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大阪健康安全基盤研究所

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<論文紹介>清涼飲料用ペットボトルの安全性~金属類の調査~

掲載日:2024年10月11日

ペットボトルは、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)というプラスチックを原料に成型された容器です。透明で軽くて丈夫であることから、お茶やジュース、お酒などの飲料だけでなく、しょうゆやお酢、食用油などの容器としても広く使用されています。ペットボトルは私たちの生活に欠かせない存在になっているのではないでしょうか。

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当研究所ではペットボトルの安全性に関する研究に取り組んできました。今回は、清涼飲料用ペットボトルに含まれる金属類に着目した研究の概要について紹介します。

ペットボトルの種類と金属触媒

清涼飲料に使用されるペットボトルはその特性により4種類に大別されます。熱い飲料を入れられるか(耐熱性)と炭酸飲料を入れられるか(耐圧性)が分類のポイントで、耐熱用ボトル、耐熱圧用ボトル、耐圧用ボトル、そして耐熱性も耐圧性もない無菌充填用(一般用)ボトルがあります。

耐熱用ボトルはお茶や果汁飲料、耐熱圧用ボトルは果汁入り炭酸飲料、耐圧用ボトルは炭酸飲料、無菌充填用ボトルは水、お茶、スポーツドリンクなどに使用されています。ボトルの口部の色と底のかたちを見ると簡単に判別することができ、口部が白色であれば耐熱性あり、透明であれば耐熱性なし、底がペタロイド(花弁)型であれば耐圧性あり、凹型であれば耐圧性なしです[1]。

ボトルの耐熱性の有無は、その原料であるPET樹脂の製造に使用される金属触媒と関係があります。PETは主にテレフタル酸とエチレングリコールを原料にして、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを作り、高温・高真空下で重縮合反応させて得られます。その反応を促進させる重要な役割を果たすのが触媒と呼ばれる物質です。一般的に、耐熱性のあるPETにはゲルマニウム(Ge)やチタン(Ti)系触媒、耐熱性のないPETにはアンチモン(Sb)系触媒などが使用されています。

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ペットボトルに金属類はどのくらい含まれるのか?

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PET製造時に使用される金属触媒はその後の工程で除去されることはないため、
ボトル中に残存しています。そこで、一般的に使用されている清涼飲料用ペット
ボトル中にどのくらいの量の金属類が含まれているのか調査しました[2]。


その結果、耐熱用および耐熱圧用ボトルにGeは約47 mg/kg(平均値)、Tiは
約14 mg/kg(平均値)含有されていました。ボトル1本の重さを25 gとすると、
ボトル1本あたりGeは約1 mg、Tiであれば約0.4 mg含有されていることになり
ます。また、耐圧用および無菌充填用ボトルにSbは約195 mg/kg(平均値)含有されていました。ボトル1本の重さを20 gとすると、ボトル1本あたりSbは約4 mg含有されていることになります。

ペットボトルに含まれる金属類は飲料へ溶出するのか?

ペットボトルに含有されている金属類はボトルから飲料へ溶出する可能性があります。そこで、清涼飲料用ペットボトルからどのくらいの量の金属類が溶出するのか調査しました[3]。新品の空ペットボトルに、食品擬似溶媒を充填し、複数の温度・時間条件で保管した後、金属類の溶出量を測定しました。

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食品擬似溶媒とは、食品の物理化学的特性を模した溶媒であり、通常食品用に蒸留水、酸性食品用に4%酢酸、乳・乳製品用に50%エタノールが使用されます。本研究ではこの3種類を使用しました。また、温度は25℃、40℃および60℃(ホット飲料を想定)の3段階、時間はペットボトル入りミネラルウォーターの賞味期限などを参考に10日~2年間とし、使用される可能性がある食品擬似溶媒、温度および時間を組み合わせて溶出条件を設定しました。

その結果、ボトルからGeおよびSbが溶出することがわかりました。それらの溶出量は保管温度が高いほど多く、蒸留水および4%酢酸よりも50%エタノールのほうが多くなる傾向がみられました。25℃で2年間保管した場合のGeおよびSbの最大溶出量は0.02 μg/mLおよび0.002 μg/mLでした。SbはGeよりもボトル中の含有量は多いものの、ボトルから食品擬似溶媒への溶出量は少ないことがわかりました。Tiの溶出量はすべての溶出条件下で0.002 μg/mL未満でした。

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ペットボトルから溶出した金属類は安全なのか?

Ge系またはSb系の化合物の一部を多量に摂取すると体温低下や下痢、嘔吐などの健康被害を引き起こすおそれがあり、日本の食品衛生法では、PET製器具・容器包装を対象にGeおよびSbの溶出量の規格が設定されています。食品擬似溶媒として4%酢酸を用いて60℃30分間の溶出試験を行ったときの溶出量の規制であり、一般食品用の器具・容器包装については、Geは0.1 μg/mL以下、Sbは0.05 μg/mL以下が適用されます。本研究におけるGeおよびSbの溶出量は、設定したいずれの条件においてもこれらの規格値を下回っていました。
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一般的に器具・容器包装の安全性については、想定される用途の範囲内で評価が行われます。例えば、耐熱性のないミネラルウォーター用ボトルに熱いお湯を注いで保管するなど、用途外使用された場合はボトルが変形したり、金属類の溶出量が多くなるおそれがあるので注意が必要です。

本研究について

本研究結果は英文学術雑誌“Packaging Technology and Science”誌に掲載されています[2、3]。詳細は本誌をご覧ください。

参考文献

[1] PETリサイクル推進協議会ホームページ:PETボトルの種類
https://www.petbottle-rec.gr.jp/more/kind.html

[2] Kishi, E., Ozaki, A., Ooshima, T., Abe, Y., Mutsuga, M., Yamaguchi, Y., Yamano, T. Determination of various constituent elements of polyethylene terephthalate bottles used for beverages in Japan. Packaging Technology and Science, 33, 138–198 (2020). https://doi.org/10.1002/pts.2497

[3] Kishi, E., Ozaki, A., Ooshima, T., Abe, Y., Mutsuga, M., Yamaguchi, Y., Yamano, T. Migration of catalyst elements from polyethylene terephthalate bottles into food simulants and mineral water under short- and long-term conditions. Packaging Technology and Science, 37, 319–334 (2024). https://doi.org/10.1002/pts.2794

お問い合わせ

衛生化学部 食品安全課
電話番号:06-6972-1110