水道水中の微量物質の調査 -アクリル酸・ヒドラジン-
掲載日:2024年12月23日
はじめに
私たちの生活に欠かせない水道水。その水質は、水道法の「水質基準」に適合することが義務付けられており、私たちが安心して飲めるように、水源から蛇口に至るまできめ細やかな水質管理が実施されています1)。また、この「水質基準」以外に、水質管理上留意すべき項目(水質管理目標設定項目)、知見・情報を収集すべき項目(要検討項目)が国により定められており(表1)、これらは最新の科学的知見により、見直しが定期的に行われています1)。
表1. 水道水質基準について
大阪健康安全基盤研究所(大安研)では、水道水の安全確保を図るための基礎資料を得ることを目的に、大阪府と大阪府内の水道事業体と協力して、要検討項目に該当する項目など、水道水中の微量な物質を継続的に調査しています2)。今回は、「要検討項目」に分類され、まだ十分な情報がないアクリル酸とヒドラジンに関する大阪府内の浄水場での実態調査の結果を紹介します3)。
アクリル酸・ヒドラジンとは
アクリル酸およびヒドラジン(図1)は、水道管の内側の塗料に使われることがあります4)。また、水道水を生涯飲み続けても、健康に影響がないとされる値(目標値)が設定されておらず、水道水の原水(水道水の元となる水)および給水原水(実際に家庭などで使われる蛇口の水)における存在実態の把握が必要とされています。
その他、アクリル酸は様々な製品の原料として使われています。例えば、おむつ用の吸水性樹脂の原料、塗料や接着剤の原料や化粧品の原料などに使われることがあります5)。一方、ヒドラジンも様々な用途で使われ、例えば、ロケットの燃料として使われるほか、化学製品、農薬、医薬品の原料として利用されています6)。
図1. アクリル酸とヒドラジンの化学構造
調査の方法
大阪府内10か所の浄水場を対象とし、夏(2022年7月)と冬(2023年2月)に実態調査を行いました。それぞれの浄水場の原水(水道水の元となる水)、浄水(浄水場で処理された水)および給水栓水(実際に家庭などで使われる蛇口の水)についてアクリル酸およびヒドラジンの分析を行いました。なお、原水の水源の内訳は以下の通りです3)。
- 表流水(河川水):5か所
- 伏流水注1):1か所
- 湖沼水(湖や池の水):2か所
- 井戸水:2か所
注1) 河川水などが周辺の砂層などの中に浸透して流れる水
結果
すべての調査対象において、アクリル酸およびヒドラジンは定量下限値(用いた分析方法で正確に定量できる最低の濃度)未満でした(定量下限値:アクリル酸0.05 mg/L、ヒドラジン0.0005 mg/L)3)。
これらの定量下限値は、水道水を生涯飲み続けても、健康に影響がないとされる値の案(目標値案)7)と比較しても十分低く、水道水による健康リスクは非常に低いと考えられました(表2)。
表2. 実態調査の結果
まとめ
今回は、水道水中の要検討項目(アクリル酸とヒドラジン)の調査結果についてご紹介しました。このような調査により、大阪府内の水道水源および水道水中に存在する未規制微量有機物質の実態を把握し、水道水の安全確保を図るための基礎資料を得ることが可能となります。これまでに行った調査結果については、大阪府のウェブページに掲載されています2)。
大安研は今後も継続して水質の調査を行い、水道水の安全性の向上に貢献し、皆さんの健康を守ってまいります。
引用文献
- 環境省. 水道水質基準について. https://www.env.go.jp/water/water_supply/kijun/index.html.
- 大阪府. 大阪府水道水中微量有機物質調査. https://www.pref.osaka.lg.jp/o100090/kankyoeisei/biryoyuki/index.html.
- 大阪府, 大阪府水道水中微量有機物質調査, 令和4年度調査結果. アクリル酸およびヒドラジン. 大阪府, 2023. https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/34962/r4biryouyuuki.pdf.
- 日本水道協会, 検査事業, 検査規定集(ダウンロード), 防触加工の部. 水道用ダクタイル鋳鉄管内面エポキシ樹脂粉体塗装検査施行要項. 日本水道協会, 2020. http://www.jwwa.or.jp/kensa/kensakitei_file/kensakitei_086.pdf.
- NITE 化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP), CHRIP_ID: C004-722-68A. 用途. https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_79-10-7.html.
- NITE 化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP), CHRIP_ID: C004-686-59A. 用途. https://www.chem-info.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_302-01-2.html.
- 環境省, 令和3年度第2回水質基準逐次改正検討会. 資料3 要検討項目の存在実態調査進捗について(報告). 環境省, 2022. https://www.env.go.jp/content/900547974.pdf.
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