コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 食の安全 > 身の回りの微生物~食品に生えるカビについて~

身の回りの微生物~食品に生えるカビについて~

皆さん、カビが生えた食品を食べてしまって、おなかを壊したり病気になったりしないか、心配になったことはありませんか。一方で、カビは昔から味噌やしょうゆ、お酒など、私たちの身近にある食品の製造にも利用されてきました。
今回は、身近でありながらあまり知られていない「食品に生えるカビ」についてご紹介します。

カビとは

カビは糸状の姿をした微生物(糸状菌)で、酵母やきのこなどとともに菌類(真菌)に分類されます。カビは菌糸を伸ばして広がり、胞子を形成して拡散します。細菌より大きく、菌糸を伸ばすと数mm以上の大きさになるため、肉眼で見えるようになります。

食品中でカビが発育する条件

1.温度

多くのカビが15~30℃で活発に発育します。そのため、これより低い温度あるいは高い温度にすることで、食品にカビが生えるのを遅らせることができます。しかし、低温でもカビはゆっくりと発育することができるため、野菜などを冷蔵庫に長期間保管しているとカビが生えることがあります。

2.水分

微生物が利用できる食品中の水の割合を水分活性(water activity; Aw)といいます。多くのカビは水分活性が高い食品(パン、半生菓子、サラミなど)でよく発育します。そのため、食品加工においては塩や砂糖を多く加えたり、乾燥させたりして食品の水分活性を下げることで、保存中にカビや細菌などの微生物が発育するのを抑える工夫がされています。ただし、一部の乾燥を好むカビは、水分活性が低い食品(乾燥果実、穀類、香辛料など)でも発育します。

3.酸素

カビは酸素がないと発育できません。そのため、食品を包装する際に脱酸素剤を入れたり、真空包装にしたりして酸素が不足した環境にすることにより、カビの発育を抑えることができます。しかし、ひとたび開封して空気に触れると、再び発育を開始します。

4.水素イオン濃度(pH)

一般的なカビはpH4~6の弱酸性域でよく発育します。食品中で発育可能なpHの範囲はカビの種類によって異なり、食品の水分活性や温度など他の条件によっても変化します。

5.栄養(炭素源、窒素源)

カビは光合成をしないため、発育するために必要な糖などの栄養源を外部から取り込みます。なお、カビの種類によっては、ガラスやプラスチックの表面などに付着した垢やほこりを栄養源にして発育するものもいます。

苦情事例が多いカビ

カビの苦情事例が多い食品として、菓子類、飲料、パン、野菜や果実およびその加工品などが挙げられます。検出されるカビとしては、ペニシリウム属(Penicillium spp.; アオカビ)やアスペルギルス属(Aspergillus spp.; コウジカビ)、クラドスポリウム属(Cladosporium spp.; クロカビ)などが多くみられます。これらは環境中のどこにでもいるカビで、食品工場でも頻繁に検出されることから、食品の製造工程などで付着したカビが、流通過程において何らかの理由により発育してしまったと考えられます。

 kabi-1

写真1)饅頭に生えたカビ(Aspergillus属、Cladosporium属)
写真2)パンに生えたカビ(Penicillium属)
写真3)麺に生えたカビ(Cladosporium属)

カビ毒による問題

カビに汚染された食品がヒトへ健康被害をもたらす要因のひとつに、一部のカビが作りだすカビ毒(マイコトキシン)があります。カビ毒によるヒトへの健康被害は、汚染された食品を食べて数日のうちに起こるのではなく、それを長期的に食べ続けることにより起こります。現在の日本において、国産食品からカビ毒が検出されることはごく稀ですが、輸入穀類や香辛料などでカビ毒が確認されています。そのため、カビ毒に汚染された食品が国内に流通しないよう、輸入の際には検査が義務付けられています。

表:主なカビ毒と産生するカビ(規格基準のあるもの)

カビ毒

主な食品

産生するカビ

毒性

アフラトキシン類
(B1、B2、G1、G2、M1、M2)

ナッツ類、穀類、香辛料、牛乳

Aspergillus flavus
A. parasiticus
A. nomius

肝がん、肝障害、免疫毒性

トリコテセン類
(デオキシニバレノール、ニバレノール、T-2、HT-2など)

麦、米、トウモロコシ

Fusarium

消化器系障害、免疫毒性、IgA腎症

パツリン

りんご、りんごジュース

Penicillium expansum
A. clavatus

浮腫、出血、けいれん


食品のカビ検査

カビの検査では、汚染原因となったカビの種類を同定(分類学上の名前を決定すること)します。カビはその種類ごとに特徴的な形態を示すため、同定では形態観察が重要となります。対象のカビを寒天培地で培養し、発育した集落(コロニー)の色や形状を観察します。さらに顕微鏡下で観察して、菌糸や胞子の形態的特徴から、カビの名前(属あるいは種)を推定します。正しく同定するためには、ある程度の知識と経験が必要になります。一方でカビは発育に時間がかかり、形態的特徴が表れるまでに5~7日程度を要します。そのため、近年は迅速性や客観性の観点から、カビのDNA塩基配列を解析することにより同定する方法が用いられています。 

kabi-2

図:Penicillium属の胞子(分生子)

もしカビが生えてしまったら

食品にカビが生えてしまったら、食べずに捨ててください。カビの生えた部分を取り除いて食べることもおすすめしません。目に見えるカビを取り除いても、食品の内部に目に見えないカビの菌糸やカビ毒が残っている可能性があるからです。また、カビ毒は熱に強く、加工・調理しても毒性がほとんど失われません。ただし、カビ毒を作るのはごく一部のカビで、ほとんどのカビは作りません。また、カビ毒に汚染されたものを食べたからといって、すぐに健康被害が起こるわけではありません。このため、もし食べてしまっても、過剰に心配する必要はありません。消費期限内で未開封の加工・調理食品にカビが生えているのを見つけたら、製造元に相談されると良いでしょう。

その他、家の中にカビが生えてしまったら、アルコールなどで表面の黒い部分をそっとふき取ることが有効です。完全に除去するためには、塩素系漂白剤などを用いて根っこから殺菌することが必要ですが、黒い部分を除去するだけでも胞子が飛散するのを防ぐことができます。

参考資料

「食品・施設 カビ対策ガイドブック」社団法人日本食品衛生協会 発行

食品のかび毒に関する情報/農林水産省ホームページhttps://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/kabidoku/index.html

お問い合わせ

微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368