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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 34号 2006年6月29日発行

配信された文面をもとに、一部修正を行っています。URLやメールアドレスは配信当時のものです。

目次

  • 今月の話題
    「加熱不十分な白インゲン豆を食べた食中毒」
  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「6月の感染症」
  • シリーズ「バイオテロとその対策」
    「炭疽」
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今月の話題

加熱不十分な白インゲン豆を食べた食中毒

平成18年5月6日にテレビ番組で紹介された、ダイエット効果があるという調理法で調理した白インゲン豆を摂取した人が、吐き気、嘔吐、下痢などの中毒様の症状を示す事例がありました。入院治療を受けた患者もいましたが、重症患者はなく、すべての患者が快方に向かいました。番組が全国放送だったので患者は全国に広がり、患者数も百数十人に達しました。

番組では、白インゲン豆(大福豆)を数分間煎った後、粉末にしてご飯にまぶす調理法を紹介しましたが、患者の多くがこの方法で豆を食べた後、2から4時間以内に発症したということです。インゲン豆に含まれるたんぱく質の「レクチン」は、生や加熱不足のまま摂取すると食中毒の原因となります。厚生労働省は「今回は加熱が足りなかったことが原因」と判断し、放送局に対して再発防止に努めるよう文書で注意しました。また、「同様の症状が起こる可能性が高い」として、このダイエット法を控えるよう呼びかけています。

レクチンにはいろいろ種類がありますが、インゲン豆のレクチンは胃や腸など消化管の粘膜に炎症を起こす性質があります。また、血液の赤血球と結合して固まりを作る性質もあります。その性質を利用してインゲン豆中のレクチンの量を調べる方法があります。十分に加熱調理するとレクチンの消化管に炎症を起こすような性質も無くなります。

大阪府下でも患者から保健所への問い合わせがあり、そのうち6件が今回のインゲン豆中毒と確認されました。その中の一人から加熱後のインゲン豆と未加熱のインゲン豆(白花豆)の提供を受け、赤血球を固める作用を目安にした検査(赤血球凝集試験)を行いました。豆の成分を水に抽出して試験すると、患者が調理し食べ残した豆は、生の豆に近い強さの凝集作用を示しました。

私たちの研究室では、加熱に対するレクチンの安定性を確認するために、模擬的な加熱実験を行いました。インゲン豆を細かく砕いて250℃のオーブンで5分間加熱した時には、生の豆と同じ程度の血球凝集力が残り、10分間の加熱で血球凝集力が消えました。白インゲン豆の一般的な調理では、あく抜きした後煮ることが多いので、豆を一晩水に浸した後良く火が通るように40分間煮ました。そうすると豆の中の凝集成分は大幅に少なくなりました。

今回の中毒例は、インゲン豆を十分に加熱しなかったため、レクチンなど胃や腸の粘膜に炎症を起こす成分が残ってしまった可能性が高いと考えられます。番組で紹介された豆をそのまま3分間煎る方法では豆の中心まで火が通らず、レクチンが変性しなかったと推察されます。一般的なインゲン豆を煮る調理では、まずあく抜きをし、その後豆が柔らかくなるまで煮るので、結果として調理時間も長くなり中毒は起こりません。

(食品化学課 尾花)

大阪の感染症サーベイランス情報

6月の感染症

2006年第24週(6月12日から6月18日)の定点あたり報告数の上位3疾患は感染性胃腸炎(4.5)、ヘルパンギーナ(3.2)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(2.9)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比11%減少、ヘルパンギーナは23%、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は16%の増加でした。(病原微生物検出情報(外部サイトにリンクします)参照)

感染性胃腸炎はゆるやかに減少が続いており、中河内(10.4)以外のブロックでは定点あたり10以下の報告です。5月、6月の病原体定点病院の検体からはノロウイルスが2例、サポウイルスが1例、アデノウイルス40/41型が1例検出されています(6月23日現在)。

ヘルパンギーナは特に南河内(6.9)、北河内、泉州(4.1)、中河内(4.0)で高くほとんどのブロックで増加が続いています。第5位の咽頭結膜熱も定点あたり1.7と前週比13%増加しており、特に大阪市東部(3.4)南部、中河内(2.4)が目立ちます。手足口病は第8位ですが前週比46%増加しており、北河内では1を超えました。これら夏型感染症の増加が続いており、今後もさらに増加することが予想され、注意が必要です。夏型感染症の原因ウイルスとしては、アデノウイルスやエンテロウイルスがあげられますが、5月、6月にアデノウイルス1型が3例、3型が13例、コクサッキーA4型が1例、A9型が2例、エコー18型が3例検出されています。

一方全国各地で5月以降インフルエンザの集団感染が報告されています。府内でも病原体定点の検体から5月に入ってB型インフルエンザウイルスが検出されていますし、6月以降も大阪市内の学級閉鎖の事例からB型インフルエンザウイルスが検出されています。府内定点のインフルエンザの報告は第22週39例、第23週24例、第23週28例と少ないながらも続いており、集団発生の原因病原体としてはインフルエンザにも注意が必要といえます。

さて予防接種について改正があり、麻しん風しん混合ワクチンに加えて6月2日から麻しん・風しん単味ワクチンが定期接種で使用できるようになりました。また単味ワクチン接種済みの方やどちらかに罹患された方であっても、定期接種の2期(就学前の1年間に受ける2回目の接種)の対象に加えられることになり、本格的に麻しん風しんワクチンの2回接種がスタートすることになりました。実施の方法が短期間で変更になっておりますので、ご注意の上、接種対象者の方は接種を受けられるようお願いいたします。

定点:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは303ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は195ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

(ウイルス課 宮川)

