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大阪健康安全基盤研究所

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かわら版@iph 21号 2005年5月31日発行

配信された文面をもとに、一部修正を行っています。URLやメールアドレスは配信当時のものです。

目次

  • 大阪の感染症サーベイランス情報
    「5月の感染症」
  • 研究の窓から
    「『健康食品(魚油)』に含まれる残留性有機ハロゲン化合物と深海汚染」
  • 解説
    「食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度とは」
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大阪の感染症サーベイランス情報

「5月の感染症」

第20週(5月16日から5月22日)の定点あたり報告数の上位3疾患は感染性胃腸炎(6.6)、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(1.6)、水痘(1.3)でした(()内は定点あたり報告数)。4・5月の病原体定点からの検体で、感染性胃腸炎患者から検出されたウイルスはA群ロタウイルスが12例、ノロウイルスが1例でした。第20週には幼稚園や小学校で胃腸炎の集団発生の報告があり、ノロウイルスが検出された事例が認められています。ノロウイルスによる胃腸炎は冬季に流行することが多いのですが、昨年も5月以降に小学校などで集団感染がみられており、今後も引き続き注意が必要です。感染予防のためにはまず手洗いの徹底が大切です。また感染した人の便中や嘔吐物中にウイルスが含まれています。特に集団の場では、嘔吐物などで汚染された床はペーパータオル等で拭き取り、すぐに家庭・台所用塩素系漂白剤(市販品を約10倍に薄めたもの)を浸した雑巾等で清掃し2次感染の予防に心がけてください。

水痘は前週比13%減少しましたが、中河内、堺市、泉州では定点あたり2を超えています。水痘は比較的軽症で経過することが多い感染症ですが、特に基礎疾患のある方では重症化することもあります。まだ罹患されていない方は、地域の流行情報に気をつけるとともに予防のためのワクチンもありますのでかかりつけ医とのご相談をお勧めします。

第6位のヘルパンギーナが定点あたり0.5で増加傾向にあります。まだ報告数は多くありませんが、4月に手足口病の患者からコクサッキーウイルスA6が2例分離されています。そろそろ夏型感染症に注意が必要です。

一方、5月に入ってからもインフルエンザの報告があります。定点あたりは0.2と終息していますが、第19週にはインフルエンザA香港型ウイルスが原因の集団発生が大阪府内でも報告されています。

詳細はこちらhttp://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html

(ウイルス課 宮川 大竹)

研究の窓から

「『健康食品(魚油)』に含まれる残留性有機ハロゲン化合物と深海汚染」

近年の健康志向の高まりを反映して、市場には多種多様な「健康食品」が溢れています。これらのなかには、深海鮫肝油やタラ肝油など、魚の抽出脂肪(魚油)を原料としたものも多数市販されています。一方、魚の体内脂肪には食物連鎖を通じて有機ハロゲン化合物(PCBやDDT等)が蓄積される傾向があることから、市販の魚油にもこれらの汚染物の一部が溶け込んでいる可能性があります。しかし、法律で明確な基準値や表示義務が規定されていないこともあり、魚油中の有機ハロゲン化合物を対象とした監視・調査研究は全国的にみてもあまり行われていないのが実情です。特に、最近インターネット上などで「抗ガン作用」を有するサプリメントとして宣伝・販売されている深海鮫肝油の汚染実態については、これまで報告がありませんでした。

このような背景から、昨年度、当所では魚油を原料とした「健康食品」を対象に有機ハロゲン化合物の残留調査を実施しました。対象としたのはインターネット通信販売を利用して2004年に購入した魚油35検体(うち深海鮫肝油12検体)、アザラシ油5検体、ウミヘビ油1検体です。調査の結果、いくつかの魚油から、比較的高い濃度の有機塩素系農薬(DDT類、HCHs、HCB、クロルデン類)や絶縁油・難燃剤成分(PCBs、PBDEs)が検出されましたが、常識的な範囲で魚油を摂取する分には、これらは許容一日摂取量を超えることはなく、健康影響上直ちに問題となるレベルではないことが分かりました。

