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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 33号 2006年5月31日発行

配信された文面をもとに、一部修正を行っています。URLやメールアドレスは配信当時のものです。

目次

  • 今月の話題
    「大阪におけるHIV感染の増大」
  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「5月の感染症」
  • シリーズ「バイオテロとその対策」
    「野兎病」
  • 研究の窓から
    「酸化チタン光触媒の水処理への展開」
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今月の話題

大阪におけるHIV感染の増大

大阪の繁華街のひとつであるアメリカ村の一角でNPOが毎週日曜日に開くエイズ即日検査所では毎回30から40人の人々が訪れます。開設されて1年半のあいだに約2000人が検査を受けましたが、17人のHIV陽性者がみつかり陽性率は0.8%に達しました。世界では1年間に約500万人の新たなHIV感染者が生じていると推定されていますが、その大部分がアフリカやアジアの開発途上国での増加です。ほとんどの先進国では感染者の増大にブレーキがかかっている状況のなか、我が国では依然HIV感染の拡大が続いています。大阪も例外ではなく、2004年から2005年にかけての全国のエイズ患者、HIV感染者の増加が3%であったのに対し、大阪の2005年の報告数は152名であり前年に比べ15%増加しており、心配な状況です。感染者はその大きな部分を男性同性間の感染者が占めますが、異性間の感染も少なくありません。また、今のところ女性の感染者は男性の1/10程度ですが、若い世代ではむしろ女性のほうが活発な性行動をとっているとの調査報告もあり、女性感染者の増大につながることが懸念されます。

私達は14年間にわたって、性感染症のクリニックを訪れる人々、つまり性行動が活発でHIVの感染についてリスクが高いと思われる人々について、HIVと性感染症の疫学調査を続けてきました。この調査でも男性同性間の感染者を中心に毎年1%前後の感染者がみつかっています。効果的なHIV対策としては男性同性愛者など性行動の活発な集団への啓蒙活動、また性行動を始める年齢が若年化している現在、小学校からエイズをはじめとする性感染症の予防教育が必要になっているのではないでしょうか。

(ウイルス課 大竹)

大阪の感染症サーベイランス情報

5月の感染症

2006年第20週(5月15日から5月21日)の定点あたり報告数の上位3疾患は感染性胃腸炎(5.7)、水痘(2.4)、A群溶連菌咽頭炎(2.0)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比2%増加、水痘は20%減少、A溶血性連鎖球菌咽頭炎は22%の増加でした(http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html参照)。

感染性胃腸炎は大阪府全体では昨年の同時期に比べると報告数はすくないものの中河内、南河内では定点当たり10を超えています。4月、5月の病原体定点病院の検体からはノロウイルスが1例、A群ロタウイルスが4例、アデノウイルス40/41型が1例検出されています(5月25日現在)。小学校や施設の感染性胃腸炎の集団感染事例ではノロウイルスやC群ロタウイルスが検出される事例の報告があり、引き続き手洗いの徹底や汚物の処理などの注意が必要です。

水痘は依然として流行が続いており、特に南河内(4.3)、中河内(3.8)、泉州(3.8)で報告が多くなっています。水痘は健康な小児がかかった場合、軽症で経過することがほとんどですが、免疫不全の基礎疾患を持つ人では重症化することが多く注意が必要な疾患です。治療のためにステロイドなど免疫力を抑制する投薬を受けている人も同様に注意してください。

咽頭結膜熱は定点あたり0.6で第5位ですが、昨年の同時期に比べて報告が多くなっています。病原体定点の検体から4月、5月にアデノウイルス3型が3例検出されています。全国的に前年の同時期に比べ咽頭結膜熱の報告は大きく増加しており、今後注意が必要な疾患です。また4月に手足口病患者からコクサッキーA16型ウイルス、ヘルパンギーナ患者からエコー30型ウイルスが検出されていますが、これらの夏型感染症も今後増加する季節となってきました。

報道もされていますのでご存知の方も多いと思いますが関東で麻しんの流行が報告されています(IDSC麻疹情報(外部サイトにリンクします))。大阪府内でも第18週に3例、第20週に2例と少数ながら麻しん患者の報告があります。感染力が非常に強い疾患ですので、感染の拡大を防ぐためにはできるだけ周囲の予防接種率を高めておく必要があります。未接種の方は早急に接種いただきますよう御勧めします。

  • 定点:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは303ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は195ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

(ウイルス課 宮川)

シリーズ「バイオテロとその対策」

野兎病(ヤトビョウ)

