水道水質検査におけるスクリーニング分析法について
掲載日:2019年2月18日
水道水の安全性について
近年水道分野では、人口減による水需要の減少や老朽化した水道管の更新費用の増加により、水質管理の人員・予算が削減されています。これらの背景から、水道水の安全性を確保し続けるにはどうしたらよいかが議論1)され、水道水中の有害物質を早期に検出するために、より迅速・簡便な検査法の構築が必要とされています。
今回は当所で取り組んでいる研究のひとつである「より効果的な水道水質検査法の開発」についてご紹介します。
水道水質検査における農薬類の現状
日本における水道水質は、以下の3つのカテゴリーにより検査項目が定められ、水道水質の安全性が守られています2)。
- 水質基準項目:検査が法律で義務付けられている項目
- 水質管理目標設定項目:水道水中での検出の可能性があるなど、水質管理上留意すべき項目
- 要検討項目:毒性評価が定まらないことや、浄水中の存在量が不明等の理由から水質基準項目、水質管理目標設定項目に分類できない項目
これら農薬類の検査は、検査対象である農薬標準品から得られた情報を基準として濃度を決定するターゲット分析法によって行います。しかし、検査対象項目数が多く、各農薬に応じた標準液の調製や測定等が必要となるため、検査に労力、時間および費用が非常にかかるなどが問題となっています。
より効果的な水道水質検査法の開発
ターゲットスクリーニング分析法は、従来のターゲット分析法とは異なり、標準物質の準備、比較するための標準液の調製・測定および検量線の作成をせずに、データベースに登録されている化学物質をスクリーニング的に同定・定量することができる方法です。したがって、分析にかかる時間やコストを縮小させることが可能です。また、データベースに登録されている化学物質を増やすことにより、一度に多くの化学物質を検査することも可能です。少し専門的なお話になりますが、化学物質を質量分析計(図1)と言われる分析装置で分析すると以下の3つの情報が得られます。
- 各化学物質に特有なマススペクトル(図2:人間でいう指紋のようなもの)
- マーカーとなる内部標準物質(IS)と各化学物質が検出されるまでの時間(保持時間)
- ISと各化学物質濃度との関係式(検量線)
このようにスクリーニング分析法の実現化がさらに進めば、労力のかかる従来の検査法から、簡易分析が可能となります。今後も国立医薬品食品衛生研究所や他の地方衛生研究所と協力して、農薬の検出状況の傾向把握や水質管理に役立てる分析法の実用化に取り組んでいきます。
図1. ガスクロマトグラフ-質量分析計

図2. マススペクトルの例
引用文献
1)小林憲弘、木下輝昭:スクリーニング分析法を用いた水道水質検査、環境科学会2018年会講演要旨集、161-162 (2018)
2)厚生労働省:水道水質基準について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/index.html
3)厚生労働省:農薬の考え方について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/suishitsu/05.html
4)大阪健康安全基盤研究所衛生化学部生活環境課:水道水質に関する農薬類の改正について
http://www.iph.osaka.jp/s012月05日0/010/040/200/20180101152000.html
お問い合わせ
衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353
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