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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 38号 2006年10月31日発行

配信された文面をもとに、一部修正を行っています。URLやメールアドレスは配信当時のものです。

目次

  • 今月の話題
    「朝鮮民主主義人民共和国の核実験にともない放射能調査を強化」
  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「10月の感染症」
  • 研究の窓から
    「学校給食によるカンピロバクター集団食中毒」
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今月の話題

北朝鮮からの地下核実験実施発表にともなう放射能調査で異常値は観測されず

平成18年10月9日正午頃北朝鮮が地下核実験を実施したとの発表を受け、大阪府では、同日午後2時30分から、危機管理監をトップとする防災・危機管理対策指令部会議が開催されました。一般的に、核実験が地下で行われた場合は、大気中に放射性物質が放出される可能性は低いと考えられますが、安全を確認するために、大阪府における放射線監視の強化がその会議において決定されました。具体的には、危機管理室で実施している府内原子力施設周辺の15ヵ所の観測局における空間放射線量率(注1)を常時監視すること、また、公衆衛生研究所で実施している放射能調査も強化し毎日監視していくことが確認されました。

公衆衛生研究所で強化された放射能調査の内容は、文部科学省の指示に基づき、(1)空間放射線量率の24時間測定、(2)大気浮遊じん中の放射性核種分析(24時間採取し、ゲルマニウム半導体核種分析装置で約6時間測定)及び(3)雨などの降下物中の放射性核種分析(大気と同じ測定法)です。また、全国の都道府県においても同様の監視強化が行われました。

ところで、今からちょうど20年前、昭和61年4月26日に発生した旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故では、約7000kmも離れた日本に放射性物質が飛来し、人体や環境への影響が懸念されるなど当時大きな社会問題となりました。飛来した主な人工放射性核種(注2)は、ヨウ素131(注3)やセシウム137(注4)等ですが、大阪においても、大気浮遊じんや降下物試料中のセシウム137は、事故直前の100倍以上の高い量で検出されました。しかし、空間放射線量率には異常値は認められませんでした。結果的に、このチェルノブイリ事故による日本人への被ばく線量は、1人あたり0.02ミリシーベルト(注6)以下でした。この0.02ミリシーベルトは、人工放射線による一般人への被ばく線量限度である1ミリシーベルト(年間)の1/50で、非常に低いものであることがわかります。また、私たちが受けている自然放射線(注5)による被ばく線量(日本では年間で1人あたり1.5ミリシーベルト)と比べても十分に低い値といえます。従って、チェルノブイリ事故において、日本へ放射性物質が飛来しましたが、放射能による日本人への健康影響はほとんどなかったものと考えられます。

今回の監視強化は、10月9日から10月24日まで15日間にわたり行われましたが、大阪府においてもまた全国においても、空間放射線量率の異常値や人工放射性核種は検出されず、人体及び環境への影響はないものと判断されました。今後、放射能調査は、平常時の体制に戻りますが、異常値が観測された場合は速やかに国に連絡することとしています。また、新たな事態に至った場合は、安全を確認するため、国と連携し、放射能調査の強化を行う予定です。

  • 注1 空間放射線量率:空気中を通過する放射線の量、単位は グレイ/時間 で示される(グレイ:放射線が物質を通過するとき物質に与えるエネルギー量を示す単位)。
  • 注2 人工放射性核種:自然界には存在しない人工的に作られた核種
  • 注3 ヨウ素131:半減期(放射能の強さが元の半分になる時間)8日、ベータ線やガンマ線を放出する。摂取すると甲状腺に集まりやすい。
  • 注4 セシウム137:半減期30年、ベータ線やガンマ線を放出する。摂取すると筋肉や臓器など体内全体に分布する。
  • 注5 自然放射線:自然界に存在する放射線で、宇宙や大地からくるもの、また食物摂取によって受けるものがある。
  • 注6 シーベルト:放射線の人体への影響を表す単位、ミリシーベルトはシーベルトの1/1000

(環境水質課 渡邊)

大阪の感染症サーベイランス情報

10月の感染症

2006年第42週(10月16日から10月22日)の定点(注7)あたり報告数の上位3疾患は、感染性胃腸炎(5.2)、A群溶連菌感染症(1.2),流行性耳下腺炎(1.1)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比41%、A群溶連菌感染症は23%、流行性耳下腺炎は19%の増加でした。(http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html参照

感染性胃腸炎は例年この時期から増加し、冬期は最も報告数の多い時期です。9月以降の病原体定点機関の検体からはアデノウイルス40/41型が2例、ノロウイルスG2型が3例検出されています(10月20日現在)。10月に入ってから、ノロウイルスの検出が目立ち、保育所での集団発生も報告されています。

ヘルパンギーナは第32週以降、咽頭結膜熱は第31週以降、定点あたり報告数は1未満となり、夏型感染症は終息と思われていましたが、第41週に手足口病が大きく増加し定点あたり1.0で第2位となりました。保育所の低年齢の幼児を中心とした集団発生が複数の地域で認められたことがその原因と考えられます。第42週は第4位で定点あたり0.8と減少したものの、南河内では依然3.5と高く今後の動向に注意が必要です。手足口病の原因ウイルスはエンテロウイルス(EV)71型とコクサッキーA(CA)16型が主なものですが、6月以降当所ではEV71が3例、CA16が4例と今シーズンはどちらも検出されています。手足口病は基本的には予後良好の疾患ですが、まれに髄膜炎、脳炎、心筋炎などの臨床症状を呈することもあり、特にEV71ウイルスに感染した場合は、中枢神経系合併症を生ずることが比較的多く、患児の注意深い経過観察も必要な疾患です。

