<論文紹介>健康食品の仮面を被った違法製品~医薬品成分ビンポセチンを検出しました~
掲載日:2025年3月24日
健康志向の高まりにより様々な健康食品が私たちの周りにあふれています。一般的に健康食品とは健康の維持や増進に役立つとされる食品を指します。医薬品と食品との間とも言われることもありますが、あくまで食品のくくりですので有効性や安全性を審査・承認された医薬品とは異なります。
しかし、健康食品の中には違法に医薬品成分を配合している製品が存在します。本記事では令和4年に検査した健康食品から医薬品成分を検出した事例1,2)についてご紹介したいと思います。
(この記事は専門家を対象に執筆されたものです)
大安研での健康食品検査
大阪健康安全基盤研究所(大安研)では、市場に出回っている健康食品に医薬品成分が含有されていないかどうか検査を実施しています。具体的には過去に違法製品への含有が報告されている医薬品成分を検査項目として設定し前処理した検体溶液を液体クロマトグラフ-フォトダイオードアレイ検出器(LC-PDA)を用いて分析しています。また、検査結果・製品情報・過去の違反報告などを加味し、検査項目外の医薬品成分が入っていることが疑われた場合は液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析計(LC-QTOF/MS)、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)、LC-PDA等の分析機器を駆使して追跡を行います。
今回医薬品成分が検出された健康食品(図1)には過去に類似製品が医薬品成分を検出したとして注意喚起されていました3)。

図1)医薬品成分を検出した製品2種(a, b)
分析1:全イオン検出による化合物の推定
はじめに全イオン検出法という手法を用いて検体溶液内の違反と疑われる化合物を推定しています。分析にはLC-QTOF/MSを使用します。この機器は溶液中の化合物をイオン化し、イオンの精密質量を測定することができます。精密質量からイオンの化学式がわかるため検体溶液中の医薬品成分の推定が可能です。当該製品の全イオン検出の結果、質量電荷比(m/z) 351.2067のイオンがピークとして検出され、イオン化する前の化学式がC22H26N2O2であることがわかりました(図2)。

図2)製品検体溶液の抽出イオンクロマトグラム(抽出m/z: 351.2067, 代表して製品aを掲載)
得られた化学式の情報から候補となる化合物を探索したところビンポセチンと呼ばれる化合物が候補化合物に浮上しました(図3)。ビンポセチンは過去に国内で脳循環改善薬として流通していた医薬品成分でした。

図3) ビンポセチンの構造式
分析2:標準品を用いた未知成分の同定
予想される医薬品成分が健康食品中に含まれているかどうかを確認するために、化合物情報が明確にされた標準品を使用して未知成分を同定(特定)しています。当該製品においては、ビンポセチン標準品をLC-QTOF/MSで分析し、分析1で得た検体溶液のイオンクロマトグラムと同等の結果が得られるか確認しました。その結果、標準品のピークはm/z 351.2067で抽出したイオンクロマトグラムで捉えられました(図4)。
図4) ビンポセチン標準品の抽出イオンクロマトグラム(抽出m/z: 351.2067)
さらに、ピークの溶出時間が3.5分であり、製品溶液のm/z351.2067のピークの溶出時間と一致しました(図2)。まとめると標準品とのm/z・溶出時間の一致により、当該製品にビンポセチンが含まれることを確認できました。
おわりに
健康食品には思いもよらない医薬品成分が含有されている場合があります。引き続き当研究所では健康被害を防止するために、従来の検査項目に加えて製品情報等を加味した網羅性が高い検査を行っていきます。参考
1) 令和4年度健康食品買い上げ検査(医薬品成分が検出された健康食品)について 掲載日:2023年2月17日https://www.pref.osaka.lg.jp/o100100/yakumu/kenkoushokuhin/r04_kensyoku.html
2) 阪井貴之,淺田安紀子,東雄貴,田中未紗,土井崇広,田上貴臣, 痩身効果を標榜する健康食品からビンポセチンを検出した事例, 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所研究年報 Ann. Rep. Osaka. Inst. Pub. Health, 8, 79-86 (2024)
3) 東京都 「医薬品成分を含有する製品の発見について」掲載日:2021年9月28日 https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/09/28/10.html
お問い合わせ
衛生化学部 医薬品課
電話番号:06-6972-1362
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