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大阪健康安全基盤研究所

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当所におけるHIV研究の紹介

HIV感染者の治療のためのウイルス学的検査法の開発

未治療感染者からの薬剤耐性ウイルスの検出

抗HIV剤の進歩により、多くの感染者がその恩恵を受けられるようになりました。しかしその反面、薬剤耐性ウイルスを持つ感染者の数も増えており、耐性ウイルスの新規感染者への広がりが新たな問題になりつつあります。薬剤治療の先進国である欧米諸国では、治療歴がないHIV感染者の5?20%から耐性ウイルスが検出されたとの報告もあります。感染したウイルスがある薬剤に対して耐性であった場合、そのことを知らずにその薬剤を含んだ治療を始めると、治療効果が低いばかりではなく他の有効な薬剤にまで耐性を引き起こしてしまう可能性があります。そこで治療前の薬剤耐検査が重要となってくるわけです。

私達はこれまでに500名の未治療感染者について薬剤耐性検査を行い、40名から耐性獲得に重要と考えられている遺伝子変異(major mutation)を検出しました。これらの変異がすべて耐性ウイルスの感染によるものかどうかはわかりませんが、治療薬の選択を慎重に行い、治療経過を注意深く観察する必要があると思われます。

HIVのphenotype定量法の開発

感染者体内におけるHIVの性質(phenotype)を調べることにより、病気の進行状態を知ることが出来ます。HIVには大きく分けるとR5ウイルスとX4ウイルスの二つのタイプがあり、病気の進行に伴ってX4ウイルスが出現することは前にも述べました。私達は感染者におけるウイルスphenotypeつまりR5とX4の量(比)を調べ、その変動と感染者の病態・治療効果との関連性を明らかにしようと考えました。R5ウイルスとX4ウイルスは細胞に感染する際にそれぞれ異なったコレセプター(CCR5あるいはCXCR4)を使用します。そこで、HIVとコレセプターの結合を特異的に阻害するCCR5阻害剤(R5I)とCXCR4阻害剤(X4I)を利用して、それらに対するウイルスの感受性を比較することによりphenotypeの定量を試みました。

まず最初に、HIV-1の実験室株であるBa-L株(R5)とNL432株(X4)をいろいろな割合で混合したウイルス液を作製し、そのRT-PCR増幅産物をクローニングすることによりBa-LとNL432の混合比率を確認しました。次に、HIVのコレセプターであるCCR5とCXCR4を共に発現しており、R5ウイルス、X4ウイルスのどちらも感染可能なMAGIC5細胞を用いて、各ウイルス混合液のR5IとX4Iに対する感受性を測定しました。その結果、R5ウイルスであるBa-Lの混合比が低くなるに従ってR5I感受性が低下し、NL432の割合が90%を越えるとそれまで見られなかったX4Iに対する感受性が回復することが明らかになり、R5I、X4Iそれぞれに対する50%抑制濃度と90%抑制濃度を組み合わせることによりphenotypeの定量が可能であることが示唆されました。そこで、実際に感染者から分離された臨床分離株についてクローニングによるR5/X4混合比とMAGIC5アッセイとの比較を行ったところ、実験室株とほぼ同様の結果が得られ、コレセプター阻害剤を利用したphenotype定量法が臨床株に応用できることが示されました。

HIV感染の広がりを知るための疫学調査

私達はHIV感染が実際にどの程度拡がっているかを調べるために、1992年から大阪府内のいくつかの泌尿器科や皮膚科、性病科、婦人科の診療所と協力して、診療所を訪れた患者さんにHIVの検査を受検するよう勧め、同意が得られた方についてHIV感染の有無を調査してきました。2007年末までで延べ約4万件について検査したところ、HIV陽性は144件となりました。(表2)

表1 男女別の検査数
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 合計
男性 515 1,061 503 361 400 452 432 442 354 330 818 487 1,334 1,260 1,378 1,431 11,558
女性 623 1,887 1,551 1,153 1,420 1,407 1,633 1,699 1,808 1,970 2,584 2,614 2,730 2,170 1,883 745 27,877
不明 22 7 7 4 3 1 0 1 4 2 1 1 0 0 2 1 56
合計 1,160 2,955 2,061 1,518 1,823 1,860 2,065 2,142 2,166 2,302 3,403 3,102 4,064 3,430 3,263 2,177 39,491
表2 陽性検体数
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 合計
男性     3 3 5 7 3 2 3 10 8 10 17 10 25 23 129
女性 4 3 2 1   1 1 1           1   1 15
不明                                  
合計 4 3 5 4 5 8 4 3 3 10 8 10 17 11 25 24 144

