特異性を有しており、市販試薬を用いて通常のPCRが行える検査室において簡便に実施できます。

以下にその実施例をご紹介します。

試料からのDNA抽出法

器具および試薬

  • ヒートブロック
  • 25mM NaOH
  • Tris-HCl (1mol l-1, pH7.5)
  • 1μlループ
  • 1.5mlチューブ
  • マイクロピペット及び滅菌チップ

分離菌からのDNA抽出法(アルカリ熱抽出法)

  • 50μlの25mM NaOHに1μlループほどの菌を懸濁する。
  • 懸濁液を95℃で5分間加熱する(ヒートブロックなどを使用する)。
  • 4μlのTris-HClバッファー(1mol l-1, pH7.5)で中和する。
  • 15,000gで5分間遠心し、上清をテンプレートとする。

注)ボイル法で作製したテンプレートも使用可能

マルチプレックスPCR法と電気泳動

器具および試薬

  • サーマルサイクラー
  • アガロースゲル電気泳動装置
  • トランスイルミネーター
  • 反応チューブ
  • QIAGEN Multiplex PCR Plus Kit (100) (QIAGEN Cat. no. 206152)
  • Primer(表1を参照)
  • 精製水(PCRグレード)
  • マイクロピペット及び滅菌チップ
  • アガロースゲル
  • エチジウムブロマイド(EtBr)

PCR反応

マルチプレックスPCR反応液(25μl反応系)

2x Multiplex PCR Master Mix (Qiagen) 12.5μl
plcおよびcpeに対する各プライマー 0.4μM 最終濃度
becAおよびbecBに対する各プライマー 0.2μM
DNAテンプレート(少なくとも10pg DNA/25μl) 1μl
   全量が25μlとなるようにDWを加える
表1. 使用したプライマー
標的遺伝子 プライマー名 配列(5'-3') PCR産物の大きさ(bp)
cpe CPE F ggagatggttggatattagg 233
  CPE R ggaccagcagttgtagata  
becA注1 becA F caatggggcgaagaaaatta 499
  becA R aaccatgatcaattaaaacctca  
becB注1 becB F tgcaaatgacccttacactga 416
  becB R agattggagcagagccagaa  
plc注2 CPA F gctaatgttactgccgttga 324
  CPA R cctctgatacatcgtgtaag  

注1 下痢症の主因はBECbであり、BECbの存在下でBECaは補助的にその液体貯留活性を高める1)。両成分とも下痢症の発生に関与することから、本法ではbecAおよびbecB両遺伝子を標的にした。
注2 全てのウルシュ菌が保有するホスホリパーゼC(plc)遺伝子であり、コントロールとして使用した。

PCR反応条件

アガロースゲル電気泳動

2.5~3.0%のアガロースゲルを作製し、100Vで35~45分間、電気泳動する。
注)2.5~3.0%のアガロースゲルは突沸しやすいのでやけどに注意

図1

3. 本法の感度と特異性(文献3参照)

感度について

 cpe遺伝子保有株であるC. perfringens NCTC8239株およびbecAB遺伝子保有株であるC. perfringens OS1株を使用して本法の感度を調べた。

(方法)菌株それぞれをTGY培地 (3% Trypticase soy (BD)、2% D-glucose (Wako Pure Chemical Industries、Ltd.; Osaka, Japan)、1% yeast extract (BD)、and 0.1% L-cysteine (Wako)) で培養し、滅菌した同培地で10倍段階希釈した。培養液および希釈液それぞれを1ml分取し、遠心後、上清を除去して100μlの25mM NaOHで懸濁した。上述のアルカリ熱抽出法(1.2))により懸濁液からDNAを抽出し、PCRを実施した。

(結果)C. perfringens NCTC8239のcpe遺伝子は104 CFU/ml(図2A)、C. perfringens OS1株のbecAB遺伝子は103 CFU/ml(図2B)の菌液から検出された。本法は比較的良好な感度を有していた。

図2

特異性について

 ウルシュ菌株41株、ウルシュ菌以外のクロストリジウム属菌21株およびその他の菌種145株からDNAを抽出し本法の特異性を確認した。

(方法)それぞれの菌株は血液寒天培地あるいはトリプトソーイ寒天培地を使用して37℃で十分な菌量が得られるまで培養した。嫌気性菌はガスパック法により嫌気条件下で培養した。上述のアルカリ熱抽出法(1.2))によりDNAを抽出し、PCRを実施した。

(結果)Pseudomonas aeruginosaから抽出したDNAをテンプレートとした場合、わずかに非特異的な増幅産物が確認されたが(図3の4~7)、その他の菌株から抽出されたDNAを使用した場合は非特異的な増幅産物は確認されなかった。よって本法は非常に高い特異性を持つことが確認された。

図3

参考文献

  1. Yonogi, S., Matsuda, S., Kawai, T., Yoda, T., Harada, T., Kumeda, Y., Gotoh, K., Hiyoshi, H., Nakamura, S., Kodama, T., Iida, T., 2014. BEC, a novel enterotoxin of Clostridium perfringens found in human clinical isolates from acute gastroenteritis outbreaks. Infect. Immun. 82 (6), 2390-2399.
    Infection and Immunity(外部サイトにリンクします)
  2. 平成26 年度 厚生労働科学研究費補助金報告書(食品の安全確保推進研究事業)食品中の食中毒菌等の遺伝特性及び制御に関する研究
    分担研究報告書(遺伝子検出法と培養法を用いたエンテロトキシン産生性非産生性ウエルシュ菌の食品汚染実態調査)
    厚生労働科学研究成果データベース(外部サイトにリンクします)
  3. Yonogi, S., Kanki, M., Ohnishi, T., Shiono, M., Iida, T., Kumeda, Y., 2016, Development and application of a multiplex PCR assay for detection of the Clostridium perfringens enterotoxin-encoding genes cpe and becAB. J Microbiol Methods. 127,172-175. doi: 10.1016/j.mimet.2016.06.007.
  4. Erol, I., Goncuoglu, M., Ayaz, N.D., Bilir-Ormanci, F.S., Hildebrandt, G., 2008. Molecular typing of Clostridium perfringens isolated from turkey meat by multiplex PCR. Lett Appl Microbiol. 47 (1), 31-34. doi: 10.1111/j.1472-765X.2008.02379.x.
  5. Meer, R.R., Songer, J.G., 1997. Multiplex polymerase chain reaction assay for genotyping Clostridium perfringens. Am J Vet Res. 58 (7), 702-705.

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1321