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大阪健康安全基盤研究所

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治療用に加え予防用も! 抗HIV薬の最新情報

掲載日:2025年10月24日

はじめに

 レッドリボン

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染すると、体を守る力(免疫)が弱まり、健康な人では問題にならない病気にかかりやすくなります。この状態を「エイズ(後天性免疫不全症候群)」と呼びます。

かつては有効な治療法がなく、HIVに感染するとやがてエイズを発症し、命に関わる病気でした。

しかし今では多くの種類の抗HIV薬が開発され、早期に診断して治療を始めれば、HIVは「死に至る病」ではなく「治療を続けることで、HIVに感染していない人と同じように生活できる病気」になりました。

さらに、治療によって体の中のウイルス量を減らすことで、他の人に感染させないことも可能になり、新たに感染する人も減少傾向にあります。


今回は、このように進歩を続ける「抗HIV薬」の最新情報をご紹介します。

 
飲み薬

HIV感染を予防する薬PrEP(プレップ)

 

どんな薬?

HIVに感染する前に、あらかじめ薬を飲んだり注射したりして、感染を予防する薬です。

現在主流なのは テノホビル+エムトリシタビン(TDF/FTC)という飲み薬で、毎日1錠服用することでHIVに感染するリスクを大きく下げられます。

さらに最近は、カボテグラビル(CAB-LA)という注射薬も登場しました。これは2か月に1回の注射で予防効果が続きます。

 

 注射薬

 

海外の状況

アメリカやアフリカ諸国ではすでに広く使われており、特に若い女性や男性同性愛者の感染予防に効果が示されています。

WHO(世界保健機関)もCAB-LAを含むPrEPの活用を強く推奨しています。

飲み薬と注射タイプの両方が選べるようになり、より多くの人が利用できるようになってきました。

 

日本の状況

2024年8月に飲み薬のPrEP(TDF/FTC)が「予防目的」で薬事承認されました。ただし、まだ医療保険は適用されておらず、一部の医療機関で自費診療として提供されている段階です。

注射タイプのCAB-LAは日本ではまだ予防薬(PrEP)として承認されていませんが、国内での導入が期待されています。

 

 

HIVに感染した場合の治療薬

 

HIVに感染した場合、これまでの治療は「毎日1回の飲み薬」が基本でした。

ところが近年、長時間作用型注射薬が登場しています。

 

どんな薬?

代表的なものとしてカボテグラビル+リルピビリン(CAB+RPV)があります。

お尻の筋肉に、1~2か月に1回注射することで効果が続きます。

「毎日薬を飲まなくてよい」ことで、飲み忘れや心理的な負担を減らせるのが大きな利点です。

 
カレンダー

 

海外の状況

欧米ではすでに広く使われており、薬をきちんと続けられる点で高く評価されています。

 

日本の状況

日本では2022年に承認され、すでに飲み薬で治療がうまくいっている人が、代わりに使うことができる薬です。

ただし「定期的に通院して注射を受ける」必要があるため、人によっては通院の回数が増えてしまう場合もあります。また、2剤合わせた薬価が1回27万円(初回38万円)程度と高額です。

今後は、生活スタイルや希望に合わせて「飲み薬」と「注射薬」を使い分ける時代になっていくと考えられます。

薬価:国が決めた薬の定価(公定価格)で、医療保険の計算の基準になります。

 

 

次世代の治療薬

 

どんな薬?

従来の抗HIV薬は、ウイルスが持つ酵素やウイルスが結合する細胞表面のタンパク質を狙って作用していました(例:逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬、インテグラーゼ阻害薬、侵入阻害剤など)。

一方、新しいタイプの薬である「レナカパビル」はウイルスの殻(カプシド)の働きを邪魔することで効果を発揮します(カプシド阻害薬)。

最大の特徴は「半年に1回の注射で効果が続く」ことで、毎日薬を飲む必要がなくなる可能性があります。また、これまでの薬が効きにくいタイプのHIVに対しても効果が期待されています。

 
HIVのイラスト

海外の状況

アメリカやEUでは2022年に治療薬として承認されました。

臨床試験では、他の抗HIV薬が効きにくい人にも効果が確認されました。

さらに2025年には、「半年に1回の予防注射薬(PrEP)」としても承認されました。

 

日本の状況

日本では2023年に治療薬として承認され、現在治療に使用可能です。

CAB+RPVと並んで、HIV治療の新しい選択肢となっています。

しかし、1回の薬価が320万円と高額です。また、PrEPとしてはまだ承認されていません。

 

今後期待される薬

レナカパビル以外にも、抗体を使ってHIVを攻撃する治療法や予防法、感染しても免疫が働くようにするための研究が進んでいます。

これらはまだ研究段階ですが、「HIVと付き合いながら生きる治療」から「感染を抑え込む、あるいは完全に治すことを目指す治療」への一歩として期待されています。

 

 透過型電子顕微鏡のイラスト

最後に

予防薬や治療薬の開発により、HIVはかつてのように「死に至る病」ではなくなってきました。

ただし、薬の開発や利用には時間と費用がかかり、誰でもすぐに利用できるわけではありません。

だからこそ、まずは「感染しないように予防すること」が最も大切です。

  • コンドームを使う
  • 不特定多数との性行為を避ける

 

こうした基本的な対策を忘れずに実践し、自分や大切な人を守っていきましょう。


 ハートのイラスト


お問い合わせ

微生物部 ウイルス課
電話番号:06-6972-1402