＜論文紹介＞放射線が照射された食品を判定する方法を開発～農産物（タマネギ）編～

当研究所では、放射線を照射した食品（照射食品）を検知する方法（検知法）の開発に取り組んでいます。生鮮農産物（タマネギ）を対象にした検知法の論文が、英文学術雑誌” Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry”誌に掲載されました[1]。

1.　検知法開発の取り組み

照射食品について、当研究所のホームページ記事「食品に対する放射線照射の現状と検知法について」（関連記事1）に触れていますのでご参照ください。当研究所での検知法開発に向けたこれまでの取り組みについてもご紹介しています。

 

【関連記事1】食品に対する放射線照射の現状と検知法について

 

当研究所ではこれまでに、本検知法の様々な動物性食品（冷凍肉類、えび等）のほか、植物性食品（乾燥香辛料等）の殺菌線量(概ね1kGy以上)に対する適用性を検討し、乾燥赤唐辛子への適用については、以下の関連記事2にて紹介しています。

 

【関連記事2】放射線が照射された食品を判定する方法を開発～乾燥赤唐辛子編～

 

本稿では、新たに発芽防止を目的として照射された生鮮農産物の照射履歴の検知について、タマネギを試料として検討した結果を紹介します。

 

2.　発芽防止を目的として放射線照射したタマネギの検知

検疫処理や発芽防止の場合、殺菌よりも相対的に低い線量（数十～数百Gy程度）が用いられ、生成する指標化合物の5,6-ジヒドロチミジン（DHdThd）は相対的に少なくなることから、検出が難しくなります。そこで我々は、固相カラムを用いた精製・濃縮操作の導入により、微量のDHdThdを検出する方法を先行開発しました[2]。本論文では、この開発した方法を用いて、発芽防止を想定した線量を照射した生鮮農産物（タマネギ）からの検知を実証しました。

 

固相カラムを用いた方法による微量のDHdThdの検出には、約4000μgのDNAを必要とします。超音波破砕処理と大容量DNA抽出カラムの組み合わせにより、必要量のDNAを抽出する方法[2]を用いて、ガンマ線60～150Gyを照射したタマネギからDNAを抽出し、そこに生成したDHdThdを分析しました。LC-MS/MSで得られたクロマトグラムの一例を図1に示しています。結果として、照射タマネギにおけるDHdThdの照射特異的かつ線量依存的な生成が確認されました。

 

 

図1 タマネギから得られたクロマトグラムの一例
左: 非照射試料 右: 照射試料（縦軸は同一）

 

さらに、本検知法のタマネギへの適用にあたっては、DHdThdが保管期間にわたって分解・消失せず、検知に必要な水準が維持されていることが必要です。その検証のために、タマネギを室温で3ヶ月間保管した後、DNAを抽出し、DHdThdを分析しました。その結果、DHdThd は3ヶ月の室温保管前とほぼ同等の量が検出されたことから、DHdThd残基はタマネギDNA中に照射によって生成後、安定して存在していることが分かりました。従って、タマネギDNA中のDHdThdをマーカーとして用いることにより、発芽防止のための照射履歴を検知することが可能と考えられます。

 

本研究により、発芽防止を想定した線量を照射した生鮮農産物においても、そのDNA中にDHdThd残基が生成していることが確認されました。さらに、そのDHdThd残基は、保管中に分解・消失することなく、安定的に残存していました。以上のことから、DHdThdをマーカーとする本検知法は、殺菌のために照射した冷凍肉類や乾燥香辛料等に加え、発芽防止や検疫処理のために照射した生鮮農産物にも応用範囲を拡大していくことが期待されます。

 

参考文献

[1] Fujiwara T., Fukui N., Furuta M. and Takatori S., Detection of exposure to sprout-inhibiting radiation doses in onions via 5,6-dihydrothymidine quantification using ultrasonication-mediated DNA extraction. Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, 334: 595–602 (2025).

[2] Fujiwara T., Fukui N., Furuta M., Takatori S., Development of a Sensitive Method for the Determination of 5,6-Dihydrothymidine Formed by Gamma Irradiation of DNA below 0.1 kGy. Radioisotopes, 73: 35–46 (2024).