さて医療機関では、今シーズンのインフルエンザの予防接種も始まっています。大阪府内では9月末にインフルエンザAH1(ソ連)型ウイルスが1例分離されていますが、これは海外旅行者からの二次的な感染の事例ですので、国内ではまだ流行の兆しは認められていません。しかしワクチン接種後有効な免疫が獲得されるまでには約2週間かかるということを考慮して、主治医の先生とご相談の上、流行期に備えてください。

  • 注7 定点:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは305ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は197ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

(ウイルス課 宮川)

研究の窓から

学校給食によるカンピロバクター集団食中毒

カンピロバクターによる食中毒はノロウイルスに次いで二番目に発生件数が多く、平成18年1月から8月までに大阪府下ですでに17件の集団食中毒が発生しています。潜伏期間は約2から3日で、主症状は腹痛、下痢、頭痛、発熱で、血便が出ることもあります。多くの細菌性食中毒が夏期に多発するのに対し、カンピロバクターによる食中毒は春と秋にピークがあります。市販鶏肉の約8割はカンピロバクターに汚染されているため、カンピロバクターに起因するほとんどの食中毒事件は鶏肉が感染源となっています。その一例として、昨年11月に発生した学校給食によるカンピロバクター集団食中毒事件をご紹介します。

2005年11月15日19時15分に、大阪府A市教育委員会からB小学校において、11月14日(月曜日)に50名程度の児童が発熱・嘔吐・下痢の症状で欠席し、11月15日(火曜日)にも同様の症状で66名欠席しているとの連絡が保健所にありました。さっそく調査を開始し、患者便50検体について原因物質の検索を行ったところ、28検体からカンピロバクター・ジェジュニが検出されました。患者の共通食は学校給食のみであり、遠足のため11日(金曜日)の給食を食べなかった4年生に有症者がいないことから、11日の給食が原因と断定しました。冷凍保存されていた検食(注8)を調べた結果、原材料の鶏肉からカンピロバクターが100g中5,500個以上と非常に高い菌数で検出されましたが、当日の調理済み食品の検食からは検出されませんでした。

A市の小学校の給食は自校方式で実施しており、11日のメニューはワンタンスープ(納入業者によりあらかじめ1cm角に細切された鶏肉使用)、エッグサンド(ポテトサラダ状のもの)、パン、牛乳の4品でした。自校で調理したワンタンスープとエッグサンドの作り方について調査した結果、ワンタンスープは中心温度92℃まで加熱されており、加熱後すぐに配膳されていることから、ワンタンスープが原因ではないと推察されました。ワンタンスープよりもエッグサンドの方が先に調理されており、エッグサンドの各材料(じゃがいも、キャベツ、にんじん、卵)は加熱後、和える作業まで約1時間調理室で放冷されていました。そして、その間、鶏肉をビニール袋からバットに移し替え、味付けを行い、調理釜まで運んで行きました。生鶏肉を扱っていた場所はじゃがいも放冷台に近く、鶏肉が入っていたビニール袋や手袋、鶏肉を入れたバット等がじゃがいも放冷台の横を通過しました。また、その間、じゃがいもをさますために大型扇風機で送風していたこともわかりました。以上の聞き取り調査より、今回の事件は鶏肉の加熱不足が原因ではなく、ビニール袋や手袋などの生鶏肉の付着物やドリップ(肉汁)中のカンピロバクターがエッグサンドのじゃがいもを二次的に汚染し、このような食中毒が発生したと強く推察されました。

それでは、なぜ、冷凍保存されていたエッグサンドの検食からカンピロバクターが検出されなかったのでしょうか。その原因を追及するため、給食のレシピどおりに作製したエッグサンドにカンピロバクターを添加し冷凍保存実験を実施しました。また、原材料鶏肉と同様に市販鶏肉を1 cm角に細切し、冷凍保存における鶏肉とドリップ中のカンピロバクターの菌数の推移を調べました。その結果、冷凍保存7日目には菌数はエッグサンドで約1/100、鶏肉で約1/10に減少することがわかりました。ドリップ中の菌数は鶏肉より約4倍高くなることもわかりました。つまり、エッグサンドの検食からカンピロバクターが検出されなかったのは、もともと汚染菌数が少なかったために冷凍保存中に死滅してしまったためと考えられ、また、11日の原材料鶏肉は、保存検食で測定した100g中5500個よりさらに10倍菌数が高かったことが推測できました。そして、ドリップ中には鶏肉以上にたくさんのカンピロバクターが存在していることもわかりました。これは、鶏肉表面に存在しているカンピロバクターがドリップにより洗い流されるためと考えられます。カンピロバクターは約100個程度の少数の菌で感染するので、鶏肉が高濃度のカンピロバクターに汚染されている場合、ドリップは非常に危険性が高く、ごく少量でこのような食中毒事件を起こす可能性があることがわかりました。

鶏肉やその付着物(まな板、包丁、トレイ、ラップ等)の取扱いには十分注意することが大切です。

  • 注8 冷凍保存されていた検食:学校給食などでは、原材料、調理済み食品を-20℃以下で2週間以上保存しています。事故があった場合の原因調査に用いるためです。

(細菌課 久米田)


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