野兎病は野兎病菌(Francisella tularensis)の感染により起こる人獣共通感染症です。野兎病の国際的な病名「ツラレミア」や種名「tularensis」は、菌が最初に分離された米国の地名に由来するものです。一方、福島県の開業医である大原八郎(野兎病の命名者)は米国の研究者とは別個に野兎由来のヒトの疾病を研究していました。彼は野兎から分離した菌を自身の妻に感染実験して病原性を証明しました。野兎病は大原医師の名前を冠して別名「大原病」とも言われています。米国CDCは、野兎病菌をバイオテロ対策上もっとも重要性が高い菌の一つとして、炭疽菌、ペスト菌、ボツリヌス毒素などと同一のカテゴリーにランクしています。

野兎病は北半球、特に北緯30度以上の地域(北米、ヨーロッパ、北アジア)で発生しています。日本では1994年までに約1,400例が長野県?愛知県以北の全県で報告されましたが、最近では発生の報告がありません。

感染経路

野兎をはじめとして、ネコ、リス、ムササビ、ニワトリ、カラス、ラット、クマなど約140種の動物からの菌が分離された報告がありますが、日本では90%以上が野兎との接触感染といわれています。米国産のプレーリードッグ(リス科の小動物)が野兎病菌、ペスト菌、サル痘ウイルスに感染していることが明らかとなり、2002年輸入禁止措置が取られたこともあります。通常ヒトからヒトへの感染はありませんが、潰瘍部の浸出物は感染源となり得るでしょう。数十例以上報告された実験室内感染も含めて、以下に示すような多様な感染経路が存在します。

  1. 接触感染:感染した動物の剥皮や調理の時に皮膚や粘膜から感染。10個の菌でも感染すると言われています。
  2. 節足動物の媒介:マダニ、アブ、カ等の刺咬による感染。
  3. 水系・食品媒介:汚染した河川水や感染動物の喫食による感染。
  4. 呼吸器感染(エアロゾルの吸入):汚染した塵埃の吸入による感染。

スウェーデンでは感染したネズミで汚染された野積みの干し草を原因として600名以上の農夫が感染した事件が、米国では芝生や雑木を刈ることにより感染したと考えられる事例がありました。エアロゾルにした10から50個の菌を吸入すると発症すると言われています。このため、バイオテロでは菌をエアロゾルにして散布する方法がとられる可能性がもっとも高いと考えられます。なお野兎病菌は、水、土、死体中で何週間から何ヶ月間にもわたり生存可能であるといわれています。

臨床症状

潜伏期は3から7日ですが、時には2週間以上に及ぶこともあります。初発症状は感冒様の全身症状であり、頭痛、悪寒・戦慄、筋肉痛を伴い突然発熱します。菌が侵入した皮膚に潰瘍を伴うものは潰瘍リンパ節型といわれ、米国で多く発生しています。日本では皮膚の感染部位が不鮮明でリンパ節の腫脹を呈するリンパ節型が多いようです。リンパ節の腫れがなく、発熱を主な症状とするものはチフス型と呼ばれています。発熱、咳、胸痛や肺炎症状を呈するものは肺炎型と呼ばれています。これ以外にも菌の侵入部位により多彩な病型をとることが知られています。

診断・検査

野兎病の診断は主としてホルマリン死菌に対する血中抗体価の測定により行われていますが、患者の血中抗体価が上昇するまでに最低でも1から2週間位を要します。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体によるイムノクロマトキットも米国で市販されているが、陽性反応を得るには最低でも百万個/mlの菌数が必要であると言われています。野兎病菌は検体からの増菌培養が通常は困難なため、菌分離には検体をマウス腹腔内に接種した後、発症したマウスの心血や肝臓等を選択分離培地に塗抹しなければなりません。このような危険な試験を実施できる施設がないことや時間がかかり過ぎることから、バイオテロの診断では事実上菌の分離培養は実施できません。なお菌の取り扱いはBSL3(注1)の施設で行う必要があります。野兎病菌を使用したバイオテロ発生時には、PCR法がもっとも優先される迅速診断法と考えられます。当所では野兎病菌の外膜タンパクをコードするFopA遺伝子とTUL4遺伝子、および16S rRNAを標的にしたMultiplex PCR法(注2)により、野兎病菌を検出できる態勢を整えています。

予防・治療

米国では弱毒生ワクチン(LVS)が実験室内感染予防に使用されていますが、残念ながら日本にはワクチンはありません。治療にはストレプトマイシンやテトラサイクリン等の抗生物質が有効です。死亡率はさほど高くなく、予後も一般的に良好です。