陽性数を年ごとにグラフで示すと、図2の様になります。調査を始めた当初に見つかっていた外国人女性の陽性例は、年を追うごとに減少し、2000年以降はみられていません。これに対して日本人男性の陽性例は1994年以降毎年見つかっていますが、特にここ数年、その数は非常に多くなってきています。2004年には初めて外国人男性に陽性例が、また2005年と2007年には日本人女性でも1993年以降はみつかっていなかった陽性例がみられました。

図2 要請件数の年次推移

このように陽性者が増加していることより、引き続き調査を続けていく必要があると思われます。
また本調査で見つかった陽性検体、および当研究所に確認検査のために搬入された検体のうちHIV抗体陽性となった検体については、検体中に含まれる性感染症の病原体(HBV、HCV)や抗原・抗体(HBs抗原、HBs抗体、梅毒TP抗体)の有無や、HIV、HBV、HCVの塩基配列を調べることによって、地域におけるHIV-1の伝播の背景や経路、感染の広がり、最近増加してきている薬剤耐性変異をもったウイルスによる新規感染者の有無について調査しています。

その結果、HIV感染者は性感染症(特に梅毒、B型肝炎)の抗体保有率が有意に高いこと、以前は塩基配列のよく似た、少ない種類のHIVが流行していたのに対し、最近では塩基配列のあまり似ていない様々な種類のHIVの感染が広がりつつあること、同性間性的接触によりゲイコミュニティーにおいてHIVの感染が増加していること、薬剤耐性変異をもったウイルスに感染したと考えられる新規感染者が存在することなどが明らかになってきています。ここ数年では、抗体の測定のみで検査の結果を判定できない感染の初期と思われる感染者、複数のHIVに感染していると考えられる感染者も見つかってきており、また、HIV感染者のなかでこれまで日本ではあまり見られなかった遺伝子型のHBVに重複感染しているひとが見られることも分かってきています。

新しいエイズ薬の開発

遺伝子の変異が激しく、様々に姿を変えていくHIVはワクチン開発が非常に難しいことが分かっています。そこでエイズを解決する手段として薬剤による治療が早くから試みられてきました。 これまでに多くの抗HIV薬が開発され、現在、多くのものがすでに販売されています。この中から、アジドチミジン(AZT)などの逆転写酵素阻害剤とリトナビルなどのプロテアーゼ阻害剤など、作用機序の異なる2から4剤を併用するHAARTと呼ばれる化学療法により、現在、エイズ発症を遅らせることが可能となってきています。しかしこれらの薬剤においても、耐性ウイルスの出現や副作用が大きな問題となっていて、治療効果にも限界が見られることがあります。そこで、新しい作用メカニズムを持つ抗エイズ薬の開発が急務となっているのが現状です。我々は、化学合成物質および天然物由来の物質を対象に、新たな作用メカニズムによってHIVの増殖を抑制し、副作用が少なく耐性ウイルスが出現しにくい抗HIV薬の研究・開発を多くの研究者と協力しながら行っています。

今まで行ってきた研究の成果の主なものは次のようなものです。

自然界から見つかった物質

アジア、南北アメリカ、アフリカ大陸、ロシアなど世界の地域から集めた植物・動物約900種、微生物が産生する物質約4000種について探索したところ、動物から2種、植物からは110種、微生物からは21種の物質が試験管内でHIVの増殖を抑制することがわかりました。これらのなかで主なものとしては、カブトガニから抽出したタチプレシン、シコン、トウアズキ、シソ科のハーブ類などがあげられます。さらに青シソから見つかった糖タンパク質(Pf-gp6)は強いHIV抑制作用があり、ウイルスが細胞へ侵入していく過程を抑制することが分かっています。また、土壌中の放線菌が産生する抗菌物質の一つボロマイシンはHIVが細胞の中で増殖する過程の後期に作用することが示されました。

作用を予測して設計・合成された物質

ヘパリンなど硫酸化された糖類がウイルスの増殖を抑制することは以前から知られていました。しかしこれらの物質は消化管からの吸収が悪く、また血液が固まりにくくなるといった欠点がありました。そこで私達は製薬会社と共同で、新たな発想のもとに強力な抗ウイルス活性を持ちながら経口投与のできる薬剤を作りました。これは環状の構造を持ったシクロデキストリンという糖の硫酸化体に脂溶性に富む物質を加えた硫酸化修飾シクロデキストリン(mCDS)で、ウイルスが細胞へ吸着し侵入していくところを抑える作用を持ち新たな抗エイズ薬としての可能性が試験されています。

新たに合成された亜鉛サイクレン類はウイルスが細胞へ侵入する時にウイルス受け手のひとつであるCXCR4という分子(コレセプター)に作用して強い抗HIV-1活性を持つことが分かりました。

お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1401