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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 35号 2006年7月31日発行

配信された文面をもとに、一部修正を行っています。URLやメールアドレスは配信当時のものです。

目次

  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「7月の感染症」
  • シリーズ「バイオテロとその対策」
    「天然痘」
  • 研究の窓から
    「ニューキノロン系抗菌薬低感受性の赤痢菌が増えています」
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大阪の感染症サーベイランス情報

7月の感染症

2006年第28週(7月10日から7月16日)の定点あたり報告数の上位3疾患はヘルパンギーナ(4.0)、感染性胃腸炎(3.3)、流行性耳下腺炎(1.7)でした(()内は定点あたり報告数)。ヘルパンギーナは前週比1%、感染性胃腸炎は2%減少、流行性耳下腺炎は15%の増加でした(http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html参照)。

ヘルパンギーナは府全体の報告数は26週をピークに減少しています。しかし、南河内(10.4)、北河内(4.7)、中河内(4.3)など全11ブロックのうち9ブロックでは3を超えています。第4位の咽頭結膜熱も25週をピークに2週連続減少していましたが28週は前週比24%の増加で定点あたり報告数は1.6となりました。大阪市東部(2.8)、中河内(2.5)、北河内(2.1)、大阪市南部(2.0)が目立ちます。手足口病は第7位で、前週比17%の増加でした。これら夏型感染症は学校が夏休みに入ると、集団での流行の機会が減ることもあり、ピークは越えたと考えられますが、引き続き注意が必要です。6月、7月の病原体定点の検体から検出された、夏型感染症の原因ウイルスであるアデノウイルスやエンテロウイルスは、アデノウイルス1型が4例、3型が3例、5型が1例、コクサッキーB2型が1例、B5型が3例、エコー18型が5例、エンテロウイルス71型が1例でした(7月21日現在)。

感染性胃腸炎は第22週以降減少が続いています。5月、6月の病原体定点病院の検体からはノロウイルスが1例、アストロウイルスが3例、アデノウイルス40/41型が2例検出されています。感染性胃腸炎の小児科定点からの報告数は例年夏季に減少しますが、細菌性の食中毒による胃腸炎は増加する季節です。調理前や食事前の手洗いを確実に行うことや、食品は充分に加熱し、調理後に長時間放置しないなど食べ物の取り扱いには充分に注意しましょう。

  • 定点:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは303ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は195ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

(ウイルス課 宮川)

シリーズ「バイオテロとその対策」

天然痘(痘瘡)テンネントウ(トウソウ)

天然痘(痘瘡)は昔から伝染力が非常に強く、死に至る疫病として恐れられてきました。しかし1796年、イギリス人医師エドワード・ジェンナーの考案した種痘(しゅとう。最初のワクチン)の普及により、発生数は激減し、1958年から始まった世界保健機関(WHO)の「世界天然痘根絶計画」により1977年のソマリアでの自然発症を最後にその後発症者は見つかっておらず、1980年にWHOは天然痘根絶宣言を行いました。

さらにWHOは天然痘ウイルスを地球上から完全に無くすために、研究用のウイルスの廃棄をも決定しました。しかしながら、旧ソ連崩壊時にこのウイルスが研究者と共に海外に流出した可能性があると考えた米国は、ウイルスの廃棄を見送り、診断法や研究開発の目的で現在でも厳重な管理下に保管しています。また、米国が廃棄しなかったことを受け、ロシアもこれに対抗し、廃棄せずに保管しています。

感染経路

天然痘ウイルスは感染力が非常に強いウイルスで、わずか10個程度のウイルス粒子の吸入でも感染が成立すると言われています。人から人への感染は、エアロゾル、飛沫、接触であり、口腔、咽頭、気道粘膜から体内に侵入します。

強い感染力を示す例として、1970年のドイツでの事例が上げられます。パキスタンから帰国したドイツ人青年が帰国直後に発症、天然痘と解らないまま一般病棟に入院しました。4日後天然痘と診断され、感染症専門施設へ転院したのですが、看護師3名、同じ病室にいた入院患者2名、直接接触のなかった別の病室の患者13名、外来患者1名の計19名が発症し、そのうち4名が死亡しています。