  • 注1 BSL3:病原微生物の危険度分類バイオセーフティーレベル3。レベル1から4まであり、レベル3は「ヒトに感染すると重篤な疾病を起こすが、他の個体に伝播の可能性の低いもの」。
  • 注2 Multiplex PCR法:PCRは、生物の遺伝子が含まれている試料から、目的とする遺伝子(遺伝子の一部)を試験管内で大量に合成する方法。目的の遺伝子の両端部分と同じ1組の短い合成DNA(プライマー)と耐熱性DNA合成酵素を用いる。Multiplexは同時に幾つかの遺伝子を合成する方法。遺伝子が合成できれば、その遺伝子が試料の中に存在していることがわかるため、病原微生物の検出などに利用されている。複数の遺伝子を用いるのは検査精度を上げるため。

(細菌課 浅尾)

研究の窓から

酸化チタン光触媒の水処理への展開

検索サイトのgoogleで”酸化チタン(注3)光触媒”で検索をかけると、約22万件もヒットします。この酸化チタン光触媒とはどのようなものでしょうか。酸化チタンは半導体の性質をもっており、外部から光(紫外光)を当てるとエネルギーバンド(注5)間で電子の移動が生じ、その結果酸化チタン表面の吸着水と反応し、酸化力がきわめて強いヒドロキシラジカル(注4)を生成します。酸化チタン自身は変化しませんが、この反応が光のエネルギーで起きるので、「光触媒」と言われています。酸化チタンはイルメナイト鉱やルチル鉱を原料とし、熱処理や加水分解条件をコントロールして結晶型の異なるルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンが製造されます。生産量の多いルチル型は光触媒活性は弱いのですが、白色顔料として塗料や化粧品材料、食品添加物などに使用されています。一方、活性の強いアナターゼ型は外壁やガードレールなどの汚れ防止、室内空気浄化や抗菌加工に、またミラーや内視鏡の曇り防止など広い用途に使用されてきています。

当所では、酸化チタンの利用が最も遅れている水処理分野での適用を目的として、水中の有機物質の除去について検討を行ってきました。おもに粉体状のアナターゼ型酸化チタンを使用し、色素溶液や界面活性剤溶液を用いて分解におよぼす各種要因について実験を行い、これらの有機物質が脱色はもちろん部分的に二酸化炭素にまで分解されることを確認しています。その結果、水処理分野への酸化チタンの利用の可能性が認められました。

ただ、アナターゼ型酸化チタン光触媒を利用するには波長が380nm以下の紫外光(ブラックライト)が必要です。そこで可視光でもこのような光触媒作用を示す可視光応答型の酸化チタン光触媒の開発が盛んに進められています。ルチル型は一般的に活性が低いとされていますが、酸化チタンよりさらに小さいナノスケールの白金を表面に担持させることにより、活性が高まっていることが指摘されています。また、ルチル型は波長が410nm以下の光で触媒能を示すため、青色可視光を利用できる優位性を持っています。

今回、アナターゼ型に加えこの白金担持ルチル型酸化チタンを用いて、水中有機物質の分解性について比較検討を行いました。光触媒能の評価によく使用されるメチレンブルー溶液を用いて検討した結果、光源として蛍光灯を用い同一条件で実験を行った場合、脱色率ならびにCOD(化学的酸素要求量)の減少率はアナターゼ型の31%及び8%に対し、白金担持ルチル型は76%及び30%であり、高い分解力を示すことを明らかにしました。今後、より活性の高い可視光応答型光触媒が開発されれば、自然光や室内光でこれらの効果が期待でき、身の回りの環境改善につながるものと期待されます。

  • 注3 チタン:チタンは地球の地核に存在する9番目に多い元素で、金属チタンは眼鏡のフレームやゴルフのクラブ、飛行機の外板などに、酸化チタンは顔料や光触媒に用いられる。
  • 注4 ヒドロキシラジカル:OH・で表され、活性酸素と呼ばれるもののなかでは最も反応性が高く、塩素やオゾンよりも酸化力が強い。
  • 注5 エネルギーバンド:原子のなかで電子で満たされている最もエネルギーの高いバンドを価電子帯、その上のバンドを伝導帯といい、酸化チタンでは紫外光を受けると価電子帯の電子が伝導帯に励起される。この時、価電子帯には電子の抜け殻である正孔が生じ、表面吸着水を酸化する。

(環境水質課 中野)


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