約4ppmのDDT類が検出されるなど、最も汚染度の高かったのは、日本近海産の深海鮫肝油を原料としたカプセル製品でした。汚染物の検出パターンや製品の製造工程から判断すると、これらの汚染物は製造過程で混入したものではなく、原料となっているアイザメ(水深500m以上の深海で捕獲)の肝臓中に残留していたものと推測されます。愛媛大の高橋らの環境調査においても、駿河湾に生息する深海性のヘラツノザメ(水深220から540mの深海で捕獲)の肝臓から比較的高濃度の有機塩素化合物が検出されています。高橋らは、駿河湾および土佐湾の深海生態系が有機塩素化合物や有機スズ化合物(船底の防汚剤)によって広範囲に汚染されていることを明らかにしています。これらの汚染物は、海水中の降下粒子(プランクトンの死骸等)に吸着して海底に運ばれると考えられます。海洋深層水などの宣伝から連想される清浄なイメージと異なり、一部の深海は各種の環境汚染物質の溜まり場となっているようです。近年問題となっている仟津・ぢ(残留性の高い難燃剤成分)も深海鮫肝油から約0.05ppmの濃度で検出されており、本化合物による海洋汚染が既に深海域にまで達したことが示唆されます。

同じ魚種を原料とした魚油であっても、原産地や製法が異なれば、製品の汚染レベルは大きく異なると考えられます。例えば、同様の非加熱製法で製造された成分無調整のアイザメ肝油製品であっても、ニュージーランド近海産に比べ日本近海産は約1桁汚染物の濃度が高くなっていました。また、特定の成分(EPA、DHA等)を濃縮精製した魚油では有機ハロゲン化合物の汚染レベルが低い傾向が認められました。恐らく、減圧蒸留等の濃縮精製工程に伴い、原料に含まれる汚染物質の一部が除去されるのではないかと考えられます。上述のアイザメ肝油についても、精製工程の改善など、メーカーの自主努力による汚染物質の低減化が望まれます。

以上、魚油中の汚染物質について述べてきましたが、これらの摂取リスクは市販の生鮮・加工魚介類を摂取する場合と比べて特に大きなものではありません。なお、特定の健康食品やサプリメントに頼りすぎず、バランスの良い食生活を心掛けることが一番だと思います。

(食品化学課 阿久津)

解説

「食品中に残留する農薬等のポジティブリスト制度とは」

食品中の残留農薬は食品衛生法で規制されています。そこでは農産物を133種類に分類し、それぞれ多数の農薬についての残留基準値が決められています。この残留基準値の設定された農薬が、その基準値を超えて残留していた場合には、その食品の流通を禁止することになります。これを言い換えると「リストに載っている農薬が基準値以上ならば違反(リスト外は対象外)」になり、残留基準値が設定されていない農薬については、基本的に取締りの対象外でした。取締りの対象を広げるため、ここ10数年で規制対象の農薬数は10倍にも増加し、今では約240種類の農薬の残留基準が設定されていますが、さらに平成18年5月までには現在の倍以上の650以上の農薬等について規制される予定です。これに加えて、基準のない農薬等は一律基準値で規制することになります。言い換えると「リストに載っている農薬だけが基準値以下の残留を許される(リスト外は違反)」となり、「残留を許可(ポジティブ)されるリスト」という意味でポジティブリスト制度と呼ばれています。これによって、従来ならば残留基準値が設定されている農薬だけが規制対象となっていたのが、全ての農薬等が規制対象に含まれることになります。

「農薬」は農薬取締法で定義され、農作物等を害する病害虫の防除に用いられる薬剤と、農作物の生理機能の増進又は抑制に用いられる薬剤が該当します。農薬は農林水産省へ登録したものだけが販売を許可され、代謝試験や毒性試験、残留性の試験など様々な試験結果で問題が無いことを示す必要があります。毒性試験では動物実験でその影響が調べられ、毎日摂取しても生体に影響のみつからない量が求められます。これにヒトと動物の種の違いによる差があるかもしれないため、安全係数として100分の1をかけて人間の一日許容摂取量(ADI)としています。農薬等の個々の残留基準値は、このADIと各食品の摂取量や農薬の使用実態を考慮して作成されています。販売を許可された農薬は、適用農作物や対象病害虫、使用方法が容器に明記されており、それに従って使用していれば残留基準値を超えることはありません。また、農薬の登録は期限が3年なので、製造会社が登録の更新をしなかった農薬は登録抹消されます。こういった古い製品の国内での販売、使用は農薬取締法違反になりますが、残留基準値を超えない限り食品衛生法上は問題になりません。

(食品化学課 起橋)


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