栄養成分表示の活用
平成27年に食品表示法が施行され、加工食品には栄養成分を表示することが義務づけられました。それ以前の表示は任意であったため、急な義務化に対応できない事業者があることを考慮し、5年間の猶予期間が設けられました。令和2年4月1日からは栄養成分表示は完全義務化となり、基本的にすべての加工食品には栄養成分表示が行われています。栄養成分表示は、消費者がバランスの取れた食生活を送るための重要な情報源です。今回は栄養成分表示を上手に活用する方法について解説します。
栄養成分表示のルール
栄養成分の表示例を図1に示します。
例1(義務表示) |
例2(任意表示) |
例3(内訳表示) |
例4(規定外の成分) |
栄養成分表示の枠内に表示するもの
具体的な表示のルールを定めた食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に則ってエネルギー(熱量)や栄養成分が表示されます。1)義務表示
エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量は、健康維持に非常に重要な栄養成分であるため、必ず表示する必要があります(図1:例1)。●エネルギー
その食品が全て消化吸収されたときの熱量を表します。●たんぱく質
生物の重要な構成成分の一つであるとともに、様々な生理活性物質の材料です。1g当たり4kcalのエネルギーになります。●脂質
細胞膜の主要構成成分であり、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)やカロテノイドの吸収を助ける働きも持っています。1g当たり9kcalのエネルギーになります。●炭水化物
たんぱく質と脂質、水分、ミネラル分を除いた残りの有機物を炭水化物とみなします。砂糖などの糖質や食物繊維が含まれます。1g当たり4kcalのエネルギーになります。●食塩相当量
以前はナトリウムの量として表示されていましたが、生活習慣病予防のための摂取目安量が食塩量で提示されていることから、一目でわかるように食塩相当量に変更されました。2)任意表示
ミネラル類、ビタミン類については、任意で枠内に表示することが可能です(図1:例2)。任意で表示可能な栄養成分を表1に示します。表1任意表示可能な栄養成分
ミネラル類 |
亜鉛,カリウム,カルシウム,クロム,セレン,鉄,銅,マグネシウム,マンガン,モリブテン,ヨウ素,リン |
ビタミン類 |
ナイアシン,パントテン酸,ビオチン,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンK,葉酸 |
また、脂質や炭水化物については、より詳細な成分名を内訳表示することも可能です(図1:例3)。
表2に内訳表示が可能な栄養成分名を示します。
表2内訳表示可能な栄養成分
脂質の内訳表示 |
飽和脂肪酸,n-3系脂肪酸,n-6系脂肪酸,コレステロール |
炭水化物の内訳表示 |
糖質・食物繊維(必ずセットで表示),糖類(糖質の内訳として表示) |
栄養成分表示の枠外に記載するもの
食品表示基準に規定がない成分(コラーゲン・ヒアルロン酸など)は、栄養成分表示の枠内に記載することができません。このような成分は、科学的根拠に基づき、事業者の責任において、栄養成分表示と区別し、栄養成分表示に近接した箇所に表示することが望ましいとされています(図1:例4)。栄養成分表示の活用方法
食生活の評価
栄養成分表示を活用することで、自分の食生活を評価することができます。一例として、朝食として「菓子パン・牛乳」、昼食として「唐揚げ弁当・ポテトサラダ」、夕食として「チャーハンと餃子・野菜サラダ」を食べた場合の評価手順を紹介します(表3)。
Step1
食品ごとに栄養成分表示を参照して、エネルギーや栄養素摂取量を書き出します(表3-1)。このとき栄養成分表示が「1食分」ではなく、「100 gあたり」になっている場合は、1食分の量に換算してください。
Step2
栄養成分の量をそれぞれ合計します(表3-2)。Step3
たんぱく質、脂質、炭水化物の合計量をエネルギーに換算します(表3-3)。栄養成分1gあたりのエネルギーの換算係数は、たんぱく質で4kcal,脂質で8kcal、炭水化物で4kcalです。Step4
求めた換算エネルギーが総エネルギーに占める割合を計算します(表3-4)。表3ある1日に食べた食品の栄養成分表示(例)
食品名 | エネルギー |
たんぱく質 |
脂質 |
炭水化物 |
食塩相当量 |
||
1 | 朝食 | A:菓子パン |
360 kcal |
7 g |
20 g |
38 g |
0.6 g |
B:牛乳 |
140 kcal |
7 g |
8 g |
10 g |
0.2 g |
||
昼食 | C:唐揚げ弁当 |
727 kcal |
29 g |
27 g |
92 g |
3.6 g |
|
D:ポテトサラダ |
125 kcal |
1 g |
9 g |
10 g |
0.8 g |
||
夕食 | E:チャーハンと餃子 |
924 kcal |
31 g |
24 g |
146 g |
6.1g |
|
F:野菜サラダ |
14 kcal |
1 g |
0.2 g |
2 g |
0.0 g |
||
2 |
合計 | 2290 kcal |
76 g |
88 g |
298 g |
11.3 g |
|
3 |
栄養成分のエネルギー換算 | 304 kcal |
792 kcal |
1192 kcal |
|||
4 |
栄養成分の総エネルギー比 | 13.3% |
34.6% |
52.1% |
STEP5エネルギーの摂取量をチェック!!
