コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 感染症 > 住宅地の蚊ーヒトスジシマカとアカイエカー(2022年8月3日)

住宅地の蚊ーヒトスジシマカとアカイエカー(2022年8月3日)

フリーイラスト

は大嫌いで見たくもない方が多いかもしれません。それでも、黒くて白い縞の入った蚊と、赤茶色の蚊は見たことがあることでしょう。これらがヒトスジシマカとアカイエカです。住宅地や近所の公園で出会う蚊の9割以上がこの2種類なのです。今回は蚊の立場から、どのような暮らし方をして都会で繁栄しているかを紹介しましょう。

ヒトスジシマカ
ヒトスジシマカ(オス)

アカイエカ
アカイエカ(メス)

活動時間

昼間、公園に出かけて藪(やぶ)に入ると、無数に寄ってきて吸血するのがヒトスジシマカ(ヤブ蚊)です。それに対して、夜、床につくと耳元でブーンと羽音をたてるのはアカイエカ(イエ蚊)です。蚊は直射日光が苦手です。日陰の藪で昼に活動するか、夜間に活発に活動するかの選択になるのでしょう。クモなどの天敵や吸血の対象となる動物に対して、ヒトスジシマカの縞模様には蚊の正確な位置を把握しにくくする効果があると考えられています。アカイエカは、昼間は葉の裏などでじっとして夜に飛び回るので目立たない色をしています。

 

飛ぶ高さと吸血する動物

は雌も雄も花の蜜や樹液を吸って生活していますが、雌は卵を作るために動物から血を吸います。ヒトスジシマカは地表近くを飛び回り、地上にいる哺乳類から好んで吸血します。とくに人の血を好みます。半ズボンで素足にサンダルで藪に入ると、足元を集中的に刺されます。一方、アカイエカは地上数mの高さを飛ぶことが多く、とくに木の上にいる鳥からよく吸血します。もちろん、人からもある程度吸血します。

 

ボウフラが住む場所

の幼虫はボウフラと呼ばれ、水中で生活します。ヒトスジシマカのボウフラは木の洞、空き缶、植木鉢の水受けなどに溜まった少量の水に発生します。1mℓの水でもボウフラが育つことがあるそうです。アカイエカのボウフラは、泳ぎが得意で水量が多い場所を好むため、道路の側溝や雨水桝などに溜まった水で育ちます。

カの幼虫ーボウフラ(アカイエカ)蚊の幼虫ーボウフラ(アカイエカ)
 
雨水桝ー水が溜まるとボウフラが発生する雨水桝 水が溜まるとボウフラが発生する
 

移動距離

は花の蜜や吸血する動物、交尾相手、産卵する水を求めて移動します。ヒトスジシマカの移動距離は100m程度とあまり移動しないことが分かっています。これは、蚊に色を付けた粉をまぶした後、屋外に放し、いろいろな距離で再度捕獲する実験をして明らかになったことです。ヒトスジシマカが好む小さな水溜まりは狭い範囲にたくさんあります。だからあまり移動しないのでしょう。卵は水面付近にバラバラに産み付けられ、乾燥に耐えます。また、卵は一度にふ化(卵から幼虫になること)せず、雨が降って水位が増すとふ化が進行します。一方、アカイエカは水量の多い水溜まりを探すために、数km移動します。卵は水面にまとめて産み付けられ、一斉にふ化します。

 

蚊と感染症の関係

はさまざまな病原体を媒介(感染を仲介)します。ヒトスジシマカはデング熱、ジカ熱、チクングニア熱(注1)の原因となるウイルスを媒介します。いずれも、ウイルスに感染した人を吸血した蚊が、他の人を吸血することによって感染が広がります。これらの感染症の原因ウイルスは、もともと熱帯地方のサルに感染していたのですが、蚊を介して人へと広がりました。一方、アカイエカはウエストナイル熱(注2)の原因ウイルス(ウエストナイルウイルス)を媒介します。ヒトスジシマカも同ウイルスを媒介しますが、ウイルスは鳥の体内で増えるので、鳥を好んで吸血するアカイエカの方がウイルスの媒介者としては重要なのです。蚊が媒介する感染症は、熱帯・亜熱帯中心に世界の多くの国で定着しています。今後、世界的に人の交流が活発になると、日本にも侵入や定着の恐れがあります。

 

注1:デング熱、ジカ熱、チクングニア熱:発熱、発疹、関節痛などの症状が出ます。

注2:ウエストナイル熱:発熱、頭痛、背部の痛みなどの症状が出ます。脳炎になると意識障害、痙攣を伴うことがあります。

 

殺虫剤に対する強さ

を退治するには、発生源となる水溜まりを減らすことが一番重要です。また、ボウフラに対しては水溜まりへの殺虫剤の使用も効果があります。しかし、ボウフラの中には殺虫剤に強いものがいて、薬を使うたびにそれらが選抜され、薬剤に強い集団ができることがあります。これは殺虫剤抵抗性と呼ばれています。ヒトスジシマカは抵抗性を持ちにくいですが、アカイエカは持ちやすいです。ヒトスジシマカのボウフラは雨水桝にもいますが、人が気づかないような小さな水溜まりでも育つので、殺虫剤の影響を受けにくいのでしょう。一方、アカイエカのボウフラは側溝や雨水桝のような殺虫剤を使いやすい場所で育つので、殺虫剤の影響を受けやすく抵抗性を持ちやすいのです。

住宅地の蚊ー2種の比較ー

  ヒトスジシマカ アカイエカ注3
体の色 黒と白の縞模様 赤茶色
活動時間 昼間 夜間
幼虫(ボウフラ)のすみか 木の洞、空き缶、雨水桝など、 水量少なめ 側溝、雨水桝など、 水量多め
移動距離 100mくらい 数km
飛ぶ高さ 地表近く 地上数m
おもな吸血動物 哺乳類(とくにヒト) 鳥類
媒介するおもな感染症 デング熱、ジカ熱、 チクングニア熱 ウエストナイル熱
殺虫剤抵抗性 持ちにくい 持ちやすい

注3アカイエカとほとんど同じ外見の仲間にチカイエカがいます。おもに地下街や地下の貯水槽などで発生します。

最後に

ヒトスジシマカとアカイエカは住宅地で繁栄している点では同じように見えますが、それぞれの生き方で都市空間をうまく利用し成功しているのです。蚊の生き方の違いは、蚊を退治し感染症を防ぐうえでも大切な情報です。もしデング熱ウイルスが侵入した場合、流行の初期に気がつけば、ヒトスジシマカは狭い範囲を移動し殺虫剤に弱いので、水溜まり対策と殺虫剤で根絶させることができるでしょう。しかし、ウエストナイル熱ウイルスの場合、アカイエカも鳥も広範囲を移動するうえ、殺虫剤に頼ると抵抗性を持ちやすいので、広域でいろいろな防除方法を組み合わせる必要があります。

お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1402