臨床症状

潜伏期は平均12日であり、発熱、悪寒、頭痛といった感冒様症状を示します。2,3日後に一時的に解熱しますが、再び発熱するのと同時に、紅斑が顔や腕に同時に出現し、四肢に広がります。紅斑は発疹へ規則的に移行し、1、2日で中央部が窪んだ(臍窩:さいか)特徴的な水疱へ変化します。水疱はその後かさぶた(痂皮:かひ)に変わり、やがて皮膚に瘢痕(はんこん)を残してはがれ落ちます。

感染者の平均30%が死亡し、種痘を受けた人でも3%が死亡する、非常に致命率の高い感染症ですが、もしも急性期を乗り越えられれば3週間程度で治癒し、終生免疫を獲得、瘢痕は残りますが予後は良好です。

診断・検査

四肢・顔面の特徴的な(「へそ」をもった)皮疹が現れれば診断は容易ですが、早期診断が感染拡大の阻止に非常に重要です。また、水痘との鑑別が重要ですが、水痘の水疱には「へそ」がない、体幹を中心に発疹する、手掌や足底に発疹しない、瘢痕を残さない等の差が天然痘の発疹との間に見られます。検査には水疱内容液や咽頭ぬぐい液、痂皮等を用います。ウイルスの検出には、電子顕微鏡による検出、抗原検出蛍光抗体法、PCR法等が用いられます。当所では水痘との早期鑑別診断を目的に、電子顕微鏡による鑑別法の確立、天然痘の属するPoxウイルス属に広く交差反応を示す蛍光抗体とリアルタイムPCRを利用した検出キットの準備を行っています。

予防・治療

1980年以降、我が国でも種痘(天然痘のワクチン)が廃止されていますが、予防法はワクチン以外に存在しません。ワクチン未接種であれば20から50%の感染者が死亡します。治療法も存在しませんが、感染後4日以内であればワクチンの予防的接種により有意に発症予防が可能です。日本では有事に備え、2001年より天然痘ワクチンの備蓄が進んでいます。しかし、ワクチン接種後10-50万人に一人の割合で脳炎が発生し、その致死率も比較的高いので、ワクチン接種の適応を決めるに当たっては十分な配慮が望まれます。

対応

天然痘は感染症法の1類感染症に準じ、感染もしくは疑似感染の発生が認められた場合、ただちに最寄りの保健所に届け出、患者は保健所の指示により第一種感染症指定医療機関に搬送され、HEPAフィルターを備えた陰圧個室(注1)に隔離されます。

二次感染拡大防止の為、医療関係者はマスク・手袋・防護衣を着用します。患者収容病院のスタッフ、救急医療従事者、警察官、消防隊、公衆衛生スタッフ等にワクチン接種が必要です。患者と接触があった、またはエアロゾルに暴露したかを厳密に調べ、その疑いがある場合は、ワクチンを投与し厳重な観察下におく必要があります。

注1 HEPAフィルターを備えた陰圧個室:病室全体が大気圧より低くなるように設定されていて、扉の開閉や隙間からウイルスで汚染された室内の空気が室外に拡散することがない。室内の空気を、HEPAフィルター(定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集するエアフィルター)を通じて室外へ排気する。

(ウイルス課 川畑)

研究の窓から

ニューキノロン系抗菌薬低感受性の赤痢菌が増えています

赤痢菌(Shigella)は細菌性赤痢の原因菌で、S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei の4つに分類されます(Shigella は発見者である志賀潔にちなんで命名されました)。最近、治療に際してニューキノロン系抗菌薬が効きにくくなってきていると言われることから、その実態を調べるため、1998年4月-2005年3月の7年間に大阪府内の医療機関や関西空港検疫所で分離された赤痢菌840株(S. dysenteriae 21株、S. flexneri 137株、S. boydii 35株、S. sonnei 647株)について、「オールド」キノロン系抗菌薬であるナリジクス酸(NA)に対する感受性を調べ、NA耐性菌については、さらにニューキノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシン(CPFX)の最小発育阻止濃度(注2)を測定しました。