国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギーや栄養成分の基準は、「日本人の食事摂取基準」(参考1)に定められています。この基準によると、体重当たりのエネルギー必要量は、成人でおおむね30~40 kcal/kg体重/日とされています。体重を60 kgとすると1800~2400 kcalが必要エネルギーになるので、例示した食生活は概ね適切なエネルギー摂取ができていると言えます。なお、一日中机に座っている人と激しい身体活動を行う人とでは必要とされるエネルギー量は異なります。詳細は「日本人の食事摂取基準」でご確認ください。
STEP6栄養成分の摂取バランスをチェック!!
「日本人の食事摂取基準」によれば、各栄養成分の総エネルギーに対する割合が、たんぱく質で13~20%、脂質で20~30%,炭水化物で50~65%となるように摂取するのが良いとされています。また、食塩の摂り過ぎは生活習慣病の原因とされており、男性で7.5 g未満、女性で6.5 g未満にするのが良いとされています。例示した食生活は、脂質と食塩の摂り過ぎと考えられます。食生活の改善方法
栄養成分表示は食生活の改善にも活用できます。表3の食生活は脂質と食塩の摂り過ぎでした。脂質と食塩両方を一度に改善しようとすると複雑になるので、食塩の摂取量は適切だったと仮定して、脂質の摂取量を減らすことに絞って考えてみます。
脂質以外の栄養成分の摂取状況は概ね適切なので、脂質以外の摂取量は減らさない方向で考えてみましょう。脂質量の多い食品は、A(菓子パン)・C(唐揚げ弁当)・E(チャーハンと餃子)ですが、このうちの1つを他の食品に置き換えたいと思います。脂質量が少なめの食品として、“おにぎり(エネルギー 178 kcal,たんぱく質5.6 g,脂質1g,炭水化物37 g)”はどうでしょう。今回は脂質以外の栄養成分量が比較的近いA(菓子パン)と置き換えてみます。置き換える前後で脂質の摂取量は、図2のように推奨される栄養バランスの範囲内に収まりました。
食塩の摂取量を減らす場合は、同様にして食塩量の少ない食品に置き換えてください。自分で食塩の使用量をコントロールできる自炊に切り替えるのも良い方法です。
図2食生活の改善事例(菓子パンをおにぎりに変更)
今回は食生活の実態を元に改善を考える方法を紹介しましたが、先に必要エネルギーと栄養成分バランスを決めて、たんぱく質、脂質、炭水化物でそれぞれ何g摂れば良いかを考える方法もあります。
おわりに
栄養成分表示は、消費者がより良い食生活を送るための一助となるよう制度化されたものです。今回ご紹介した活用方法はその一例にすぎません。いろいろ工夫して上手に活用してみてください。また、栄養成分表示が有効に機能するためには、表示が適切に行われていることが重要です。現在、大阪健康安全基盤研究所では、表示量が適切であることの確認検査を実施するため、検査体制づくりを進めているところです。参考資料
参考1:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
お問い合わせ
衛生化学部 食品化学1課
#食品化学1課は,2023年1月より食品安全課と食品化学課に再編されましたので,
当記事へのお問い合わせはメールでお願いいたします。