シリーズ「バイオテロとその対策」

炭疽(タンソ)

「炭疽」とは、Bacillus anthracis(炭疽菌)の感染により起こる病気です。皮膚にできた病変部が黒くなることがこの名前の由来です(anthracis;ギリシャ語で「炭」)。

通常、牛・羊・山羊・馬などの草食動物で見られる病気ですが、人にも感染する人獣共通感染症の一つです。人への感染が起こるのは、炭疽にかかった動物と接触したり、菌で汚染された革製品などにふれたり、また汚染された肉などを食べたりした場合などで、畜産関係の仕事(畜産農家、獣医、皮革加工業、屠畜作業員等)に従事している人がかかることが多い病気です。日本や欧米など家畜衛生対策が進んでいる地域では、動物で炭疽が発生することが非常に少なくなってきており、それにともなって人での発生も見られなくなりました。

しかし最近、この病気が再び注目を集めるようになりました。炭疽菌が生物兵器として使いやすく、バイオテロに使われる可能性がある、ということからでした。そして実際、2001年にアメリカで炭疽菌入りの手紙がばらまかれ5名が死亡するという事件が発生しました。その後、日本でも各地で”白い粉”事件が発生し、当所にも多数の検体が搬入されましたが、幸い炭疽菌が検出されたことは一度もありませんでした。

炭疽菌について

炭疽菌は1から2×5から10μmの比較的大きな桿菌で、グラム染色という方法で染めて顕微鏡で観察すると、青く染まった菌体が数珠つなぎに並んで見えます(http://www.iph.pref.osaka.jp/topics/tanso/pic2.jpg )。この菌は栄養が足りなくなったり、乾燥したりして増殖・生存ができなくなると1から5μmの小さな胞子(芽胞、http://www.iph.pref.osaka.jp/topics/tanso/pic4.jpg )を形成することができます。芽胞は熱・乾燥・消毒薬・紫外線などに非常に強く、土の中などでそのまま数十年生き続けると言われています。炭疽菌が生物兵器として使われやすい大きな理由は、この「芽胞」をつくる、という性質です。

感染経路・症状について

人における炭疽の病態は、感染経路によって大きく3つに分けることができます。

  • 皮膚炭疽;炭疽の中でもっとも多く見られる病型です。炭疽菌の芽胞が皮膚の傷口などから侵入し、そこで増殖し、かゆみをともなうやや盛り上がったこぶを形成します。やがてこぶは中央部が破れて潰瘍となり、黒くなります。治療をしない場合の死亡率は10から20%とされていますが、適切な抗菌薬を用いれば治療できます。
  • 腸炭疽;菌で汚染された肉を食べることによって発症します。吐き気、嘔吐、発熱、食欲不振などに引き続き、腹痛、激しい下痢、血便などが生じ、死に至ることもあります。死亡率は25から50%と言われています。
  • 肺炭疽;非常にまれな病型です。エアロゾル化した芽胞を吸入し、肺などの呼吸器から感染します。最初、インフルエンザのような症状(発熱、筋肉痛、倦怠感など)を示し、そのまま治療しなかった場合数日後に急激に悪化し、呼吸困難、ショックなどを呈し死に至ります。未治療の場合の死亡率は90%以上とされています。アメリカでおこったバイオテロでは、手紙についた芽胞を直接吸い込んで肺炭疽となり、重症化した例が多く見られました。

診断・検査

炭疽の診断には、菌を検出しそれが炭疽菌であることを証明することが必要です。病変部や痰、血液などを検体として、直接染色して顕微鏡で菌や芽胞を観察したり、適当な培地を使って増殖させ、炭疽菌に特徴的な性質を示すかどうか(溶血しない、運動性がない、コロニーの形状、液体培地での発育など)によって炭疽菌の有無を調べます。もし炭疽菌が疑われた場合には、さらに精密検査(ガンマファージテスト、パールテスト、アスコリーテスト)を行って最終的に炭疽菌と確定します。しかし、これらの検査は、時間がかかる、すぐ試薬が入手できないなどの欠点があり、最近では炭疽菌だけがもっている遺伝子を検出する検査(PCR法など)が行われることが多くなっています。当所では、通常のPCR法よりも正確な結果が得られることから、リアルタイムPCRという方法で炭疽菌の診断を行っています。この方法では、1時間以内に結果が出るという点も大きなメリットです。

このほかに、炭疽菌の抗原をラテックス凝集という方法で直接検出するキットも市販されています。

治療・予防

炭疽菌の感染が疑われる場合、できるだけすみやかに有効な抗菌薬を投与する必要があります。通常ペニシリンGが有効ですが、耐性菌が報告されていることから、シプロフロキサシンまたはドキシサイクリンを第一選択とすることが多いようです。また、芽胞が体内で長期間生存する可能性があるために、薬の投与期間は60日以上(から100日)が望ましいとされています。

海外では人用のワクチンが実用化されていますが、副作用などの問題から日本では受けることはできません。アメリカでも一般へのワクチン投与は勧められておらず、軍人など特殊な職業に就いている人等に限られるようです。また、動物用ワクチンもありますが、人に投与することはできません。

バイオテロなど特殊なケースを除き、日本で炭疽になる可能性はありません。しかし、海外で動物の炭疽対策が進んでいない地域では決して珍しい病気ではありません。そういった地域を旅行する場合、死んでいる動物やきちんと衛生管理されていない畜産品(食品、皮革製品など)に、近寄らない、さわらない、食べないなどの注意が必要です。

参考リンク

感染症発生動向調査週報、感染症の話「炭疽」
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k05/k05_12/k05_12.html

炭疽菌-Wikipedia(外部サイトにリンクします)

(細菌課 河原)


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