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大阪健康安全基盤研究所

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ご存じですか?非結核性抗酸菌症が増えています

掲載日:2020年10月23日

【近年増加している非結核性抗酸菌症】

肺の非結核性抗酸菌症は、近年世界的に増加しており[1,2]、日本においても同様に増加傾向にあると言われています。肺の非結核性抗酸菌症の臨床症状は、咳・喀痰・発熱・全身倦怠感・寝汗などで、同じ肺の疾患である「結核」の症状とほぼ同じです。実際に、肺の画像所見上でも結節や空洞など結核と似た異常を示します。結核と非結核性抗酸菌症はどちらも細菌による感染症ですが、その違いは何でしょうか?

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【結核と非結核性抗酸菌症の違い】

  • 起因菌:結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染により起こります。結核菌は抗酸菌と呼ばれる細菌群の一種です。抗酸菌のうち結核菌群(結核菌、ウシ型結核菌等5菌種)と“らい菌”を除いたものを“非結核性抗酸菌”と呼びます。非結核性抗酸菌は190種以上報告されており、そのうちの多くが非結核性抗酸菌症の原因となります[2]。しかし、非結核性抗酸菌症を引き起こす抗酸菌の9割近くは、Mycobacterium avium intracellulareです。これら2種類の菌は遺伝的に非常に似ているため、まとめてM. avium complex (MAC)と呼ばれます。MAC菌に次いで多い起因菌はM. abscessus, M. kansasiiになります[2]
  • ヒトからヒトへの感染:結核菌はヒトからヒトへの感染性が強く、結核は感染症法で二類感染症に指定されています。結核と診断され喀痰検査で菌陽性の場合は入院が必要となります。一方、非結核性抗酸菌はヒトからヒトへは感染しないため、非結核性抗酸菌症に罹っても隔離のための入院は必要ではなく、一般病床あるいは外来にて治療を行います(ただし、症状が重篤な場合は、治療のための入院が必要になることがあります)。
  • 診断基準:結核は、肺に画像所見があり、喀痰検査で結核菌が一度でも見つかれば診断できます。しかし、非結核性抗酸菌症は、喀痰検査により非結核性抗酸菌が見つかっただけでは診断できません。これは、非結核性抗酸菌が水や土壌など環境中に存在し、単に環境中の菌が紛れ込んでいることも考えられるためです。従って、非結核性抗酸菌症には次のような診断基準があります。

・何らかの呼吸器症状があること

・肺の画像所見に異常があり、非結核性抗酸菌症以外の疾患の可能性が除外されること

・喀痰検査で異なる喀痰検体から2回以上同じ菌種の非結核性抗酸菌が見つかること

  • 治療:結核に対しては、抗結核薬(リファンピシン・イソニアジド・ピラジナミド・エタンブトール等)を複数用いた化学療法(6か月)が標準治療です。一方、非結核性抗酸菌症に対しては、非結核性抗酸菌が多くの抗結核薬にもともと耐性を持つことから、感受性のある2種類の抗結核薬とクラリスロマイシンを用いた化学療法が標準治療となります。治療期間は喀痰中に菌が検出されなくなってから1年以上と長期になります。結核の標準化学治療終了後の再発率は12%と言われています[4]が、非結核性抗酸菌症の再発は、頻繁なうえに難治性の場合もあり、外科手術による治療が適用されることもあります。
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【非結核性抗酸菌症の患者数について】

厚生労働省が提供するレセプト*情報から、2013年の非結核性抗酸菌症の国内罹患率(人口10万人あたりの患者数)は24.4と推定されています[3]。この罹患率は、年間の新規患者数が3万人を超えていた2003年の結核罹患率24.8とほぼ同じです。非結核性抗酸菌症は増加傾向にあると言われているため、現在の患者数はもっと多くなっていると考えられます。近年、過去に基礎疾患のない中年以降の女性患者の増加が認められますが、なぜ女性に多いのかは、はっきりとはわかっていません。

*レセプト:医療機関が医療費の保険給付分の支払いを審査支払い機関に請求するための明細書

 

【非結核性抗酸菌症を予防するには】

このように、非結核性抗酸菌症はヒトからヒトに感染しませんが、治療に時間を要する感染症です。予防できると一番良いのですが、環境中の非結核性抗酸菌が、どのようにヒトに感染するかについて、詳しいことはまだわかっていません。これまでの調査により、MAC菌は家庭環境中では浴室に存在しやすいこと[5]、河川にMAC菌をはじめ非結核性抗酸菌症の起因菌が存在すること[6]、その他、土壌や動物にも存在することが判っています。これら環境中に存在する非結核性抗酸菌を含む埃や水滴が体内に取り込まれることで感染が起こると考えられます。自然環境(河川水や土壌)や動物に触れたら手をしっかり洗う、浴室は菌が増えないようにしっかり乾燥させる、などの対策が非結核性抗酸菌症の予防につながります。

 

参考文献

  1. C L Daley et al. Treatment of nontuberculous mycobacterial pulmonary disease: An official ATS/ERS/ESCMID/IDSA clinical practice guideline. Clin Infect Dis. 2020:71(4): e1-e36.
  2. Prevots DR, Marras TK. Epidemiology of human pulmonary infection with nontuberculous mycobacteria: a review. Clin Chest Med. 2015: 36:13-
  3. 倉島篤行. 増加している非結核性抗酸菌症(前編). 複十字.2020: 392(5):5-6.
  4. 山岸文雄.結核の疫学・診断・治療・予防.日内会誌.2012時10分1: 1691-1697.
  5. Y Nishiuchi et al. Mycobacterium aviumcomplex organisms predominantly colonize in the bathtub inlets of patients’bathrooms. Jpn J Infect Dis. 2009: 62(3):  182-186.
  6. 有川健太郎、他.2015,2016年度に実施した河川における非結核性抗酸菌の実態調査.第91回日本細菌学会総会.2018時3分: 27-29

 

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微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368