その結果、S. dysenteriae 2株、S. flexneri 26株、S. boydii 4株、S. sonnei 204株の計236株(28.1%)がNA耐性を示しました。これらの株のうち、CPFXに対する最小発育阻止濃度が4μg/ml以上でCPFX耐性と判定されたものは2株(いずれもS. flexneri)で、残りの株は最小発育阻止濃度0.032-0.5μg/mlを示し、CLSI(アメリカ臨床検査標準化協会)の現在の基準ではCPFX感受性と判定されました。しかし、CPFX感受性菌の65%(152株)は最小発育阻止濃度0.125μg/ml以上を示し、「CPFX低感受性菌」であると考えられました。比較のために測定したNA感受性菌のCPFXに対する最小発育阻止濃度は0.004-0.016μg/mlですから、その差は8倍以上でした。NA耐性率は1999年から増加していましたが、2004年にはNA耐性菌のほとんどがCPFX低感受性を示しました。2003年まで少しずつ減少していた赤痢菌分離株数も、2004年には前年の1.6倍に増加しており、今後も細菌性赤痢の発生動向と赤痢菌のニューキノロン系抗菌薬耐性化に注意が必要です。また、CPFX低感受性菌は、インド、ネパール、中国由来株に多いことから、治療薬の選択には、海外旅行の有無や渡航先などの情報を考慮する必要があると考えられました。

キノロン系抗菌薬は、細菌の持つDNA複製に関わる酵素に作用して殺菌作用をあらわしますが、この酵素の特定のアミノ酸に変異が起こると、抗菌薬が結合できなくなり、耐性化することが知られています。この酵素の遺伝子(gyrA)をPCR法で増幅した後、制限酵素(注3)で切断されるか否かを調べることにより、gyrAの83番目あるいは87番目のアミノ酸にあたる遺伝子に生じた変異の有無が判定できます。変異の位置とCPFXの最小発育阻止濃度には相関性があり、NA耐性でCPFX感受性の菌は87番目に、CPFX低感受性菌は83番目に、CPFX耐性菌は両方に変異が見られる傾向がわかりました。gyrAの変異を調べる方法は、培養が必要な薬剤感受性試験に比べ、迅速にCPFX感受性をスクリーニングできる有用な方法であると言えます。

赤痢菌は感染菌量(注4)が10-100個と少ないため、二次感染の危険が高く、家族内感染や施設などでの集団発生も見られます(The Topic of This Month Vol.27 No.3(外部サイトにリンクします))。

また、2001年11-12月に発生した輸入カキが原因と推測された広域食中毒をはじめとして、毎年のように食中毒も報告されています。感染拡大を防ぐためには、患者や保菌者を早期に探知して治療を行い、排菌していないことを確認する必要があります。また、薬剤感受性試験や感染症対策に必要な疫学解析を実施するため、病院などに分離菌株の提供をお願いしています。

注2 最小発育阻止濃度:薬剤の抗菌力を表すときによく用いられる単位で、段階的濃度の薬剤を加えた培地に細菌を接種し、発育できなかった最も低い(少ない)薬剤濃度を言います。

注3 制限酵素:遺伝子は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4つの塩基の並び方で遺伝情報を規定していますが、制限酵素はこの塩基の特定の並び方を切る「はさみ」に相当します。

注4感染菌量:ヒトに感染するために必要な細菌の数。腸炎ビブリオでは10万個以上と言われており、食品中で細菌が増殖しないよう管理することで予防できますが、赤痢菌や腸管出血性大腸菌では100個以下と少ないため、手ふきタオルなどを介して感染する危険があります。

(細菌課 勢戸)


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